セレナーデ
〜グラフィティシリーズ〜

作:秋月和至(おうぢ)さん

〜Hikaruパート〜


夏。夏。夏。夏といえば高校野球。
断じて、さっかーではないんやで。
まだまだ、野球は日本のお家芸なんやで。
はぁ、こないな事いうてるから、ハルに、
「最近考えが、おっさん臭いぞ。」
なんて言われるやろうなぁ。
悪いけどなぁ。これが性格やからしゃーないねん。
なにはさておき、明後日の試合、勝てれば、いよいよ決勝や。
エースの今井が、好投してるから、大丈夫や。
たしかに、自分の出番がないっちゅーのも、寂しいし、悔しいけどな。
せやかて、チームが勝たんとあかんねん。
自分の出番は、絶対来る。そん時に全力がたせたらええねん。
そう思っとった。
昨日までは…………。
「今井が、怪我をした。明後日の試合頼むぞ、松岡!!」
先輩達に肩を叩かれた。
今井の突然の怪我。練習中の接触により、肩の脱臼。
よりによって、そんなんで俺の出番が廻ってくるなんて、思うてなかった。
しゃあない、俺がどうやって、明後日の準決勝投げるかや! それが俺と、チームの勝敗を分けるんや。

「ヒカル君。」
帰り道、家の近所の公園に差し掛かったとき、 珍しく心配そうな顔のトモエ。
こいつ、いっつも笑ってるからなぁ。
今日は、シリアスモードはいったんか? でも、なんもないよなぁ?こいつがシリアスにならなあかんことなんか。
「なんや?トモエ。」
俺は、隣に歩くトモエを見る。
「ヒカル君は、なんでも考え込みすぎやねん。」
俺の方を見ず、前を向いたまま、トモエはそう言った。
たしかに、俺は考えすぎやとも思う。
ハルみたいに、自分を素直にだされへん。
でもな、トモエの前やと、素直でいられるんやで、ほんまにな。
「…………怖いねん。」
俺の小さな呟き。
「えっ?なに?」
意外な言葉を聞いたという顔を俺の方に向けるトモエ。
髪が、小さく揺れる。
「怖いねん、俺。明後日投げるのが。」
吐き出すような言葉。
「冷静になろう、そう落ち着こうと思えば思うほど、怖いねん。
打たれるんやないやろか、チームに迷惑かけたらどないしよう。
全然俺なんか通用せえへんのちゃうか?と考えてまうねん。」
ギュッと、右手を握りこぶしにする。
「ヒカル君。大丈夫やて、心配しててもしゃあないやん。
ヒカル君が全力をだせば、きっと勝てるって。
万が一負けたら、 私が慰めたるから。」
その俺の手を、小さな手が握り締めた。
「ありがとな、トモエ。」
俺は、隣にってとるトモエを、ゆっくりと抱きしめた。
「ヒ、ヒカル君。ちょ、ちょっと。」
トモエ声をききながら、華奢な体の背中に腕を回す。
なんか、心が落ち着くわ。
ほんま、俺、トモエの事好きやと思うわ。
「トモエ、好きやで。」
思いがけない一言に、トモエは顔を赤らめさせた。
「あ、私も好きやで、ヒカル君。」
そして、トモエは、大きな瞳を閉じた。
俺は、周りに誰もおれへんおんか目配せして、 ゆっくりと、トモエに顔を近づけたが、その時。
ガサッ!!
「誰や?!」
とっさに、草むらでも隠れ様とでもしたんか、 同じクラスの、堂本 莢が、草に足を突っ込んだまま、 硬直して、そこに立っとった。
「なにやってんねん。堂本。」
俺は、呆れた声をたした。
「そっちこそ、こんな夕暮れの公園で、なにやってんよ。」
慌てふためく堂本。
なんや怪しいなぁ。
そもそも、堂本の家って、こっちと違うかったんちゃうかぁ。
そや、こいついっつも裏門から帰ってるから、全然家逆やん。
騒がしく帰るから、目立つねん、こいつは。
「あ、俺らはやなぁ。こう、愛をはぐくんでるんや。」
ぎゅっと、トモエを抱きしめた。
まぁ、たまにはこういうのもいいやんなぁ。
カレシの役得っちゅーもんや。
「ええ、あの、ヒカル君。」
慌てふためく、トモエ。
こーゆーとこも、かわええなぁ。
「かぁ〜。なんやそれ!!やっとれんわ!!」
地団駄踏む、堂本。なんやねんな。
「あぁ〜。そらあんたらは、学校公認の仲の良さやからなぁ。
やっとれんわ。かえろ。」
こっちにずかずか歩いてきよる。
そやな、こいつの家は、反対やしな。
「あ、そや。」
俺は、ふと思い出した。
「なんよ?」
俺の三メートル手前ぐらいで立ち止まる堂本。
「おまえんち、こっちちゃうやん。全然反対やのに、何やってんねん。」
俺は、トモエから、体を離すと、そう言った。
「そうやね、サヤちゃん、家逆やんねぇ。」
トモエも、同意して、肯く。
「え、あ、な、まぁ、私かて、いろいろ用事があるねん。あんたらには、関係ないやん。」
あからさまな動揺しよる堂本。こらなんかあるなぁ。
かまかけたろか?
「まぁ、この辺は俺とか、ハルみたいな奴がおるからなぁ。
まぁ、ファンの子はよくあるいてるなぁ。
何してるんかはしらんけどな。」
俺は、笑みを浮かべた。とびっきりの嫌な笑みを。
「ちょ、ちょっと。」
何か言おうとした、トモエを、手で制す。
「な、なに言うてんの? 自惚れも、そこまで言えるとすごいなぁ。
ハル君のファンは、多いけど、あんたのファンは少ないやん。
トモエちゃんがおるのんすでにわかってるんやから。」
へーぜんと答える、堂本。
「じゃぁ、お前はハルが目当てな訳やな。」
俺がまた、へーぜんと返してやる。
「へっ?変な事言わんといて、私帰るから。」
そう言うと、堂本は隣を走り去って行く。
「失敗したか?」
俺は、ポツリと呟いた。
「ヒカル君、あれは、サヤちゃんにひどいで。」
トモエは、真顔で言った。
怒ってるなぁ。これは。
「あんな、トモエ。俺は堂本にちょう、かまかけてん。」
「えっ?」
「あいつ、なんかあからさまに動揺しとってん。で、ちょい思ったんや。」
「なにを?」
トモエは俺の眼を見つめる。
「ハルに、気があるんやないかて。」
「そ、そんなんある訳ないやん。」
意外な言葉に目を丸くするトモエ。
「そうかなぁ?」
「そら、ヒカル君の考えすぎやで。明日、サヤちゃんに謝るんやで。」
ビシッと、トモエに指を指される。
「おお、うんわかった。」
こうして、夕暮れの時間が過ぎていく。

次の日、堂本に俺は謝った。意外にも、
「そんなん気にしてへんよ。あんたがかまかけてきたから、のっただけや。」
向こうの方が一枚上手かいな。
そら、俺の負けですわ。

で、いよいよ試合の日がやってきたんや。
よく晴れた空。今日は気持ちも落ち着いてる。
やれる!俺は大丈夫や。
「おはよう!ヒカル君。」
玄関先に、トモエが立ってる。
見慣れた風景。試合前の儀式。
「お前の為に、今日の試合戦うよ。」
俺の思い全部込めた言葉。
「うん。信じてる。」
笑顔。たまらなく好きな、トモエの笑顔。
もう、なんも怖あらへん。
いくで!!
俺は、トモエと並んで歩きだした。



Fin.

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