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暗闇の中の光。 一見矛盾するこの現象を一体なんと呼ぼう。 「いま、何時ごろなのかしらね・・・」 一定の間隔で流れ落ち、その音の数に集中することで正気を保つ。 絶え間なく体をしばりつける鎖と心臓を監視しているリング。 普段、なんの気なしに動いているもの、と決め付けているが、いざ、こうして存在を否応無く確かめさせられると、その重要さ、休み無く脈打つ不思議さに感謝したくなる。 痛みなんか大嫌いなのに・・・。 それなのに、そこから落ちる雫で意識を残しているなんて皮肉以外のなにものでもないだろう。 「なあんでこんなことになったんだか・・」 滴り落ちる血の、ほんの一瞬だけ反射していく光をみながら、リナはぼんやりと呟いた。 誰が聞くわけでもないその言葉は闇に吸い込まれていくが、そんなことはどうでもいい。 たった一人。ともすれば狂いがちな空間で、まだ声をだせると確認することは精神上、非常に必要だった。 「まあったく、ありがたくもない二つ名を持つこのリナ=インバースともあろうもんが、なーんで大人しくつかまってなくちゃならないのよ」 唇を噛み、おもうようにまかせられない精神に歯噛みする。 『魔法に必要な集中力は、およそ体調と密接な関わりがある』 以前、どこぞの家に雇われて仕事をしたとき、たまたま組むことになった自分より年上の魔導師が自分のつっぱしりようを見て、苦笑交じりに言った言葉。 はっきり言ってどこがぶち壊れようが関係なく攻撃呪文を繰り替えし、その見境なさで屋敷が崩れ、危うく大怪我をしそうになったときだった。 そのときはかすり傷ですみ、なんの影響もなかったので、なんて当たり前のことを、と思ったものだが・・・・。 所詮、わかったつもりだったのね。 何かに必死にすがっていないと途切れる意識。 いままでにも何度も死にそうな目にはあってきた。 瀕死の状態から必死で呪文を唱えたことだって、二度や三度じゃない。 けれど、あのときは闘う相手が目の前にいたから出来たことだったのか。 痛みのためか目はかすんで役にはたたない。 体を動かすことなんで至難の業だ。 魔法の発動など、『光』さえ無理。 まあ、それは集中力のせいだけじゃないけど。 『あなたの体は今までのつけが出始めている。』 言われたのは、例の事件で瀕死の重傷をおい、それでもなんとか回復してベットで確認のため検診を受けていたときだ。 その医者は、リナの体を診断し終えると、『肉体的にはもはや異常は見当たらない』と言った後、まじまじとリナを見つめた。 真剣なその表情に、体は治った、他に何か重要なことがあるのか、と茶化していってみた。 だが、医者はそんな自分の言葉に頓着せず、ゆっくりと、子供に言い聞かせるように所見を述べてくれた。 『あなたは今まで、人の身には大きすぎる力を使ってきた。 それがなんなのか、私には聞くつもりはありません。 魔法を使う、ということは、カオスワーズを契約の言葉として、異なる世界とつながりをもち、魔力を媒介にして、その力を引き出すこと。制御はあくまで貴方自身の力、生命力といいかえてもいいですが、それが必要だった。 しかし、そのために、あなたの体は常に限界を超えていた。小柄で華奢。あるいは、女ゆえの限界といいかえてもいいかもしれません。これは、人の体が器をもち、それにともなった体力しか持たない以上、しょうがないことです。 それなのに、今、あなたの体はその魂を体に止め置ける、それだけの体を保つことに必要なだけの生命力しかない。 生命維持に関しては何の問題もないでしょう。 けれど、魔法を使うことは、せめて通常の体力を戻すまでは控えなければいけません』 そんなことは無理だ。自分は自分である以上、魔法とはきってもきれない関わりがある。 ましてや、使いたくなくても、自分は厄介ごとに巻き込まれる星のもとを歩いている。そんなこといっていられない。 『命がおしくはないのですか?』 どっちにしろ、お命頂戴、などといっているやからに、命おしさに魔法を使わなければ本末転倒だろう。 『・・・・・・・・・・それはそうですが』 だから、しょうがないでしょ? わらってそういったら、その医者は、しばし考えた後、一つの妥協案を出してきた。 『わかりました。あなたに魔法を使うなということは不可能だというなら、私も最早何も言えません。 けれど、同時に私は医者なので、あなたが類稀なる魔導師ということをわかったいても、命をみすみす削っていくのを黙って見ていることはしたくないんです。 だから、一つ、約束事をつくりませんか?』 約束? 思わず首を傾げたが、それだけで医者に対する不審はなかった。 あまりにも真摯な瞳をみたからかもしれない。 『ええ。 あなたは命を捨てる気はない。 けれど、命を狙う輩から身を守ることもしなければならないから、魔法を使う。 それなら、補助をつければいい。』 補助? 『そうです。 さっきも言ったように、あなたの生命力はその体を維持していくのにぎりぎりです。 ですが、その体力も、日がたつにつれて、じょじょに回復はします。 まあ、急激に、ということはないですが、ですからそのぶんを、いざというときのための補助として、ある場所にためておくんです。 ものでもいいし、暗示をかけて、普段はつかえないようにしてあなたの体にそのまま止め置いてもいい。 そして、いざことが起きればそれを解放し、その体の生命力代わりに使うんです。』 初めて聞いたわ、そんなこと。 ちょっぴり魔導師としての知的好奇心もあって、あたしは医者のほうに身を乗り出した。 そんなあたしに医者は茶目っ気たっぷりに笑った。 『ですが、この理論、まだ実行した人はいないんですよねえ。 もし実行してくれるとしたら、リナさんが実験第一号ってやつで。 それでもやりますか?』 無茶苦茶不安だけど・・・・・・まあ、それで命が助かる可能性があるとしたらしょうがないか。 やってみるわよ。 『はい、では詳しいことをお話しましょうか』 そして、現在のリナは、キーワードを解除の鍵としてある空間に力をため、いざとなったらその空間の生命力を使うという、はなはだ不安定な魔法の発動しか出来なくなっている。 もっとも、魔法を使って、そのままあの世とやらに行く気なら話は別だ。 まだよ、まだチャンスはあるはず。 リナは、命をむざむざ捨てる気はさらさらなかった。 限りある力を有効に。 使うときは、ほんとうに自分がきちんと彼女から脱出できる時だ。 そのためには・・・・ 「ガウリイ・・・あんた、いまどこにいんのよ・・・」 おそらく、今、必死になって己を助けようとしている相棒。 待ってるから、そのときを。 リナの無言の誓いをそのまま、・・・・・・・・・・闇はまだ動かない。 |