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宛がわれた宿は、予想より上等なものだった。案内してくれたタイラーによると、警備隊員の中の一人が、この宿の息子なのだという。なるほどね、とリナは意味ありげに頷いていた。 「あの警備隊長、なかなか抜け目のない人みたいね」 「そうなのか?」 これまた警備隊長の計らいで用意されていた豪勢な食事を楽しんで、部屋へと戻る途中の廊下で。 リナが面白そうに言った科白に、ガウリイはきょとんとした。 ぴっぴっ、とリナが指を振って見せる。 「そうよ。要するに、あたし達を監視しやすい場所に泊まらせたってことじゃないの」 「あ、なるほど」 まあいいけど、とリナは肩を竦めた。 「犯人は分かってるんだし。その、グラントとやらが捕まれば、ハッキリするでしょ」 「そうかぁ? そんなに簡単に終わるかなあ」 ポツリと呟いたガウリイに、リナがおや、と眉を上げた。 「ガウリイも引っかかることでもあるわけ?」 「何だ、お前さんもか」 「まあね」 これ以上の立ち話はまずい。判断したのか、リナはガウリイを自室へと招いた。 「で? ガウリイは何が引っかかったの?」 「いや、大したことじゃないんだが……」 部屋に入った途端に問われて、ガウリイはぽりぽりと頬を掻いた。 「何て言うか……オレには、女の人が刺されたっていうより、女の人が男を襲っていた――ように見えたんだよな」 「あ、やっぱり?」 ガウリイの発言に、リナはにやりとした。ぼすん、と勢いよくベッドに腰を下ろしながら、 「あんたにもそう見えたんだ」 ガウリイは目を丸くした。 「ってことは、リナもか。 その割に、警備隊の人には何も言ってなかったな」 「だぁって」 リナは肩を竦める。 「あの警備隊、誰も彼もステイシーさんの味方みたいだったから。余計なことは言わない方がいいと思ったのよ。 『揉み合っていた』って言っておけば、間違いはないでしょ?」 面倒事は御免だ、とばかりに、リナ。 「まあ、襲われてたのが男の方だったにしろ、あたし達が犯人呼ばわりされるんじゃなきゃ、関係ないわ。 被害者は五日も前から行方不明だったってことだし、最期に言っていた『ごめんなさい』ってのも気になるし、男が自分の短剣を持っていたってことは、ステイシーさんが持っていたのは彼女自身のナイフってことになる。 パターンからして、結婚前の女性が後ろ暗い過去の清算に走った、ってとこじゃないの?」 「おいおい」 およそ少女らしからぬゴシップ的な憶測に、ガウリイは眉を顰めた。それを見て、リナが唇を吊り上げる。 「あら、誰だって人に知られたくない過去の一つや二つ、持ってるもんでしょ? 特に女には秘密が多いんだから。 あたしだって、叩けば埃が出てくるかもよ〜?」 言って、ふざけ半分にパンパン、と自分の上着を叩いて見せ――ぽろり、と本当に服の袷から何かが零たことに、二人は目を丸くした。 「何だ? ホコリか??」 「なっ、ンなわきゃないでしょっ!?」 思い切り否定しながら、転がり落ちたそれを探る。ベッドの影に苦労して拾いあげた、それは。 「……指輪……」 一目で高価と分かる品だった。シンプルだが、よく見れば流麗な透かし彫りがぐるりとリングを一周している。中央に据えられているのは、小さいが鮮やかな深紅の石。ランプの乏しい明かりの中でも、存在感を薄れさせなかった。 「えっと……リナの、じゃないよな?」 「多分……盗賊いじめの戦利品は、全部換金しちゃった筈だし……」 頭の中でお宝を勘定していたらしいリナの顔色が、ハッと変わる。 「ま、まさかステイシーさんのじゃ……!?」 「へ?」 「だって彼女、最期に指輪がどうとか言ってたじゃないの!」 そうだっただろうか? ガウリイは既に覚えていなかったが、それよりも。 「そうは言うが、お前さん、指輪が服に紛れるような暇なんてあったか? くすねたりしない限り、そんなところに指輪なんて――」 「だああああっ! いくらあたしだって、殺人事件の被害者の遺品なんてくすねたりしないっての!」 「いや、お前さんが言っても説得力が――」 「やかましい!」 一喝して、リナは鼻を鳴らす。 「とにかく! 問題は、あたしの言ってることを警備隊の連中が信じてくれるかってことよ。 ああもう、厄介なことになっちゃったわね」 ばさりと髪を掻き揚げて、リナは溜息をついた。 「こうなっちゃったもんは仕方ないわ。 これは明日、警備隊長さんに渡す。どこまで信じてくれるか分からないけど、ありのままを話すしかないでしょ」 「だな」 そこで、今夜の話し合いはお開きになった。 ガウリイはリナにおやすみを言い、リナも片手を上げてそれに答える。 次の日もまた、同じように笑って『おはよう』を言い合えることを疑いもせず、ガウリイはリナの部屋の扉を閉めた。 |