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額を寄せ合っているのはリナ、侍女頭エスター、侍従長トーマス、親衛隊長ジェイコブの4人であった。 「つまり例のお菓子が掏りかえられたルートは不明ということになりますわね」 「ですが、捜査だけは続行してください。どんな情報が得られるかはわかりませんから」 「それにしても、よく毒が混入されていることがわかりましたね」 「昔ちょっと姉ちゃんに鍛えられたので」 リナは事も無げに言ってのけたが、内容はなかなか剣呑だ。 「そ、そうですか」 引き攣った顔でジェイコブが答え、ちょっぴり冷え込んだ部屋の温度を上げるかのようにエスターが明るくしゃべった。 「で、でも。本当にリナさんがいてくださってよかったわ。もし毒入りのお菓子をアリエル様が少しでも口になさっていたらと思うと」 「全くだ。それに比べたら頭上に花瓶が落ちてくるくらい、まだ可愛げがある」 「うーむ、すり替えたのではなく、魔法でお菓子にこっそりと毒を混入することはできんのですかな?」 初老のトーマスは、魔法を何でもありだと思っているのだろうか。 「無理です。もしかしたら可能なのかもしれませんが、あたしにもできない真似を連中がやってのけられるとは思えません」 その顔は確信に満ちていて、つまりリナの力が敵を凌ぐという事実で、三人は頼もしく思う。 「それにしても、魔法の匂いがするのは確かだけど」 「けど?」 「そうですね、なんというか、ちゃんとした魔法っぽくないんですよ、今までのやり口が。魔道士にしてはちゃちいな、と。単に魔法をかじっただけの人間、というほうがしっくりきます」 それっきり口をつぐみ、リナは何事か思案にふけった。 夕方の、少し手の空いた時間を見計らったように、リナを捕まえた人物があった。アリエルとそしてアレスの兄、アランであった。 「今日はありがとうございました」 ぽつんと抑揚なく放たれた言葉は、真摯に響いた。 「仕事ですから」 リナのそっけなさにアランが苦笑する。 「ところで」 声音が変わるのを感じ取り、リナはこれからが本題であることを悟った。 「アレスが何か失礼をしてませんか?」 探る視線がリナを捉えた。 「失礼、とは?」 聞き返しつつ、リナは脳裏にアレスが訪れた夜を思い浮かべていた。見られないよう注意を払ったとアレスは言っていたが、人の目はどこにでもあるということか、それとも。 しばらく考え込むような素振りで、ゆっくりと口を開く。 「別に、特に何かされたという記憶はありませんが?」 記憶を手繰るように首を傾げてもみせた。 「そうですか」 「ええ、なかったと思います。アレス皇子がなにか?」 「いえ、いいんです」 わずかに安堵をにじませたその直後。 「あいつは少し世を拗ねたところがありまして。昔はお兄ちゃん子だったんですけどね」 そこにはひどく苦い笑みが浮かんでいた。 リナが気づいたのに気づいて、アランは表情を一転させた。 「ところでその指輪」 「へっ?」 「夫婦の演技に真実味を持たせるためのアイテムですか?それとも正真正銘ガウリイさんからの贈り物なんですか?」 「なっ、えっ!?」 「だって時々視界に入ると、幸せそうに微笑んでいるでしょう?だから気になってたんですよ」 意味もなくばたばたと手を振り、その拍子に目に入った指輪を見ては眼を泳がせるリナを、アランは面白そうに見守っていた。 「で、どっちなんですか?」 「あ〜〜〜う〜〜〜〜〜」 長く悔しそうにうめいた後、リナははっきりきっぱり、半分やけくそのようであったが、こう白状したのであった。 「両方です!!」 勢いよく叫んだ、もしかしたら潔いとあらわすのも可能かもしれない返事にびっくりしたのも一瞬の事。 アランはくすくすと笑った。 「ちょっと、いい加減にして下さい」 リナが抗議しても懇願しても脅迫じみた台詞を口にしても、笑い続けたのだった。 いくら脅されたって真っ赤に照れた顔では何の効果もなかったのである。 |