生まれた理由 生きる理由

-3-

作:しようさん


 カチャリとシルバーを机に置き、リナが口元を拭う。
「と、いうわけ。わかった?」
 食事バトル進行と同時に、午前中に受けた依頼の内容をガウリイに説明したのだが。
「ん〜〜〜。要するにお嬢ちゃんを守ればいいんだな?」
「ま、まあそんなところよ…」
 深くは突っ込むまい。どうせ無駄なのだ。依頼遂行中、体に覚えこませるしかないと、リナは半ば諦めの胸中にあった。
「食事が終わったら宿を引き払うからちゃっちゃと準備してよね」
「わかった」
 なぜ宿を引き払うのか、その辺りの理由も聞いたはずなのだが、ガウリイの頭からは既に消えてしまっている。とりあえず準備さえすればその後のことはまたリナが教えてくれるだろう。そう結論づけ、ガウリイは香茶をカップに注いだ。
 本当にわかってるんでしょーねと言いたげなリナの視線が突き刺さるが、ガウリイは平然としたものだ。
「なんだ?」
「…なんでもない」
 はあ〜〜〜っと、深く深く溜息をついて、リナは席を立った。
「あたし、お金の精算してくるから、あんたは先に部屋に戻っててちょーだい」
「おう」
 黒いマントに包まれた背中を見送って、ガウリイも席を立った。

 服が変われば人も変わる。それはリナとガウリイの共通する感慨であったろう。
 無駄に装飾が多い。ビラビラと意味もなく生地や金具がくっついているが、動きを制限するほどでもない。もちろん機能性は重視されているが、それと同じくらい装飾も重視されている。色はブルーでまとめられているのがせめてもの救いか。制服の下のズボンが白っぽくタイツのようでちょっと嫌だという点を除けばまあまあの許容範囲だった。
 ガウリイは一見すると、文句なしにハンサムな親衛隊員さんになっていた。
 着換えを済ませたガウリイの元へ、これまた着替えたリナが姿を現した。
 スカートが長い。どうせ歩く時は摘まんで歩くのだから、はじめから丈を短くすればいいのにというのがリナの本音である。侍女なんだからもっと動きやすい格好させてくれ、と。もちろんお姫様ドレスに憧れがなくはない。だが今回の場合、動きを制限されてしまう方が辛い。しかも装備の殆んどをはずしているせいか、妙に心許ない。自然と、困ったような落ち着かないような、見ているものの庇護欲をそそりそうな、微笑ましい雰囲気をかもし出していた。
 リナのぱっと見は、初心で可愛らしい侍女といったところか。
 視線が出会い、お互いの爪先から頭の天辺までを幾度となく眺め、しばし沈黙が流れた。
「あ、ええっと、そういう格好ならうん、間違いなく親衛隊員に見えるわ、違和感ないわね。よかったよかった」
「あ、ああ。リナもそうやってるとその辺のねーちゃんたちと同じに見えるな」
 どっちもどっちだ。褒めているのでもけなしているのでもない感想を言いあって、二人は侍従長の案内に従った。

 謁見の間などという格式ばった場所ではなく誰かの私室という趣のある部屋で、二人は皇族の面々と対面していた。
「ようこそお二方。お噂はかねがね聞き及んでおります」
「光栄です」
 リナは内心、気さくな陛下だと感心しながらも、そんな素振りは露ほども見せない。
 護衛の対象たる皇女の姿はない。さもありなん。10歳の少女に、わざわざ自分が狙われているのだなどと教えるのは酷な話だ。
 両親とその兄たちは、やはりどこか顔立ちが似ていた。件の皇女もさぞ愛らしいに違いないと思わせる、顔の整った一家だった。
 気難しそうな顔つきながらも、よくよく見れば穏やかで優しい瞳の父親。おっとりとした上品な母親。世継ぎだけあってしっかりした様子の兄。どこか気の弱そうな弟。典型的な幸せ皇族の象徴図をみているようだと、リナは頭の隅で考えた。
「詳細はそこの親衛隊長にお聞きください」
「どうか娘を、娘をお願いいたします」
 縋るような瞳で見つめられて、リナはいささか居心地が悪かった。何しろ、最初この依頼には乗り気でなかったのだから。
「ええ、全力を尽くします」
 安心してくれと、安請け合いは出来なかった。どんなに守るつもりでも守りきれないものだってあるのだ。リナはその現実を知る故に。だが。
「大丈夫です、ちゃんと守りますよ」
 リナから一歩下がって控えていたガウリイが頼もしい口調で宣言した。驚き目を瞠るリナにふわりと微笑んで。
「そうだろ?リナ」
「え、ええ。もちろん」
 つられてリナもそう答えていた。
 守りきるつもりで守らなければちゃんと守れないぞ?最初から守りきれないかもしれないなんて思ってたら、そこで守りきれる可能性は低くなるんだろ?と、退室時にそっと囁いたガウリイの言葉は、リナの心の翳りをほんの少し、ほんの少しだけれど吹き飛ばした。
「ところでリナ、俺達なんでこんな格好させられてるんだ??」
「アホかーーーッ!!」
 光速でスリッパ攻撃が炸裂した。
「お、おまえ、ここでもそんなモン持ってるのか??」
 頭を押さえたガウリイが、痛みより何よりそこに驚いていた。
「ふんっ。だって、絶対必要だと思ったんだもん。今まさにあたしの予感は的中したし」
「あ、あはははは」
 二人のやり取りを遠巻きに眺めていた侍従長は、限りなく不安を覚えたとか何とかいうことである。







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