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第四幕
『晩夏』

第29話


作:千菊丸さん
「ルドルフ様、私はあなたの妻にはなれません。」
エリザベスはそう言ってルドルフに頭を下げた。
「何故です?理由をお聞かせください。」
「私はあなたの未来が・・絶望に満ちたものばかりに見えるんです。」
ルドルフは、眉間にしわを寄せた。
「私には人には見えない物が見えるのよ。ルドルフ様、私はあなたとの未来に希望が見えないの。だから、あなたとは結婚できません。」
エリザベスはそう言ってルドルフに背を向け、フランソワとともに歩き出した。
「全く、ひどい振られ方だな・・」
ルドルフは壁にもたれかかって笑った。
「お嬢様、これからどこに行くんです?」
「さあ、わからないわ。」
エリザベスはフランソワに向かって微笑んだ。
「お前と一緒なら、どこだっていいわ。」
1889年2月5日 ウィーン
皇太子が男爵令嬢マリー=ヴェッツラとマイヤーリンクで心中してから5日後の今日、葬儀が行われたカプツィーナ教会には、弔問の列が絶えなかった。
その中に、エリザベスとフランソワ、そして2人の息子・ウィリーがいた。
「ねぇお母様、あの中には何があるの?」
「あの中にはね、お母様を愛してくれた人が眠っているのよ。」
エリザベスはそう言って息子に微笑んだ。
彼女はルドルフに捧げるため、赤い薔薇の花束を持っていた。
「フランソワ、お前は来なくてもよかったのに。そんなに私と幸せになったところをあの人に見せつけたいの?」
「まぁ・・そうかもしれませんね。」
フランソワはそう言って笑った。
「お前って性格曲がってるのね。」
エリザベスは呆れながら、ルドルフの棺へと進む。
ルドルフは棺の中で永遠の眠りを就いていた。
エリザベスは棺の中で眠るルドルフを見ながら、短い間に彼と過ごした日々のことを思い出していた。
もしルドルフが自分と結婚していたら、彼はまだ生きていただろうか?
自分と同じ孤独な魂を持ったルドルフ。
自分なら、彼を癒せたかもしれない。
だがルドルフの未来には、絶望と死が見えた。
彼は死ぬ運命にあったのだ。
「ルドルフ様・・私とともに生きていたら、あなたは新しい世界を作っていたかもしれないわね。」
エリザベスは薔薇を棺に供えた。
「さようなら、ルドルフ様。」
教会の外に出ると、雪が降っていた。
「皇太子様はお嬢様のこと、本当に愛していたんでしょうか?」
「さぁ・・」
エリザベスはフランソワの手を握った。
「もうすぐ新しい時代が来るわ。今まで見たことがない、世界が。」
エリザベスの予言にフランソワは不安そうな表情を見せた。
「僕達、大丈夫ですかね?」
「大丈夫よ、あなたがいれば。」
エリザベスとフランソワは手を繋いで歩いた。
2人の後を、ウィリーが慌てて追いかけた。
ウィリーは何かにつまずいて転んだ。
雪の中に光る物を見つけ、ウィリーはそれを拾った。
それは、ルドルフがエリザベスに贈ろうとしていたルビーの結婚指輪だった。
ウィリーはそれをコートのポケットに入れ、両親の元へと走っていった。





−第四幕『晩夏』・完−
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第四幕終了です。
ルドルフ様に薔薇を供えるエリザベスとフランソワを書きたかったので、書きました。
エリザベスが皇太子妃となっていたら、嫉み、そねみ、陰険、憎悪に満ちた宮廷で精神を病んでしまうでしょうね。
美輪明宏さんの本の中で、「嫉み、そねみ、陰険、憎悪、自己中心に満ちた者」を『魔界人』と呼ぶ、といってました。
宮廷はまさに、『魔界人』の集まりかもしれませんね。
エリザベスは人には見えない物が見える。
人の悪意に満ちた世界の中で、彼女は生きられないと知ったからルドルフ様を振った。
第五幕『炎の涙』は二部構成でいこうと思います。
第一章は第一次世界大戦のヨーロッパが舞台です。
主人公はエリザベスとフランソワの息子・ウィリーです。

第二章は太平洋戦争下の日本が舞台です。
日米ハーフの少女・花梨と、華族の御曹司・匡峰(まさみね)との恋物語です。

Novel&Message by 千菊丸さん


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