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ルドルフはホーフブルクの私室でエリザベスのことを想っていた。
皇太子という地位は、常に重責と息苦しさだけがつきまとう、苦痛以外の何物でもなかった。 病弱だったルドルフは、いつもそのことで周囲から自分の出生を疑われ、陰口を叩かれた。 『本当に陛下の子どもなのかしら?』 自分は誓ったのだ。 父のような皇帝になろうと。 そのためなら、どんなこともすると。 ルドルフは、寝台に倒れ込んだ。 シールに、黒く長い髪が一本あった。 エリザベスのもの。 ルドルフは髪の毛をハンカチ包み、引き出しにしまった。 「フランソワ、またウィーンに行くんだって?」 侍女頭のエルザがそう言ってフランソワに微笑んだ。 「ええ。お嬢様が来て欲しいとおっしゃられたので。」 「そうかい。お嬢様はあんたを気に入っているものね。」 そう言ってエルザはフランソワの肩を叩いた。 「あんたは結婚とか考えたことあるかい?」 「エルザさん、どうしたんですか?」 「あんた、お嬢様のこと好きなんだろ?」 エルザの言葉に、フランソワの頬が紅くなった。 「その様子じゃ、そうなんだろ?」 フランソワは頷いた。 「フランソワ、あたしはあんたがどれだけお嬢様のこと好きか知ってる。」 エルザはそう言ってフランソワの肩を叩いた。その表情は、少し悲しげだ。 「でもね、よく考えてごらん?あんたは孤児の使用人。お嬢様はオーストリアの皇太子妃となられる方だ。 どんだけ愛しても、お嬢様とあたし達の世界は違うんだ。そのことを知らないあんたじゃないだろう?」 「お嬢様が・・オーストリアの皇太子妃に?」 「ああ。なんでも皇太子様が気に入られたとかで。」 フランソワは後ろから頭を殴られたような衝撃を受けた。 「だからもう、エリザベス様のことは諦めな。」 エルザはそう言って厨房へと戻っていった。 フランソワは、しばらくそこに立ちつくしていた。 Novel&Message by 千菊丸さん |