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ルドルフとエリザベスは舞踏会を抜け出し、ルドルフの私室へと向かった。
ドアが閉まると、そこは密室だった。 「あなたと初めて会ったのはオペラ座でした。」 「オペラ座?」 エリザベスは眉をひそめた。 「ええ、あなたの美しさに目がくらみました。」 「ご冗談を。」 そう言ってエリザベスはルドルフにそっぽを向いた。 「その傷は?」 ルドルフはそう言ってエリザベスの背中の傷を見た。 「これは汽車で事故に遭った時にできたものですわ。」 ルドルフは令嬢や貴婦人達の噂話を聞いた。 ーあの方がロンドンからいらしたっていう・・ ーきれいな方だけど、背中の傷が・・ ーあの傷、使用人と駆け落ちする途中でできたんですって。 ー大胆な方ね・・。 ルドルフは傷のことをもっと聞きたかった。 しかし、エリザベスは何も語りたくないようだった。 自分のことは放っておいて欲しいーそう言っているかのようで。 ルドルフはカメオのネックレスに目を落とした。 「そのネックレスは?」 「これは母の形見ですの。このピンクの他に、ブルーのものがありますの。」 ルドルフの問いに、エリザベスは少し間を置いて話した。 「お母様は、どこでそれを?」 「母が亡くなる少し前、4人でコモ湖の別荘で行って、そのついでにナポリへ立ち寄って、母が気に入って買いましたの。」 エリザベスは母と過ごした最後の旅行のことを話し始めた。 コモ湖での日々、ヴェネチアでのゴンドラ遊覧の楽しさ、ローマでの騒動などを。 「イタリアから戻って3週間くらいして、母は逝きました。」 エリザベスはそう言って涙を流した。 「母は私のことを唯一、理解してくれた人でした。父は、私のことよりも仕事だけ。」 しゃくりあげるエリザベスを、ルドルフは背後から抱き締めた。 しばらく、部屋は沈黙が流れた。 エリザベスは机の上に置かれた時計を見た。 「もう帰る時間だわ。」 ドレスの裾を翻して、エリザベスはルドルフの部屋を後にした。 王宮からホテルへ戻る馬車の中、エリザベスの胸はざわめいていた。 Novel&Message by 千菊丸さん |