PURE

第四幕
『晩夏』

第14話


作:千菊丸さん
ルドルフとエリザベスは舞踏会を抜け出し、ルドルフの私室へと向かった。
ドアが閉まると、そこは密室だった。
「あなたと初めて会ったのはオペラ座でした。」
「オペラ座?」
エリザベスは眉をひそめた。
「ええ、あなたの美しさに目がくらみました。」
「ご冗談を。」
そう言ってエリザベスはルドルフにそっぽを向いた。
「その傷は?」
ルドルフはそう言ってエリザベスの背中の傷を見た。
「これは汽車で事故に遭った時にできたものですわ。」
ルドルフは令嬢や貴婦人達の噂話を聞いた。
ーあの方がロンドンからいらしたっていう・・
ーきれいな方だけど、背中の傷が・・
ーあの傷、使用人と駆け落ちする途中でできたんですって。
ー大胆な方ね・・。
ルドルフは傷のことをもっと聞きたかった。
しかし、エリザベスは何も語りたくないようだった。
自分のことは放っておいて欲しいーそう言っているかのようで。
ルドルフはカメオのネックレスに目を落とした。
「そのネックレスは?」
「これは母の形見ですの。このピンクの他に、ブルーのものがありますの。」
ルドルフの問いに、エリザベスは少し間を置いて話した。
「お母様は、どこでそれを?」
「母が亡くなる少し前、4人でコモ湖の別荘で行って、そのついでにナポリへ立ち寄って、母が気に入って買いましたの。」
エリザベスは母と過ごした最後の旅行のことを話し始めた。
コモ湖での日々、ヴェネチアでのゴンドラ遊覧の楽しさ、ローマでの騒動などを。
「イタリアから戻って3週間くらいして、母は逝きました。」
エリザベスはそう言って涙を流した。
「母は私のことを唯一、理解してくれた人でした。父は、私のことよりも仕事だけ。」
しゃくりあげるエリザベスを、ルドルフは背後から抱き締めた。
しばらく、部屋は沈黙が流れた。
エリザベスは机の上に置かれた時計を見た。
「もう帰る時間だわ。」
ドレスの裾を翻して、エリザベスはルドルフの部屋を後にした。
王宮からホテルへ戻る馬車の中、エリザベスの胸はざわめいていた。









Novel&Message by 千菊丸さん


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