PURE

第四幕
『晩夏』

第8話


作:千菊丸さん
1877年6月2日。
ウィーン郊外・フロイデナウ競馬場。
エリザベスとレイチェルは、貴族と交流するためにやって来た。
「ねぇ、あの人ハンサムじゃなくて?」
「あなたは男性を見たらそればっかり。」
レイチェルはイケメン騎手を見ては騒いでいる。
「私、結婚するならハンサムで優しくって、何でもできる人がいいわ。」
「あなたなんか見向きもされないわ。」
「ひどいっ、お姉様っ!」
レースは白熱し、レイチェルが騒いでいた騎手と鼻のひしゃげた騎手がトップ争いをしていた。
「いけっ、そこよっ、いけぇー!」
レイチェルは興奮して傘を地面に突き刺している。
トップは前者だった。
「きゃ〜、やった、やったわぁ!」
レイチェルはそう言ってピョンピョン飛び跳ねた。
そして歓声をひときわ大きくあげた。
「おやめなさい、はしたない。」
エリザベスは慌てて妹を引っ張った。
「私、あの人と結婚したいっ!」
「勝手に言ってなさいな。」
その時、エリザベスの背中に悪寒が走った。
「どうしたの?」
血まみれで転げ回る少年。
金髪で緑の瞳。
エリザベスは少年の姿を見つけた。少年の近くに、不審な男がいた。
エリザベスは駆け出した。
「危ないっ!」
男のナイフが少年に振りかざされた。
エリザベスは少年を突き飛ばした。
「邪魔をするなぁ!」
狂気に満ちた瞳が、彼女を射る。
このままでは、やられるー
エリザベスはそう思って目を閉じた。
だが、男が警察に連行される音、少年の泣き声、少年の両親が駆けつける足音が聞こえた。
エリザベスは目を開けた。
彼女は青年の胸に抱かれていた。
金髪で、瞳は美しい蒼だ。
「大丈夫ですか?」
「ええ・・ご迷惑をおかけしました。」
そう言ってエリザベスは青年に礼を言って立ち去った。
「お名前を、お聞かせ下さい。」
青年が、エリザベスの手を握って言った。
「エリザベス=ローズワースですわ。」
「お姉様、どちらにいらっしゃるのー!」
「妹が呼んでますので、失礼いたしますわ。」
エリザベスは青年に微笑んで、レイチェルの方へと走った。
「エリザベス・・」
青年はそう呟いて自分の手を見た。
エリザベスの温もりを忘れぬように。









Novel&Message by 千菊丸さん


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