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エリザベスとレイチェルがオペラを楽しんでいる頃、ウィリアム=ローズワースはホーフブルク宮で皇帝と会っていた。
「遠路はるばる来てくれてありがとう。」 「いいえ陛下、こんな私のために時間を割いてくださり、ありがとうございます。」 そう言ってウィリアムは微笑んだ。 フランツ=ヨーゼフ皇帝は、エリザベスの肖像画を見た。 「エリザベスは気だての良い子で、私の自慢の娘です。」 「確かルドルフト同じ日に生まれたのだな。」 「ええ、1年違いですが。」 フランツはエリザベスに運命というものを感じたような気がした。 「2人を会わせるのは、いつ頃がいいだろうか?」 「そうですね・・7月の末あたりでも・・」 「それでは遅すぎる。」 「娘達は明日、フロイデナウ競馬場に行きます。そこで会わせてはいかがでしょう?」 「ああ・・しかも偶然を装ってな。」 そう言ってウィリアムとフランツは、互いにほく笑んだ。 その頃、ルドルフはオペラを観ていた。もちろんお忍びでだ。 今夜は舞踏会があるのだが、サボって来た。 一国の皇太子として、当たり前の自由を得られないことに、ルドルフは嫌気がさしていた。 分刻みのスケジュール。 ルドルフは「ハプスブルク」という名の籠に入れられている鳥のようだった。 何故自分が皇太子として生まれたのかと、彼はつくづく思った。 もっと違う人生があったはずだ。 貴族でも、皇太子でもない、一市民としての人生が。 オペラを観ている間、令嬢達がこちらを見ているのがわかる。ルドルフはため息をついた。 ー私はどこにいても安らげない・・ その時、彼の目が煌めきを捉えた。 ふと目線をずらすと、向かい側のロイヤルボックスに、2人の令嬢が座っており、光は令嬢のダイヤのネックレスから発せられたものだった。 令嬢とルドルフの瞳が一瞬絡み合った。 黒髪の、美しい女(ひと)だった。 「・・お姉様、どうかしたの?」 「いいえ、なんでもないわ。」 そう言うとエリザベスはオペラに集中した。 1877年6月1日。 ウィーンオペラ座で、エリザベスとルドルフは偶然居合わせた。 その“偶然”が、後に波乱を起こすことも知らずにー。 Novel&Message by 千菊丸さん |