PURE

第三幕
『嵐』

第4話


作:千菊丸さん
「夕方、うちに何か用だったのかな?」
「ええ、奥様にパンを届けに・・」
「パン屋の娘とエドワード殿が言ったが、どこのパン屋だ?」
「ロンドンの下町にある『ジョーンズ』って看板がかかってるパン屋です。女将さんが毎朝大声で叫んでいるから、わかるはずです。」
アンドリューはカトリーヌに微笑んで、今度行ってみると言った。
「君は養女なのか?パン屋の主人に会ったが、全然似てないから。」
「ええ。私の両親は生まれてすぐに亡くなって、孤児院で育ちました。7歳の時に、パン屋に引き取られたんです。」
カトリーヌはそう言うと目を伏せた。
「私、パン屋ではこきつかわれて、休む暇がないんです。今夜のパーティーだって、私が行くことを女将さんが許してくれなくって・・奥様が女将さんを説得してくださって、やっと活けるようになったんです。」
「君の踊りは素晴らしかったよ。」
アンドリューはそう言って、カトリーヌに微笑んだ。
「奥様からバレエを習ってまだ半年しか経ってませんけど、暇なときには練習する時間を設けて・・」
「半年習っただけであの踊りは大したものだよ。スーザン殿が誇らしげに君を見ていたのがわかるよ。」
「そうですか?」
カトリーヌの顔がパッと輝いた。

料理を平らげたクレアは、夫の姿を探した。
「アンドリューはどこかしら?」
「さぁ、お先に失礼したんじゃないかしら。」
スーザンはそう言って夫とともに招待客の方へと行った。
クレアはポツンと1人、取り残された。
招待客の誰もが、自分を嘲笑っているような気がした。

―いやねぇ、あの指輪・・
―悪趣味ね。
―体自体が悪趣味じゃなくて?
扇子を翻しながら陰口を叩く貴婦人達。
―醜女が妻か・・アンドリュー様もお気の毒に・・
―アイリーンの方がマシだったろう・・
―私なら、自殺するな。あんな女と結婚するよりもマシだ。
通り過ぎるたびに陰口を叩いて笑う紳士達。

自分の居場所がない。
誰も自分を誉めてくれない。
クレアは扇子を握りつぶした。

その時、奥から笑い声が聞こえた。

クレアが行ってみると、そこにはいきいきとした顔の夫がいた。
(誰と話しているの?あの人のあんな顔、初めて見たわ。)

だが、夫の話し相手を見てクレアは凍り付いた。

夫と話しているのは、カトリーヌ。

パン屋の娘に、私が負けた・・。

クレアの中で、何かが崩れ落ちていった・・。










Novel&Message by 千菊丸さん


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