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家に帰ると、クレアが酒に酔った顔でアンドリューを出迎えた。
「また飲んでいるのか。」 「いいじゃない、気晴らしするものが何もないんですもの。」 (気晴らしする方法を見つけないからだろう。) アンドリューはもう少しでそんな言葉が出そうになったが、我慢して押しとどめた。 「あなた、今夜はバーテミア家でパーティーがあるんですって。私、どのドレス着ていこうかしら。」 「何でもいいだろ。」 「ひどいわ。あなたはわたくしのことなんて、どうでもいいのね。」 クレアの不満げな声を居間に残して、アンドリューは自分の部屋へと向かった。 クレアにはうんざりしている。 没落寸前のオジュボーン家がローズワース家と姻戚関係を結びたいために、3姉妹の中で醜女のクレアを、アンドリューに押して付ける形でクレアと結婚させられたのが5年前。 アンドリューがクレアを抱いたのは、新婚初夜の1度きりだった。 アンドリューはクレアのことを愛していない。 彼には、結婚前につきあっていた恋人がいた。 恋人の名はアイリーン。 豊かな薄茶の髪とコバルトブルーの瞳をした、知的な女性だった。 アンドリューはアイリーンを愛していた。 それはアイリーンも同じだった。 2人は結婚の約束をしていた。 だが、アイリーンは貴族の娘ではなかった。 彼女は鍛冶屋の娘だった。 オジュボーン家との縁談が持ちあがり、アイリーンはアンドリューと駆け落ちしようとした。 だが、アイリーンは火事で焼死した。 噂によると、アイリーンには別の男との縁談があり、気が動転した彼女が家に火をつけたという。 だがアイリーンの死は、クレアが何とかアンドリューの妻になりたいがために、邪魔なアイリーンを殺したのだ。 アンドリューはアイリーンを失い、彼の心はそれ以来、死んだ。 クレアとアンドリューは、互いにすれ違っていた。 2人の間には、ルーシーという1人娘だけ。 ルーシー。 父親譲りの黒髪と、つぶらな瞳。 アンドリューはルーシーを溺愛した。 クレアはルーシーを産んだだけで、育児は一切放棄し、アンドリューがルーシーを育てた。 部屋に入り、礼服に着替えた。 「ちょっと痛いじゃないっ、もうちょっと優しくしてよ!」 隣では、クレアがコルセットを締め上げる小間使いを叩き、怒鳴っている。 アンドリューはため息を付きながら階下に降り、馬車に乗った。 「あなた、待ってぇ〜!」 「出せ。」 妻の声を無視して、アンドリューを乗せた馬車はローズワース邸を出た。 アンドリューは政略結婚でクレアと結ばれました。 そこには愛がありません。 彼には結婚前に付き合っていた彼女・アイリーンがいて、彼女の死から立ち直れないでいる。 その彼女の死には、クレアが裏で糸をひいているとは知らずに・・。 Novel&Message by 千菊丸さん |