PURE

第三幕
『嵐』

第1話


作:千菊丸さん
1612年夏、ロンドン−。

ロンドンの一角にあるパン屋で、カトリーヌはバレエのステップを練習していた。
カトリーヌはバレエが好きで、近くに住むスーザン=バーテミア伯爵夫人からレッスンを受けていた。
カトリーヌは仕事の合間を見つけてはステップの練習をしていた。
彼女は、バレリーナになることが夢だった。
舞台で美しく踊ってみたい−それが彼女夢だった。
「カトリーヌ、早く小麦粉運じまいな!」
「はぁーい。」
女将のルーシーに怒鳴られ、カトリーヌは仕事に取りかかった。
「ったく、ヒマさえあれば仕事をサボって・・うちに置いてやれるだけでありがたいと思いな!」
カトリーヌは孤児だ。
生まれてすぐに両親を亡くし、孤児院に育てられ、7つの時にパン屋に引き取られた。
カトリーヌはルーシーとその娘・マリアにいじめられた。
ルーシーは働き手欲しさにカトリーヌを引き取ったのだった。
朝の暗いうちから、夜遅くまで働かされ、食事は粗末な物を与えられた。
パン屋での唯一の味方は、親方のアリーだけだったが、彼は妻に弱かった。
辛い毎日の中でも、バーテミア夫人のレッスンを受けるときだけは楽しかった。
カトリーヌにとって、踊るのが唯一の楽しみだった。

「カトリーヌ、これをクレア様の元へ届けておくれ。」
ルーシーはカトリーヌにバスケットを渡すと、マリアと買い物に出かけてしまった。
これから時間が空いているときに、練習でもしようと思っていたのに−。

カトリーヌは渋々とバスケットを片手にクレア=オジュボーン公爵夫人の邸へと向かった。
「良く来てくれたわね。」
クレアはそう言うと、カトリーヌの手からバスケットをひったくり、中にあるパンをムシャムシャ食べ始めた。
カトリーヌはその姿を見て吐きそうになった。
クレア=オジュボーンはイギリスの名門・アンドリュー=ローズワースの妻であり、縮れた黒髪、醜く全身に脂肪がつき、酒樽のような体をしていた。
「お前はいいわねぇ、美しくて。」
クレアはうらやましそうにカトリーヌを見た。
(そんなにうらやましがるなら、やせなさいよ!)
カトリーヌはクレアが苦手だった。
いつも何かを食べ、他人の噂や悪口に明け暮れる日々を過ごしている。
太っているのは自分の前に食べ物があるからと嘆いている。
クレアの元を去ったカトリーヌは空のバスケットを振りながら家路を急いでいた。
そこへ、1頭の馬が彼女の前に現れた。
「きゃあっ!」
「大丈夫か?」
馬上の男性が道ばたに転がったバスケットを拾い上げ、カトリーヌに渡した。
「ええ・・」
少女の笑顔に、アンドリュー=ローズワースは心を動かされた。









『PURE』シリーズ第三幕『嵐』スタートです。
今回の舞台は17世紀イギリス。
パン屋の娘・カトリーヌと、青年貴族・アンドリューとの身分違いの恋です。
全16話です。

Novel&Message by 千菊丸さん


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