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1533年、イタリア・ローマ
フランチェスカ=サルディッナーレは、嫁のアンヌのことで気を揉んでいた。 アンヌは跡継ぎを産むことをせず、宮廷での権力に執着している。 (あの女には、困ったものだわ・・女は男にかなうはずがないのに。) アンヌとフランチェスカが顔を合わせたのは結婚が決まった時。 その時にフランチェスカはアンヌを野心家で欲深い女と思い、アンヌはフランチェスカを男に従うだけの哀れな女と思ったのであった。 とにかく、嫁と姑の関係は悪かった。 あの時以来、アンヌとフランチェスカは互いに連絡を取ろうともしない。 それとは反対に、長男・アルフォンソの嫁・マリアとは中が良い。 アンヌは、男につき従う女ではない。 独立心が人一倍強く、ドルヴィエ家の主はモンテリオではなく、アンヌであった。 フランチェスカはアンヌが大嫌いだった。 夫であるモンテリオをたてず、我が道をゆき、家を切り盛りする彼女が。 (なんとかならないかしら・・) ノックの音がして、マリがが入ってきた。 「お義母様、どうなさったの暗いお顔をして。」 「ええ、アンヌのことでね。」 マリアは義母の口からアンヌの名前が出ると眉をしかめた。 「アンヌは自分勝手ですわ。モンテリオをたてずに、宮廷で活躍しているんですもの。彼女の辞書には、『謙虚』という言葉がないのよ。」 マリアはそう言って扇子を叩いた。 「っくしゅん」 森の中を散歩していたアンヌは、くしゃみをした。 (誰かがまた噂をしているのだわ。) 澄み切った冬の空気のなかで、アンヌはこれからのことを考えていた。 特に、跡継ぎのことを。 アンヌはいままで子どもが欲しいと思ったことは1度もない。 それは不幸な幼少時代を送り、家庭に不信感を持っているからであった。 アンヌは27年間、独りで生きてきた。 3歳の時母に捨てられ、7歳の時、敬愛する最愛の父を狩りの事故で亡くした。 唯一の肉親を亡くしたアンヌは、叔父一家に引き取られたが、そこで待っていたのは従兄弟達の残酷ないじめと、叔父夫婦の虐げだった。 マリーが傍にいなかったら、あの時気が狂ってしまったかもしれなかった。 母の深い愛を受けて育たなかったアンヌに、子を育てることができようか? アンヌは黙々と歩いていた。 その時、茂みの中から、少年が出てきた。 金色の髪と、紅の瞳。 見たこともない服を着ている。 アンヌと少年の目が合ったとき、2人の間に何故か懐かしい空気が流れた。 アンヌは、急に背中の傷がうずくのを感じた。 そして、少年の左耳に光るものを感じた。 アンヌとカリンの運命の出逢いです。 幼い頃肉親をなくし、権力を得ることだけに生きてきたアンヌ。 カリンとの出逢いによって、アンヌの心に変化が・・。 Novel&Message by 千菊丸さん |