PURE

第一幕
『再会』

第19話


作:千菊丸さん
1513年、パリ近郊・ドルヴィエ邸。
7歳のアンヌは、父・フラン曽和の帰りを、今か今かと待っていた。
何度も窓を見ては、刺繍の手を止めるので、刺繍の先生を困らせていた。
「アンヌ様、落ち着きませんと、出来上がるものも出来上がりませんよ。」
「だってお父様、あたしにウサギの毛皮をプレゼントしてくださるんですもの。早く帰ってこないかしら。」
そう言ってアンヌは刺繍台を放り投げた。
「まぁ、嘆かわしいこと。」
そこへマリーが慌てた様子で部屋に入ってきた。
「マリー、お父様が帰ってきたの?」
「お嬢様・・あぁ、なんということ・・」
マリーはそう言ってアンヌを抱きしめた。
「マリー?」
乳母のただならぬ様子に、アンヌは悟った。
「旦那様が・・馬から落ちて・・」
アンヌは部屋を飛び出し、邸を出た。
外は、激しい雨が降っていた。
「お嬢様、いけません!」
「放してよ、お父様のところに行く!」
父は自分の手の届かない所へ行ってしまった。
「お父様−!」
父の死後、アンヌは叔父夫婦の元に引き取られた。叔父一家は、アンヌを腫れ物のように扱った。
アンヌはいつも独りだった。従兄弟達にはいじめられ、使用人達には疎まれた。
彼女を愛する者は、誰もいなかった。
家の中でアンヌに唯一優しくしてくれたのが、馬番のルイだった。アンヌの初恋だった。
だがルイはある日突然アンヌの前から姿を消した。アンヌはまた独りになった。

それからアンヌは情を捨て、権力に執着した。

そうするしか、生きられなかった。

いつか宮廷で揺るぎない地位を得て、自分を虐げた者達を見下してやる−アンヌは、ルイがいなくなった日にそう誓った。
そして、アンヌは宮廷で不動の地位にいる。

だが彼女は、どこか満たされないでいた。
全てをカリンに語った後、アンヌは言った。
「私はいままで独りで生きてきた。親もなく、恋人もなく、ずっと1人で・・私は情を捨て、人になんと言われようと己のためにどんなこともした。権力を手に入れ、満足なはずなのに、何かが足りないのよ。」
そう言ってアンヌは近くの石に腰掛けた。
雨はまだ、降り続いていた。
「きっと、寂しかったんじゃありませんか?」
カリンの言葉に、アンヌの眉がつり上がった。
「バカなことを言うのね。私はちっとも寂しくなんかないわ。世の中、独りで生き抜かなければ駄目なのよ。」
そう言ったアンヌの背中は、かすかに震えていた。
カリンはそっと、アンヌを抱きしめた。
「もう、あなたを独りにさせません。」
「ふん、勝手におし。」
そう言ったアンヌの表情は、暗くて見えなかったが、頬が少し赤く染まっていた。
雨が上がり、森に虹がかかった。
どこかでアンヌを呼ぶ声がする。
「行きましょう。」
カリンはそう言って、アンヌに手をさしのべた。
アンヌは微笑んで、カリンの手を取った。









アンヌの悲しい過去。
父の死を境に次々とアンヌを襲ういじめと虐待の嵐。
少女はやがて冷酷な悪女となる。

アンヌとカリンちゃんが急接近しましたね。

次回、ルイーゼの嫉妬がドロドロしてます。

Novel&Message by 千菊丸さん


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