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男は、市で自分を買おうとした商人だった。 「奥様、わざわざこんところへお越しいただいて、ありがとうございます。」 商人は両手の指輪を光らせながら笑みを浮かべた。 「この生きた宝石を、渡すおつもりで来たのですか?」 「いいえ、違うわ。」 アンヌはピシャリと商人に言った。 「実は、頼みがあるのよ。」 そう言ってアンヌは従者に目配せした。従者は外へと出ていった。 「あなたのところに売りたい子がいるの。名前はアンドリュー。年は12。」 その時、馬車から叫び声がした。カリンが見ると、従者が少年をひっぱっている。 「離して、離してよ!」 「かわいい子でしょ?」 アンヌはそう言って、アンドリューを商人に見せた。 「いい子だ。ここで仕込めば、売れっ子になるだろう。」 「じゃ、決まりね。」 アンヌはほくそ笑んだ。商人はアンドリューを連れて行った。 「いやだ、お母様、お母様っ!」 アンドリューは泣き叫んで腕をバタバタさせていた。 「帰るわよ。」 アンヌはそう言って館をあとにした。 「アンヌ様、あの子は?」 「邸に戻ったらわかるでしょう。」 そう言ったきり、アンヌは邸に就くまで黙っていた。 邸に着くと、玄関ホールで女が騒いでいた。 「アンドリューはどこ?あの子を返して!」 女は、汚い身なりをしていて、髪はボサボサだった。 「あら、ミッテルラン子爵夫人。どうなさったの、そんな格好をなさって?」 アンヌはそう言って冷笑を浮かべた。 「アンドリューを返して!あの子をどこへやったの?」 ミッテルラン夫人は、アンヌをにらみながら言った。 「アンドリュー?ああ、あの可愛い坊やね。あの子は、さっき、ある所に売ったわ。」 「どこに?」 「男色専門の売春宿へよ。」 アンヌの言葉を聞いたミッテルラン夫人は、その場で泣き崩れた。 「魔女!どうしてアンドリューを!」 「出すぎた真似をしたからよ。」 アンヌはそう言ってミッテルラン夫人の顔を扇子で叩いた。 「私を閣議から追い出そうとしたでしょ?そんなことをして、権力が手にはいるとでも思ったの、金で爵位を買った成り上がり者が!」 「アンドリューを返して!あの子には罪がないわ!」 アンヌは鼻で笑い、ミッテルラン夫人のあごを持ち上げた。 「お前のような者は、地獄に堕ちればいいのよ。」 ミッテルラン夫人はアンヌを罵りながら邸を出ていった。 「卑しい者は、一生卑しいままなのよ。」 部屋に向かって歩いてゆくアンヌを、カリンは恐怖に満ちた瞳で見つめた。 アンヌのダークな面。 アンヌは血統というものにこだわってます。 生まれついての貴族こそが貴族である、という考えを持っています。 金で爵位を買い、ちゃっかり貴族となった「成り上がり者」は軽蔑します。 恐かったアンヌのダークな一面。 皆さんはどう思われましたか? Novel&Message by 千菊丸さん |