|
花梨は、暗い表情をしながら、『いわしろ』の玄関を掃除していた。
彼女が暗い表情を浮かべているのは、菊から女学校の学費を払えないかもしれないと今朝言われたからだ。 「あんたを卒業させたいのはやまやまなんだけどねぇ・・経営が苦しくてそれどころじゃないんだ。」 菊は申し訳なさそうに言った。 「いいえ、お母さん。私女学校を辞めて働きますから。」 「すまないねぇ。」 菊にはああ言ったものの、花梨は女学校を卒業したかった。 だが、自分のせいで菊に迷惑をかけていると思い、本音は言えなかった。 資格も何もない自分が社会に出ても何の役にも立たないことを知っていた。 (これからどうすればいいんだろ?) 花梨がため息を付きながら玄関の掃除を終えて店に入ろうとすると、後ろから声を掛けられた。 「浮かない顔してどうしたんだい?」 振り向くと、そこには昨夜の男−匡峰が立っていた。 「匡峰様、お店はまだ・・」 「君に会いに来たんだよ。」 そう言って匡峰は花梨に微笑んだ。 「話なら私で良ければ聞くよ?」 「ここじゃあなんですので・・」 花梨はそう言って匡峰の手をひいて歩き出した。 「あなた・・」 去っていく2人の姿を、綾香は電柱の陰からじっと見ていた。 Novel&Message by 千菊丸さん |