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西暦1533年12月、フランス・パリ近郊。
鎌倉の悲劇から200年余り、この地にフランス宮廷が恐れる女がいた。 彼女の名は、アンヌ=カトリーヌ=オイゲーニュ=テレーズ=ドルヴィエ。 フランスでも指折りの名家であり、歴代の大臣を輩出してきたドルヴィエ公爵家の娘である。 アンヌは、父・フランソワ=ピエール=ドルヴィエから譲り受けた莫大な財産と、聡明な頭脳を持ち、女でありながら閣議の重鎮メンバーに選ばれるなど、遺憾なく宮廷で己の力を発揮している才女である。 アンヌは野心家で、権力を欲するためなら手段を選ばなかった。 たとえば、敵対する大臣を陥れるために宴の席で大臣が男色家である情報を密かに仕入れ、異端者として告発し、彼を宮廷の表舞台から葬り去ったり。 また彼女の命を狙う大臣の一人を、狩野最中に事故に見せかけて殺したりと、アンヌは権力を握るためならどんな悪どいことも平気でやった。 いつしか彼女は、宮廷から『氷の悪女』と呼ばれ、恐れられるようになった。 自分を邪魔する者は音を立てずに消し、彼女と目が合った者は分厚い氷で瞬時に凍りつき、そのまま目覚めることはない・・。 アンヌの心は、氷でできている。 人としての憐れみや情けなどの感情は、一切ない。 それは、とうの昔に捨てたものだから。 幼い頃に父を亡くし、ずっと独りで過ごしてきた。 (情などに構ってたら、時間の無駄だわ。) アンヌは優雅な足どりで閣議室を出た。 「ア、アンヌ様っ」 おどおどとした声がしてふり向くと、小太りのアンドレ=ポーヴァレイ枢機卿が頬を染めながら走ってきた。 アンヌは、不快感を露わにした。 「何かしら、私今忙しいのですけれど。」 「こっ、これをっ!」 アンドレはアンヌに手紙を押しつけ、去っていった。 邸へと帰る馬車の中で、アンドレの恋文を読んだ。 手紙はラベンダーの香油を染みこませてある。 「お帰りなさいませ。」 侍女のルイーゼがそう言って慌てて主人の部屋へと走って暖炉に火をつけた。 「さがっていいわ。」 アンヌは暖炉にアンドレの手紙を投げた。 手紙は炎に包まれ、灰となった。 アンヌは机に向かい、日課である日記を書いた。 ふと窓を見ると、外では雪が降り出していた。 「今夜は・・寒くなりそうね。」 ノックの音がして、ルイーゼが入ってきた。 「何なの?」 「あっ、あの・・」 「はっきりおっしゃい。」 「旦那様が、奥様にお会いしたいと・・」 アンヌは眉をひそめ、部屋を出た。 平井摩利先生の『火宵の月』転生パラレル、『PURE』、スタートです。 全7幕構成で、16世紀フランス、17世紀イギリス、18世紀フランス、19世紀末イギリス、20世紀初頭ヨーロッパ、太平洋戦争下の日本、21世紀の日本を舞台に、時を越えて愛し合う有匡さんと火月ちゃんのラブストーリーです。 第一幕となる『再会』は、16世紀フランスを舞台に、聡明かつ冷酷な貴婦人・アンヌと、孤児で彼女の小姓であるカリンとの、愛の物語です。 全27話を予定しております。 ちなみに、イメージソングは、浜崎あゆみの「Pride」です。 Novel&Message by 千菊丸さん |