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1333年・鎌倉。 唐土からやってきた有匡は、戦乱で炎に包まれる鎌倉を目の当たりにした。 そして、鎌倉の所々に、赤い稲光りが闇の中で光るのを。 (火月!) 雷獣『紅牙』と化した恋人を救うために、有匡は走った。 火月は居間や邪悪な雷獣となっていた。 彼女の周りには焼けこげた遺体が無数に転がっている。 「火月!私だ!」 有匡の叫びは火月には届かない。 「火月!」 火月は有匡の声に反応し、ふり向いた。 その姿に有匡は目を疑った。 美しい金色の髪がおどろに乱れ、愛らしかった紅の瞳は赤く血走り、禍々しさが漂っていた。 火月は有匡の方にゆっくりと歩いていった。 (もう、だめか。) 自分が知っている『火月』は、もういない。 幼い頃、独りぼっちだった自分を慰めてくれた火月。 再会して、愛し合った幸せな日々。 もう、あの頃には戻れない。 何もかも、幻となった。 有匡はいつのまにか、自分でも気がつかないほどに、涙を流していた。 (何故、泣く?これは仕方のないことだろう?) 火月が有匡の元にやってきた。火月はもう、血に飢えた獣と化していた。 「火月、有匡だ。私がわからないのか?」 有匡の体に激痛が走った。 火月が有匡の左胸を鋭い爪で裂いたのだ。 「か・・げ・・つ・・」 自分の胸にむしゃぶりつく火月を見て、有匡は涙を流した。 その時。 「先・・生・・?」 火月が、有匡を見上げた。 いつもと同じ、愛らしい顔をしながら。 火月は、有匡の裂かれた胸と、血に染まった爪を交互に見た。 「ごめん・・なさい・・僕・・」 「謝らなくて・・いい・・。」 呼吸がつらくなりながらも、有匡は火月に微笑んで、彼女の頭を撫でた。 「火月・・ごめんな・・お前の封印・・解けなかった・・」 「いいんです。僕、先生の子ども産めなくても、先生といられて幸せだから・・」 「もし・・生まれ変わっても・・必ず、お前を見つけ出して・・愛してやる。」 「先生・・」 「火月・・」 有匡と火月は互いの腕の中で、互いの体温を感じ合った。 火月は、自分の爪で首をひっかいた。たちまち白い首筋が赤に染まる。 「火月、お前・・何を・・?」 「僕、先生と一緒にいたい。最期まで、ずっと・・」 夜が明け、足利の兵士達が見たものは。 抱き合ったまま死んだ、有匡と火月の姿だった。 今回は、平井摩利先生の作品『火宵の月』(白泉社)の転生パラレルです。 プロローグは、自分でラストを考えて書きました。 現世では悲劇を迎え、結ばれなかった有匡さんと火月ちゃんが、時を越えて結ばれるまでを描きます。 テーマは『不滅の愛』です。 Novel&Message by 千菊丸さん |