Promise you

-9-

作:翠さん


 ふ、と意識が浮上する。
 目覚めは今までのように不快なものではなかった。カーテン越しの陽光は白く、床に落ちる影は小さい。昼にも近い時間なのだろう。随分とよく眠ってしまったようだ。
 首だけを動かして隣を見る。そちらは、まだ夢の中の住人だ。静かで深い呼吸を繰り返している。
 この顔を、こんなに間近で見るのは久しぶりだった。そして、こんなに安らいだ表情でいるのも。
 自然、笑みが零れる。顔を隠す前髪を払ってやると、彼は小さく声を漏らした。
「……リナ?」
「ごめん、起こしちゃった?」
「いや……」
 しょぼしょぼと目をこするガウリイを、見つめながら。
「あのね、ガウリイ」
 あたしは、用意していた言葉を囁く。
「あたしも考えたんだけど。何度プロポーズされても、あんたへの答えは同じみたい」
「へ?」
 きょとんとするガウリイに、あたしは苦笑する。
「けど、あんたもワンパターンよね。
 初めてプロポーズされた時も、結婚式の前の晩に言われた台詞も、夕べのアレも。三回のプロポーズ全部が全部、『ずっと一緒にいてくれ』なんだもの。
 今度言う時は、もちょっとバリエーション考えてよね」
 あたしの台詞に、ようやく気がついたらしい。ガウリイは、ゆっくりと目を見張った。
「思い出した……のか?」
「まだ疑うの?」
 おどけて両腕を広げてみせたら、ガウリイも笑ってあたしを抱き寄せた。













「ねえ」
「ん〜?」
 礼拝堂の階段に、並んで腰掛けながら。
 あたしとガウリイは、見事に晴れ渡った空を、ぼんやりと眺めていた。
「あたしの記憶がなかった間、よくこの礼拝堂に来てたでしょ。どうして?」
 背中の礼拝堂を目で指しながら問うと、ガウリイは驚いたようにあたしを振り返った。
「知ってたのか」
「知らないとでも?」
 にやりと笑ってやると、ガウリイは困ったような顔をした。ゆらゆらと、視線が逃げるように空に向かう。
「う〜ん……何て言うかなぁ。ここに来ると、落ち着いて色んなことを考えられたから」
「考える? ガウリイが!?」
「あのなぁ」
 いつも通りの茶々に、ガウリイは苦笑した。
「考えることが沢山あったからな、あの時は。
 これからどうしたらいいのか、とか、子供のことをどう言ったらいいのか、とか――色々。そういうことが四六時中、頭の中で回ってた。
 だけど、ここに来ると、自然と落ち着くんだ。何があってもオレはリナの傍にいようって、ここに来ると思えた」
 ガウリイは遠くを見るような目をする。あたしも、酷く穏やかな気持ちでガウリイを見つめた。
 と、そこへ。
「リナさん、ガウリイさん! そろそろ時間が――って、あ〜〜〜〜っ!」
 ひょい、と礼拝堂の中から顔を覗かせたアメリアが、派手な悲鳴を上げる。
「またそんな所に座って! ドレスが汚れたらどうするんですか!」
「あはは。ごめんごめん」
 笑って誤魔化しながら、あたしは立ち上がってドレスの裾を払う。真っ白なそれは、汚れなど微塵も見せずにふんわりと広がった。
 あの日――あたし達が結婚する筈だったあの日を思い出させるような、良い天気。けれど、あの時のあたしには、この空を見る余裕があっただろうか?
「さあ、ガウリイさんは先に入って下さい。新婦を迎える準備をしなきゃ」
「分かった」
 呼びかけに頷いて、ガウリイも立ち上がる。忙しなく中へと消えたアメリアを追って、歩き出す彼に。
「ガウリイ」
 後ろから、声をかける。振り返る彼に、キスを。
「今度は、ちゃんと約束するわ。
 一生、あんたの面倒を見ることを誓いますってね」
「……ああ」
 微笑んで、ガウリイは再度あたしを引き寄せた。






 今度こそ。
 誰でもない、彼に誓おう。
 先の見えないこれからの時間を、彼と共に過ごすことを。
 今まで起こったことも、これから起こることも、それに対する不安も恐怖も、全部を抱えたまま。それでもガウリイと歩いていくことを。
 あたしは一人じゃない。守るべき家族も、大切にしたい人も、手の届く距離にいる。
 それだけで、あたしは強くなれる。

 だから。
 あんたが安心して生まれてこられるように、今日はちゃんとガウリイに答えるからね。






 今はあたしの中で眠る彼女に、心の中だけで語りかけ。
 あたしは、礼拝堂の扉の内へと、新しい一歩を踏み出した。








End.




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