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琴弥は完全に気が狂っていた。 彼は油を邸に撒き始めた。 父の身体にも、自分の身体にも油を撒いた。 琴弥は眠っている父の隣に横たわり、灯台を引き倒した。 邸は、禍々しい炎の赤に包まれた。 遠くで、火の手が上がっていた。 「文観の邸が火事だ!」 有輝が駆けつけると、文観の邸を炎が包み込み、もう消火の施しようがない状態だった。 野次馬達は、宮中を牛耳った男の哀れな末路を見ていた。 その時、どこからともなく叫び声が聞こえ、炎に彩られた人影が邸から出てきた。 琴弥だった。 全身は焼け爛れ、艶やかだった黒髪はわずかに頭皮にベタリと貼り付いて、縮れていた。 彼は、有輝の姿を見つけると、最後の力を振り絞って叫んだ。 「お前を・・絶対許さない・・呪ってやるから・・」 そう言うと琴弥は力つきた。 翌朝、全焼した邸の中で、文観の遺体が確認された。 文観は、苦悶の表情を浮かべて息絶えていた。 土御門有匡と長年敵対関係にあり、有匡の妹・神官を復讐のために利用し、琴弥を産ませ、有匡の息子・有輝に罪を着せ、一時期宮中で権力を握った男、殊音文観とその息子・琴弥は、地獄の業火によって裁かれたのであった。 琴弥、焼身自殺を図る。 親に虐待され、悪事に手を染めていった琴弥。 有輝への憧れと憎しみ故に狂っていった琴弥。 そして炎の中で息絶えた琴弥。 なんだか寂しい、そして切ない彼の人生でした。 琴弥がもし、有匡さん達に引き取られていたのなら、結末が違ったのかもしれません。 Novel&Message by 千菊丸さん |