陰陽師・土御門有輝

第48話:黒い影


作:千菊丸さん
有輝は今や、生きる屍となっていた。
追放され師を喪った深い悲しみと、伊豆の漁村での強制労働が、有輝の心から生きる気力を奪っていった。
有輝はもう、生きるのが嫌になってきた。
(京に戻れない・・戻れるはずがない・・)
謀反の罪を着せられた者は、再び宮中の土を踏むことはない。
(もう・・僕は・・)
いつもと同じように夜を迎え、有輝は深い眠りについた。

翌朝。
有輝が起きると、なにやら村が騒がしかった。
外に出ると、井戸の周りに人だかりができていた。

「井戸の水が濁っている・・」
「これはたたりだ・・龍神様のたたりだ・・」
「ああ、恐ろしい・・」
村の井戸の水が、突如に濁ってしまった。
原因は不明で、神官達が井戸の周りで加持祈祷をしたが効果はいまいちだった。
村は絶望にうちひしがれていた。

「誰か、井戸の水を元に戻せる者はいないものか。」
ある月の夜、村を治める村長と貴族は、頭を悩ませていた。
「術者にお祓いをしても効果はない。どうすればよいのだろうか。」
貴族は口元に扇を寄せ、ため息をついた。

「そういえば・・この村に京から追放された陰陽師がいるそうです・・」
「なにっ?!」
村長の話に、貴族に飛びついた。
「先日、京の友人が訪れてきて、宮中の噂話などを聞いたのです。そいつの話によれば、数ヶ月前謀反の罪を着せられ、この村に来る前に父と崇める師を喪い、日々過酷な労働に耐えておる年若き陰陽師は、かつて鎌倉の世において鎌倉幕府が重宝した天才陰陽師・土御門有匡の嫡子だそうですー」
「そのものを連れて参れ。」

有輝は村人にたたき起こされ、村長の邸に連れてゆかれた。
「村長様、何の御用でございましょう?」
「お前に、頼みがある。井戸のことは聞いておろう?」
「はい。」
有輝は村長が何を企んでいるのか、わからなかった。
「お前に、井戸の水を直して欲しい。」
「と、もうしますと?」
有輝は警戒した。
「お前はかつては宮中の陰陽寮で一、二の腕を争う優秀な陰陽師だったと聞く。そして、あの土御門有匡の嫡子だと。
お前が井戸を直してくれれば、お前を即、京に戻そう。」
有輝は貴族の言葉を一つ一つ探った。

井戸の水を直せば、京に戻す。

できた話だ。
だが、井戸の水を直せば、道が開けるやもしれぬー。
「承りました。」

翌朝、有輝は井戸にやってきた。
祭文を唱えると、どす黒い影が見えた。
龍神ではない。
黒い影が、徐々に人の影を帯びてくる。
貴族の若い娘。
『・・お助けを・・』
娘は有輝に手を差し伸べる。
「あなたは、何故こんなところに?」
『私は・・かつてここの貴族にに捨てられ、この井戸に身を投げました・・あの男の仇を討ってくださいまし。』
「それはできません。何故、井戸の水をけがすようなことを?」
『みな死んでしまえばよい・・』
「村人を憎んでいるのですか?一体あなたの身に何が?」
『あやつら、死んでしまえばよい!妾を裏切った!死をもって苦しめ!!』
影はそう叫ぶと、消えた。

有輝は聞き込みを開始した。
黒い影の正体、そして『彼女』が何故村人達を憎んでいるのかー

答えはすぐに見つかった。
村の長老が、あの井戸にまつわる話を聞かせくれたのだ。
それは、このような話だった。








ところかわって、伊豆の村です。 有輝君は村長と村を統治している貴族から、井戸の水が濁ってしまったので、清めて欲しいという依頼を受けます。
井戸で見た黒い影。
それはこの井戸にまつわる、ある1人の娘の怨念ー

有匡さんの話は、伊豆の辺鄙な村まで届いているんですね。
鎌倉と伊豆。地理的には近いですからね。
でも、有輝君の話がここまで届いているのは、有匡さんを知っている者が多いのでしょうかね。

次回、ある1人の娘の悲しい物語をお送り致します。

Novel&Message by 千菊丸さん


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