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有輝は今や、生きる屍となっていた。 追放され師を喪った深い悲しみと、伊豆の漁村での強制労働が、有輝の心から生きる気力を奪っていった。 有輝はもう、生きるのが嫌になってきた。 (京に戻れない・・戻れるはずがない・・) 謀反の罪を着せられた者は、再び宮中の土を踏むことはない。 (もう・・僕は・・) いつもと同じように夜を迎え、有輝は深い眠りについた。 翌朝。 有輝が起きると、なにやら村が騒がしかった。 外に出ると、井戸の周りに人だかりができていた。 「井戸の水が濁っている・・」 「これはたたりだ・・龍神様のたたりだ・・」 「ああ、恐ろしい・・」 村の井戸の水が、突如に濁ってしまった。 原因は不明で、神官達が井戸の周りで加持祈祷をしたが効果はいまいちだった。 村は絶望にうちひしがれていた。 「誰か、井戸の水を元に戻せる者はいないものか。」 ある月の夜、村を治める村長と貴族は、頭を悩ませていた。 「術者にお祓いをしても効果はない。どうすればよいのだろうか。」 貴族は口元に扇を寄せ、ため息をついた。 「そういえば・・この村に京から追放された陰陽師がいるそうです・・」 「なにっ?!」 村長の話に、貴族に飛びついた。 「先日、京の友人が訪れてきて、宮中の噂話などを聞いたのです。そいつの話によれば、数ヶ月前謀反の罪を着せられ、この村に来る前に父と崇める師を喪い、日々過酷な労働に耐えておる年若き陰陽師は、かつて鎌倉の世において鎌倉幕府が重宝した天才陰陽師・土御門有匡の嫡子だそうですー」 「そのものを連れて参れ。」 有輝は村人にたたき起こされ、村長の邸に連れてゆかれた。 「村長様、何の御用でございましょう?」 「お前に、頼みがある。井戸のことは聞いておろう?」 「はい。」 有輝は村長が何を企んでいるのか、わからなかった。 「お前に、井戸の水を直して欲しい。」 「と、もうしますと?」 有輝は警戒した。 「お前はかつては宮中の陰陽寮で一、二の腕を争う優秀な陰陽師だったと聞く。そして、あの土御門有匡の嫡子だと。 お前が井戸を直してくれれば、お前を即、京に戻そう。」 有輝は貴族の言葉を一つ一つ探った。 井戸の水を直せば、京に戻す。 できた話だ。 だが、井戸の水を直せば、道が開けるやもしれぬー。 「承りました。」 翌朝、有輝は井戸にやってきた。 祭文を唱えると、どす黒い影が見えた。 龍神ではない。 黒い影が、徐々に人の影を帯びてくる。 貴族の若い娘。 『・・お助けを・・』 娘は有輝に手を差し伸べる。 「あなたは、何故こんなところに?」 『私は・・かつてここの貴族にに捨てられ、この井戸に身を投げました・・あの男の仇を討ってくださいまし。』 「それはできません。何故、井戸の水をけがすようなことを?」 『みな死んでしまえばよい・・』 「村人を憎んでいるのですか?一体あなたの身に何が?」 『あやつら、死んでしまえばよい!妾を裏切った!死をもって苦しめ!!』 影はそう叫ぶと、消えた。 有輝は聞き込みを開始した。 黒い影の正体、そして『彼女』が何故村人達を憎んでいるのかー 答えはすぐに見つかった。 村の長老が、あの井戸にまつわる話を聞かせくれたのだ。 それは、このような話だった。 ところかわって、伊豆の村です。 有輝君は村長と村を統治している貴族から、井戸の水が濁ってしまったので、清めて欲しいという依頼を受けます。 井戸で見た黒い影。 それはこの井戸にまつわる、ある1人の娘の怨念ー 有匡さんの話は、伊豆の辺鄙な村まで届いているんですね。 鎌倉と伊豆。地理的には近いですからね。 でも、有輝君の話がここまで届いているのは、有匡さんを知っている者が多いのでしょうかね。 次回、ある1人の娘の悲しい物語をお送り致します。 Novel&Message by 千菊丸さん |