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政野将成の元に嫁いで1ヶ月。 玉響は好色な将成を近づけず、1人部屋に籠もる日々を送っていた。 彼女が「夫」と呼ぶ人間は、今は亡き雅和だけだ。 陰陽師として幼い頃から特殊な能力を持ち、それゆえ傷ついていた雅和。 京を騒がす鬼の一族の頭の妹として生まれ、目の前で兄を焼き殺され、自身も背中に100本もの矢を受けた玉響。 人とは違うというだけで、社会から疎外された。 雅和は玉響の兄を殺した犯人だった。 玉響は最初は雅和を憎んだ。 だが一緒に暮らすうちに、雅和が抱えている孤独の深さを知った。 互いに惹かれ合い、玉響は狼英を妊娠した。 天涯孤独だった雅和は、家族ができることを喜んだ。 生まれたばかりの狼英を抱いた時の、雅和の笑顔が忘れられない。 幸せだった。 それなのに、夫は無実の罪を着せられ、死んでしまった。 玉響はここのところ、体調がすぐれない。 貧血をよく起こす。 それに、月の障りも来ていない。 「まさか・・」 雅和と最後に愛を交わしたのは、3ヶ月前。 宮中を揺るがした、恐ろしい事件が起こる前。 玉響は、雅和の子を妊娠していた。 「子どもが?また賑やかになるな!」 ー雅和が生きていたら、そう言って玉響の下腹に耳をあてるだろう。 「楽しみだな、私に似た娘か、息子かな。」 「そうか?私に似た息子が産まれてくるぞ。それか、とんでもないじゃじゃ馬か。」 「ははっ、それはそれで楽しいな。」 狼英を妊娠しているときに、雅和と玉響は冗談を言い合い笑った。 雅和は子煩悩で、狼英の育児を仕事がどんなに忙しくてもやっていた。 玉響は、狼英に、雅和の子を妊娠したという文を出した。 「父上、母上に生きる力を与えてくださったのですね?自分が死んでも、母上を守ってやれと、おっしゃっているのですね・・」 狼英は、母の文を、空にかざした。 まるで雅和が満面の笑みを浮かべているかのような、美しく澄んだ青空だった。 玉響さん、雅和さんの子を妊娠する。 雅和さんは、玉響さんを愛していたんですね。玉響さんも、雅和さんを心から愛していたのですね。 特殊な能力を持っているだけで、人に恐れられた2人。 ささやかな幸せを奪われてしまった玉響さん。 雅和さんは、玉響さんのことを、見守っているでしょうね。 Novel&Message by 千菊丸さん |