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「・・・交代の、時間だぞ」 「・・・・・・ああ・・・・・・」 背後からかけられた声に返事はするものの、ガウリイは横穴の入り口に座ったまま、厚い雲に覆われた夜空から視線を動かそうとはしない。 「ガウリイ、気持ちはわからんでもないが、身体を休めておかないと、いざというときに動けんぞ」 「・・・・・・・・・・・・」 「ガウリイ」 「・・・・・・眠れないんだよ・・・」 小さく返されたその言葉に、ゼルガディスは一瞬痛まし気な表情を浮かべるが、1つため息をついてガウリイの横に腰を下ろした。 2人の背後からは、くべられた薪が爆ぜる音と、アメリアの安らかな寝息が聞こえてくる。 ・・・万年雪に閉ざされた、死霊山の登山。 それは、3人の体力をいやがおうにも奪っていき、先へ進む気力すらも消し去ってしまおうとする。 だが、足を止めている暇はなかった。 マレン湖の村で攫われてしまったリナを助け出すため、3人はDr.ヴィオラの秘密基地に侵入しなくてはならないのだ。 そのためにはまず、この死霊山を登りきらなくてはならなくて・・・。 「眠れずとも、横になっていれば身体は休まるだろう。 今日は運良くこんな横穴を見つけることができたんだ。ここで休まずして、いつ休む」 「・・・リナがいなけりゃ、休むなんてできない」 「ガウリイ」 「リナを取り戻さなきゃ、心も身体も休まりゃしないんだよ・・・」 「・・・・・・・・・・・・」 そう言って、固く拳を握り、ガウリイはぎゅっと瞳を閉じた。 そんなガウリイの姿に、ゼルガディスはもう一度ため息をつく。 「・・・そんなに、頭が冴えちまってるのか?」 「・・・・・・・・・・・・」 「リナの姿が消えてから、シグムーンシティでリナの情報を仕入れるまでは、まだ心の均衡を保っていられたみたいだが・・・あの、切り取られたリナの髪を見た瞬間、ブチ切れただろう?」 「・・・・・・・・・・・・」 「なにせ、後先考えずに、俺達を残して飛び出していっちまったくらいだからな。 ・・・だが、一人で突っ走っている間に、『リナがいない』っていうことを、はっきりと実感しちまったんじゃないのか?」 「・・・・・・・・・・・・」 「頭に冷水でも浴せ掛けられた気分を、味わったんだろう・・・? それで、いろいろと考える余裕ができてしまった・・・違うか?」 「ゼル・・・」 うっすらと瞼を開らき、だがどこか頼りなげな光を浮かべた蒼の瞳でゼルガディスを見つめるガウリイ。 そんなガウリイに、また1つため息をついて、ゼルガディスは話を続けた。 「・・・今現在、光の剣もロクに使えない状態で、どんな敵が出てくるかもわからんヴィオラの研究所に1人で乗り込むことの愚かさに、気が付いたんだろう? だからこそ、敵の罠に引っ掛かったふりをして、俺達と合流した。 3人であれば、どうにかなるのではないか、そう思って」 「・・・・・・・・・・・・」 「・・・まぁ、そうは言っても、俺やアメリアすら、今のままでは満足に魔法が使えん。 どこまで戦力になるかはわからんが・・・だが、1人よりは、断然マシだ。 お前の考えは、間違っちゃいないさ」 「ゼルガディス・・・」 ガウリイの、瞳の光は変わらない。 そんな彼を見るのは忍びなくて、ゼルガディスは手に持っていた毛布をいささか乱暴にガウリイの頭に被せた。 「だから、俺達を少しでも頼りにしているんだったら、久しぶりに稼働率を上げた脳みそがオーバーヒートする前に、少しは休め。 ・・・確かに、リナがどうなっているかわからん状態では、心が休まらないかもしれんが・・・」 と、また目を閉じたガウリイは、その毛布で顔を隠し、小さく小さく呟いた。 「・・・どうして、オレはあの時、リナのそばから離れちまったんだろうな・・・」 「ガウリイ・・・」 「オレがそばにいたら、こんなことには・・・っ!」 「ガウリイッ!!」 ゼルガディスの声に鋭いものが混じり、ガウリイがグッと唇を噛みしめた。 「・・・全く、今更そんなことを言っても何も始まらないだろうが。 どうした、ガウリイ=ガブリエフ。 過去を悔やむなんぞ、リナの相棒のすることじゃないぞ。 それに、おまえは大事なものを奪い取られたまま、黙っている男でもないだろう」 「ゼル・・・」 ぱさり、とガウリイの身体から毛布が滑り落ちた。 だが、2人はそんなことには構いもせずに言葉を紡ぐ。 「奪われたなら、取り戻せ。 ・・・お前は、そうやってリナとともに在って来たはずだ。 それに何と言っても、お前はあの『金色の魔王』の手からすら、リナを取り戻した男だろう。 あのことに比べれば、今回のことなど瑣末なことだ。 ・・・違うか?」 「・・・・・・・・・・・・」 「絶対に、リナは取り戻す。 だからそのためにも体調を調えておけ。 ・・・必要なフォローは、俺とアメリアがやってやる」 「ゼルガディス・・・!」 ガウリイは、ゼルガディスの言葉を噛みしめるかのように一度瞳を閉じると、1つ息を吐いた。 そして瞳を開けると、毛布を手に立ち上がり、火の側へと寄った。 ゼルガディスはそれを目で追って、ようやく肩から力を抜く。 そんなゼルガディスの耳に、ガウリイの呟きが聞こえてきた。 「・・・オレは、何をなくそうとも・・・例え光の剣をなくそうとも、リナだけはなくせない。 リナがいなけりゃ、生に価値なんぞ見いだせない。 だから・・・例え相手が何者であろうとも・・・リナは絶対に、絶対にこの手の中に取り戻す・・・!」 「・・・・・・だったら、まずはその寝不足の青白い顔をどうにかしろ。 ったく、こいつは出血大サービスだぞ」 「・・・・・・?」 不思議そうにゼルガディスの方を振り向いたガウリイの耳に、低く穏やかに響くカオスワーズが聞こえてくる。 そして、それは力を持ち・・・・・・。 「『眠り』」 ・・・不意に攫われる意識。 かすみ遠のく思考の中、ガウリイはゼルガディスに感謝の言葉を贈った・・・。 (全く、リナがいないと本当に手のかかる・・・・・・だが、こいつほどではなくとも・・・) 「絶対に、リナさんを取り戻しましょうね!!」 「−−−−−っっ!・・・・・・起きて、いたのか?」 振り向いたそこには、身体を起こしたアメリア。 「ちょっと前に、ゼルガディスさんの声で目が覚めました」 「そうか、悪かったな」 「いえ、ガウリイさんほどじゃなくても・・・でも、思いは同じはずですから!」 「・・・そうだな」 己の仲間をやすやすと連れ去られてしまった憤りは、ゼルガディスもアメリアも等しく感じていた。 だが、それ以上にガウリイの狼狽が激しくて、かえって2人は冷静だ。 それでも。 「・・・絶対に、絶対に・・・リナさんを取り戻しましょうね・・・!」 「ああ、必ずな」 ・・・ガウリイとは意味合いが違っていても、2人にとってもまた、リナは『なくせないもの』で・・・。 ぎゅっ、と腕にしがみついてきたアメリアの頭を優しく撫でながら、ゼルガディスは先程のガウリイと同じく、射すくめるような瞳で夜空を見上げるのだった。 (待っていろよ、Dr.ヴィオラ。 ガウリイを、そして俺達を敵に回したこと・・・心の底から、後悔させてやる・・・!) ・・・そして、数日後に辿り着いた死霊山の秘密基地。 紆余曲折はあったものの、3人はその想いの通りヴィオラからリナを奪還することに成功した。 全ての事件解決までの道のりはまだ遠いが、ひとまずガウリイ達の心の安定は守られたようである。 ・・・やっと3人に、穏やかな眠りが訪れる・・・・・・。
Fin. |