夢想
〜 破壊された世界 〜


日曜日―世界のつながり [2]

作:ナーヤさん

 街の外側を覆っている外壁。街の出入り口である門を抜けると、そこには草原が広がっていた。見渡す 限りの草の海。ただ、ただ、それだけ。
「何をほうけているんだ?」
 ...そうかもしれないけど、もっと言い方あるでしょうに。そんなことを考えられたのは、一瞬おい てからだった。見た事もない、風景を見れたこと、それが嬉しかった。
「別にほうけてるわけじゃあないです。......こんな風景、見たことがないんです。私は。」
 言葉にするのは、難しい。見たことが無いという事実だけを告げるだけで、精一杯。遥かに広がる地平 線。一面の緑。まるで、絨毯を敷き詰めたように。私のいた世界でも、遠く近い国では、こんな風景が広 がっていたはず。私の見飽きたあの、何か、うっとうしい風景ではなく。
「そうか?どこにでもある風景じゃないのか?」
 ステイルはそういって、首をかしげた。私が馬に乗れないため、ステイルが手綱を取っている後ろか ら、ステイルにしがみついていた。。すごく自分が小さな子どものような気がする。まあ、確かに、ステ イルの方が長身ではあるけど。
「私のいたところでは、なかったんですよ。」
「そうか。まあ、地方によっていろいろと違うからな。世界が違うなら全く違う風景でもおかしくはない か。」
 そういって先を急ぐステイルに落ちないようにしがみつきながら、私はただ、風景を見詰めていた。も しかしたら、この世界に私がいるのは、こんなところにいたいと思ってしまったせいだったのかもしれな い。ふと、そんな事を思っていた。
 草原で、野宿。口で言ったり夢で見たりするのは簡単だけど、自分でやるとなかな か.........面白かった。まあ、夜外で寝るって言うのがなかなか無い経験で、風邪引く事を本 気で心配してしまったけど。
 ほんとうに、ステイルはめんどうみがいい。馬にのってすすむのにも、なれてきた。やっぱり、体はい たいけれども。
 草原の中に存在しているテント群。小さく見えたそれが大きくなり、そばにいる人々の姿が見え始めた ころ、馬に乗って駆けてきたものに、誰何される。
「何者だ。何の用があって、近づく?」
 警戒しているその態度に、緊張する。日常で、そんな態度に出会うことはなかったから。
「久しぶりだな。マイヌ。皆は元気か?」
 その言葉に、男はまじまじとステイルを見てから、笑顔になった。
「お久しぶりです。皆、息災ですよ。よかった。ステイル様もご無事なようで。まあ、ステイル様に何か あったら、ウェイル様が黙ってはいらっしゃらないでしょうけど。」
 その言葉に、私も少し笑う。その私を見て、マイヌはステイルに問い掛ける。
「こちらは......?」
「客人だ。というより、この子をおばばに会わせようと思って戻ってきた。族長にも挨拶しようと思って いるのだが...案内してくれないか?」
「わかりました。...しかし、よく辿り着けましたね。もうずっと、音沙汰なしでいらしたのに。」
「時期から大体の場所は分かっていたからな。それにおれはそう頻繁に顔を出せないだろ。」
 馬をかえし、マイヌとステイルは馬を並べて移動しながら、話を続ける。
「まあ、そうかもしれませんけど、もうちょっと頻繁にお戻りなられてもよろしいでしょうに。」
 マイヌがおおげさに溜息をつく。ステイルは苦笑しているのだろう、おそらく。
「それで、その子は誰なんです?もしかして、駆け落ちですか?」
「.........いい勘してるな。手に手を取って、戦神の下から逃げてきた。戦神から問い合わせ がきても、知らせるなよ。」
 にやっと、ステイルは笑ったのだろう。まあ、確かにある意味、間違ってはいないのかもしれない。
「それは、戦神様の追及も厳しいでしょう。恐ろしくて、とてもではありませんが、戦神様の勘気は被り たくないものです。」
 そういって、二人は笑う。
「まあ、戦神のところから連れ出したのは本当だ。この子をおばばに会わせたら、自分で戦神に説明する さ。」
「...期待しますよ。.........それで、お名前はなんておっしゃるんです?」
 マイヌは私の方を振り返り、そう尋ねる。
「あ、美夜って、言います。」
 頭を下げる。
「ウェイルに塔の上に閉じ込められてたのをステイルに連れ出してもらったんです。」
 わざとらしくマイヌは、ステイルの方を見て、溜息をつく。
「駄目ですよ、ステイル様、他の人の女に手を出しては。」
「違うんです。そんなんじゃないです。」
「美夜。大丈夫、こいつはわかってていってるだけだ。」
 マイヌが笑う。
「だってステイル様以外にはいませんよ。ウェイル様から逃げようとする人なんて。」
 ステイルが、頭を抱える。
「いいじゃないか。いずれにせよ、おれはウェイルの妻にならないんだから。」
「気にしないでなってしまえばいいではないですか...とも、言えないんですよね、私の立場からする と。」
 どういうことなのか、私が尋ねようとした時に、部族につく。

「長、ご無沙汰しております。」
 移動できるテントからなる集落の中心に立っている厳めしい男の人。その人に向かってステイルが頭を 下げる。
「ステイルか。」
「はい。長も、皆も変わりなき様に、安心いたしました。」
 表情が少し緩んだ。
「こちらはな。お前の方は、ずいぶんと大変なようだな。」
 ステイルが苦笑した。
「...まあ、仕方が無いですから。」
「仕方が無い、か。...それで、おまえは誰をつれてきたのだ?」
 私のほうを見て、尋ねた。私は軽く、頭を下げる。
「美夜と申します。」
「おばばにあわせたくて連れてきました。」
 私の言葉に続けて、ステイルが、そう告げる。
「連れていっても、いいでしょうか。」
 長は、私をじっとみつめる。私は何気なく、その顔を見返す。やはり、きつい顔立ち。感じてしまうの は十分な威圧感。
 日に焼けている肌。そして、頬に走る大きな二本の傷。どんな来歴があるのか。そして、私を見つめて いる顔に微かに見覚えがあると感じる。でも、夢の中で私はこの人には会っていないはずなのに。
「...いい顔をしておる...」
 ぼそっとそう言われた気がして聞き返そうとした時には、長の顔は、ステイルの方に向いていた。
「許可する。」
 告げられた一言に、ステイルは、頭を下げる。
「ありがとうございます。」
 そう答え、きびすを返し、私を連れて行こうとしたステイルに、長は声を掛ける。
「久しぶりに会ったわりにはそっけないな。もうそろそろ、ここに戻ってきて、わしの後を継ぐ気にはな らんか?ステイル」
 ふりかえって、ステイルは笑って答えた。
「もう少し、わがままをお許し下さい、父上。いずれ、時期がきたら戻ります。」
 父上!あっさりとステイルのが言ったその言葉に、少し驚く。同時に、何か納得した。そっか、ステイ ルに似てたのか。そう思って、長を見ると、苦笑していた。
「いずれは、戻ってこいよ。我が愛娘よ。」
 言葉は聞こえなかった。ステイルは頭を下げて、立ち去る。私は何も言えず、ただ、その後をついて いった。......
 結局私が連れて行かれたのは部族から少しはなれたところだった。

「ほう。あなたがこの世界を夢見ている人かの。思ったより、年寄りだねえ。」
 年寄りって.........80くらいに見えるお婆様に言われるのも、ねえ。
「年寄りって、どういうことどういうことだ?おばば。」
「いやなにねえ......なんせ、もうちょっと幼い子だと思っていたんじゃよ。12、3くらいのな あ。」
 おばばの感慨を受けて、ステイルが興味深そうに、こっちを見る。
「そういえば、美夜っていくつなんだ?」
「...18。」
 まじまじと見られる。
「............そうか。」
 ...その沈黙は何よ。多少、むっとしながら、尋ね返す。
「ステイルは?」
 ステイルは、首をかしげる。
「さあ。あんまり数えないからな...それよりおばばはいくつだと思う?」
 数えない、必要ないって事なのかなあ...じゃなくて、おばばの歳い?...うーん......
「...80?かな」
「それはまた、ずいぶんと長生きに見られたねえ。そこまで生きる人なんて、いやしないんじゃよ。この 世界ではなあ。」
 そうなんだ。
「じゃあ、いくつなの?」
「65歳だ。」
「え?」
 思った以上に大きな声を出してしまったらしい。
「おや、意外そうじゃの。」
「そうそう。60以上まで生きるのも、珍しいんだよ。」
 にしても、のわりには.........
「まあ、そんな事より、おばば。夢見人をもといた世界にかえす事ってできる?」
 あっさりと、ステイルは話を戻す...そう。それが目的でここまできたんだ。
「まあ。できなくも無いが、いいのかの?」
 おばばはステイルをうかがう。
「何が?」
「夢見人を元の世界に戻してしまっても、という事じゃよ。少なくとも、戦神は戻したくはないのじゃ ろ。」
「戦神がどうおもうと、美夜のいる世界はここじゃあないんだから。無理にこの世界にとどめる事はない だろ。」
 私も戦神に、これ以上、わけのわからない事言われるのも嫌だし......
「戻れるなら、戻りたいんです。私のいるところはここじゃないと思うし。私は私の世界で生きてるか ら。」
「こっちの世界も悪くはないと思わないのかい?」
 んー。多分、悪いとか悪くないとかじゃないとおもう。
「こっちの世界だと、私は人として扱ってもらえないから。...ステイルには美夜として扱ってもらえ たけど......ずっと戦神に夢見人って言われて、願い事を叶えろっていわれてて、困るから。」
「...大変だったんだな。」
 しみじみと同情したように言うステイル。おばばは私の顔を見てから、うなずいた。
「いいじゃろう。元の世界に戻してやるとしようかの。...少し、準備に時間がかかるがの。」
「お願いします。」
 私は頭を下げた。そして、ほっとする。これでようやく、帰れる。
 こっちの世界でも数日すぎちゃったし、向こうの世界では何日くらいすぎてるんだろう?音信不通はた まにやるから、多分友達とかはそんなに心配してないだろうけど、親が電話してきたりしてたら厄介だな あ。...もしかしたらもう、私の体は、眠り病、とかいわれて病院にあったりして......... それだけは避けたいなあ。
 やはり私はどこかずれているのかもしれない。

「美夜、おばばがよんでる。」
 夜。ステイルが、私のいる天幕まできて、そう声を掛ける。
「どうせ、ねてないんだろう。」
「うん。」
 私はかぶっていた毛布をはがし、起き上がる。すごく、最悪。...たまにあるけど。
「不機嫌そうだな。」
 おかしそうに私を見る。
「眠たいのに眠れなかったら、多分、誰でも不機嫌になると思うな...でも、私って、睡眠必要なのか なあ?」
 たぶん、私の体は私の世界で寝入ってるはずだから。
「......ここにくるまでのあいだに、夜になったら、疲れて寝てたから...必要だと思うぞ。」
 そっか。
 私を安心させるように、ステイルは、笑う。
「さあ、おばばのとこにいくといい。気持ちよく眠れて、起きれる薬を用意しているからな。」
「うん。わかった。」
 私は、そう答えながらも、天幕に入ってきて、座り込むステイルをじっと見つめた。
「どうした?いかないのか?」
「...きいていい?」
「なにを?」
「ウェイルのこと。」
 ステイルが素直に反応してる。ちょっと面白いとは思うけど、きいておきたかった。
「ウェイルの何を?」
「あなたは、ウェイルが好き。これは正しいんだよね。」
 ステイルが、なんとも言えない表情をして、うなずく。
「でも、妻にはならない。そばにいない。それは、どうして?」
 ステイルは溜息をつく。それでも、誤魔化すつもりはないのだろう。私の方をじっと見つめる。
「妻にならないのは、いくつか理由があるんだ。たくさんな。」
「どんな?...きいてよければ。」
「私は将来、この部族の長にならなければならない。だから、この部族以外の者と結婚するわけには、い かない...戦神という、このあたりの勢力の頭との結婚は、私が部族を捨てなければできない。が、私 の父には、私以外に、子どもはいない。だから、私が継ぐしかないんだ。そして、そのために、私は戦神 の妻になることはできない。最も、戦神も、この状況で、配下の一部族の者と結婚するわけにはいかない か。政略結婚として、他の勢力との関係のために行なう必要もあるが、配下の一部族からの婚姻は、この 時点において、いたずらに内部分裂を招きかねない。デメリットでしかない。」
 ぽつりぽつりと、ステイルがまるで言い聞かすように、私にゆっくりと告げる.........にし ても、結局、ステイルが、拒んでいるがためか。ウェイルは、こういうをどこか無視するような気がす る。多分、ステイルが応じればそういうのは全部跳ね除けて、結婚しそう。他部族だから、とか、配下の 部族のものだからなんて、戦神にとっては、障害にならない気がする。ならないんじゃなくて、する気も ないだろうけど。
「そうなんだ.........」
 だから、結局気になるのはこの人の意思。強いけど、何処に向かうのか、不安になる。
「あと。昔、ウェイルは、おれに負けてるから。」
 油断してたらとんでもない言葉がきて、驚いた。
「はい?」
 それもすごいけど....惚れた弱みかなあ.....でも、それがどう関係するの?
「私の部族では、男は結婚したい相手と勝負をして、勝たなければならない。そして、一度でも負けた ら、結婚することはできない。」
 納得いくようないかないようなおきて。強い相手を求めるのは、いくさや、争いが傍にある部族だから か。
 多分ここは、弱いものは邪魔にしかならない世界。弱いゆえの優しさなど、存在も許されないだろう。
「戦神が負けたの?」
「子どものころにな。」
 おかしそうに笑う。笑い事じゃあないだろうし。どんな状況で、どうしてそうなったんだろう?すご く、興味はある。どうにか、ききだそうかなあ?でも、きいちゃ悪いかもしれないし......どうし よう.........
 気づいたらステイルは、いつのまにか、私の方をじっと見ていた。
「美夜は、好きな人がいるのか?」
「え?」
 思ってもいなかった質問に、思わず、ぽかんとステイルを見つめる。
「好きな奴、いないのか?」
「.........多分。」
 ずいぶんと、我ながら情けない答えだった。まあ、仕方が無い。とっさに思い浮かぶ顔が...なかっ たのだから。
 ステイルは、少し、笑った。
「それがいいのかもしれないな。」
 私は何も言えなかった。そんな私にステイルはゆっくりと、微笑む。
「おばばのとこへ、いっといで.........そして。おやすみ、いい夢 を...........」
 その言葉に送られるように、私は天幕を出た。









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