夢想
〜 破壊された世界 〜


日曜日―世界のつながり [1]

作:ナーヤさん

『こっちにこい。』
 誰かの声が、聞こえる。
 
『こっちにこい。』
 一定の間隔を置いて呼ぶ声。呼ばれているのは、私?だろうな。
 
 
「こっちにこい。」
 その声に、その呼ばれた方向に、歩いていく。何も考えていなかった。ただ、歩く。今まで見たことも ないところを。
 疑問を感じる前に、目の前が明るくなった。それでようやく、それまで自分が暗闇を歩いていたことに 気がついた。
「この者でいいのだな。」
 私の目の前に立っていた男性が、その後ろに控えている人に尋ねてる。フードをすっぽりと被った見る からに怪しげな人はその言葉に頷き、それを認めて男は私に声をかけた。
「名前は?」
 愛想も何もない。私も呆然と、その人を見つめる。私をみているその目が気になった。瞳に見える、あ の感情は何だろう。若い男性。と言っても、おそらく私よりは歳は上だろう。
 相当鍛練をつんでいるのか、なかなか見られないほど、がっしりとした体格の大きな体。それを包んで いるのは、私が実際には見たこともないような服。ただし、相当かっこいい。なんとなく、位の高い人が 着るような感じの。...見た事あるような気がする。この服とこの男の人を。
「何をそんなにじろじろと見ている?答えぬか、名は何と言う?」
 沈黙が長すぎたのか、その男の人が威圧的に問う。それにいささかむっとして、挑戦的に答える。
「美夜。あなたは?」
「ウェイル。お前が夢見人、なのだな?」
 ウェイル。そうか、戦神!見たことあると思ったはずだ。夢の中で、ステイルの目で、この人を一度だ け見ている。星にえらく執着していた人。どうしてこの人はあそこまで執着するのだろう。それにそうす ると、これは夢って事か。
 私は改めて周りを見渡してみた。
 呪術の儀式めいた小物から祭壇まで一通り揃っている小さな部屋。祭壇の前には明かりがともってお り、祭壇の上に何かのってて、香をたいているのか、部屋中、きつい匂いが立ち込めていた。まるで体中 に巻き付いて、離さないような感じで。
 そして、部屋にいるのは、私と戦神と、すっぽりとフードを被った人。ファンタジー世界の危ない呪術 師。まるっきりそんなかんじの人。それがあながち間違った認識でないのを思い知ったのは、その後だっ た。
「また答えないのか?お前が夢見人なのだろ?」
 戦神の苛立ったような声ではっとした。慌てて戦神を見て。
「夢見人って、何?」
 意識的に、敬語を使わない。さっきもむっとして使わなかった気もするけど、今回は何か、敬語を使う 気にはなれなかった。使おうと思えばいくらでも使える。頭をやられそうな香に、多少くらっとしなが ら、それを一種の判断材料にしようと思っていた。不敬罪になるかならないか。まあ、結局のところ、夢 の出来事と思ってたからした事でもあったけど。このまま殺されても文句は言えないだろうなと、ぼんや り考えていた。ついでに、夢の中で殺されたらどうなるのだろうか、とも。
「......わかっていないのか?」
 戦神は後ろに控えている、フードの危ない呪術師にきく。
「.........そうなのかもしれないですね。」
 なんかやっぱむっとした。何でそんなにこそこそ話してるのよ。
「それで、夢見人って何?」
 なんとなくけんか売っているんじゃないかという気がしてきた。まあ、ここ一週間けっこう睡眠時間は 多かったわりにはなんか疲れていたし、無理ないかなあ。人間疲れてる時は狂暴になるって言うし。
「......」
 しばらく私を見つめてから、戦神は軽くため息をついたようだった。最初に見えていた感情は消えてい た。ただ、その代わりに浮かんでる感情は、あまり嬉しくないものだったけど。
「......ここのところ、変な夢を見なかったか?」
 変な夢。この世界の出てくる夢って事なんだろうかなあ?
「見たよ。」
 ......いや、子供がすねているように言う気はなかったのに。
 戦神はそんな私を見て、またため息をついた。そして後ろを向いて、フードの呪術師に言う。
「......まかせる。」
 フードの呪術師は慌てていた。
「そ、そんな。私が命じられたのは、夢見人を、この方をこの世界に呼び出すように、ということであっ て、そのような事など......」
 呼んだ?とするとさっきまでの声はこの人か。それにこの世界に呼ぶって、......まさか本当に 夢の世界に入っちゃったってこと?
「それに、願いがあるのは、ウェイル様でしょう。でしたら、やはりウェイル様がご説明しなけれ ば......」
 言い訳がましい呪術師の言葉を聞きながら、ためしに頬をつねってみる。.........なんで夢 の中でつねってるのに痛いのよ!
「......何をやってるんだ?」
 あ、不思議そう。まあ、確かに。でも、この人、今の今迄フードの人と話し合いしてたんじゃなかった の。
「頬をつねってる。」
「いや、聞きたいのは、そういう事ではなくて......」
 大きくため息をついた、さすがに今度は何も言うつもりはなくなったらしい。
 戦神は人を呼び、私を用意した部屋に案内するように命じた。私もこの香りからはさっさと逃れたかっ たので、素直についていった。ちょっと疲れてもいたし。夢だったら、何処かで覚めるだろうし。
 連れてこられたのは塔の一番頂上に位置する部屋。塔を昇るための内部の螺旋階段を上り切ったところ にあるその部屋は、一部のかけている円。私が現実の世界で住んでいる部屋より、広く、中に必要なもの は用意されていた。おそらく思い付くだけのものは用意したのだろう。ただ、よく分からない、なにに使 うのか考えてしまう物もあり、部屋においてあるものの一通りの説明を受けることになった。見慣れてい る電化製品は一つとしてない。
 そして、部屋から眺める景色は最高だった。私の住んでいるところから見える景色とはまるで違う風 景。普段見慣れているものが全く見えない。電信柱、空を区切っている電線、コンクリートの建物、アス ファルトの道。そういったものの代わりに、家からみるのよりも遥かに澄み渡った空、眼下には人々の行 き交う街があり、見慣れぬ家々が立ち並び、そして、遥か向こうには、草原と、山が見えた。
「何か、まるっきり絵葉書にできそうな風景だな。」
 口の中でだけで私は呟いた。まあ、中国風でも、西洋風でも、アラビア風でもない、よく分からない風 景。こんな想像力が自分にあるなんて思っていなかった。それにこの部屋。塔の上って。気分はまるっき りラプンチェル。いやまあ、あそこまで髪の毛は長くないし、会いに来る魔女も王子様もいないけど。
 戦神を目の前でみれたし、宮殿内もみれたし、用意されたこの部屋の探索も終わったし。ちなみに、隠 し扉も隠し財宝も無かったのが残念だった。でも、どうして部屋の前に、人を置かれなきゃいけないんだ ろう。小娘一人、何を警戒しているのか、すごく、疑問に思う。まあ、所詮は夢。
 和食ではないこの国の食事も食べれたし...夢の中にしてははっきりにおいもしたし味もしたのがす ごいけど、おいしかったな。もうこれで目が覚めても良いや。...まあ、ステイルを見れなかったこと だけが、残念なんだけど。
 けれど、夢は覚めない。何回寝ても、私は目覚めるとこの世界にいる。
「夢見人」と呼ばれて。
 この世界は私の見ている夢で、私が夢としてみているからこそ、この世界は存在している。そして、夢 の世界の住人も。だから、私はここに閉じ込められている。私は、戦神支配下の呪術師によって、この世 界に連れてこられた。
 この部屋に案内された次の日。気を取り直した戦神によって、それだけの説明を受けた。そして、私に は一つだけ願いを叶える力があるんだとも。
 正直、困惑した。何で?私は夢を見ていただけなのに、その世界に連れてこられて、こんな話を聞かさ れて。信じられる?......まあ、それでも、これだけ何日もここにいたら、今いるとこが、私が生 きている世界ではないとはいえ、現実である事を信じざるをえないけどさ。
 塔の上は、扱いは良かった。食事はおいしいものばっかだし、退屈しないように気を使ってるみたいだ し。だけど本当にこれで何日経つのだろう。夢の中で過ぎている時間と、私の世界の時間がどれだけずれ ているのか、もしくは合っているのかが分からず、私は焦って、焦ってもしょうがないと開き直って。ど ちらかといえば、落ち着いていた。焦ってもしょうがない。ここから帰るすべは私にはわからないのだか ら。
 ただ、いい加減、この塔以外のところも見てみたかった。どうしても、この塔から出してはくれない。 様々な理由をつけて。
 結局心配なんだろうな。私がどこかに行って、万が一にも、元の世界に戻っちゃったらって。
 で、今日も部屋の窓に寄りかかってぼんやり外を眺めていた。この街の風景を見るのは嫌いではない。 最初は見慣れぬ風景に、感嘆しながらどこか警戒していたのに、今ではもう見慣れて、警戒する気は全く 無い。その分きれいに見える気がする。
 いきなり、目の前の窓枠に手がかかる。そして、人が姿を見せた。素直に、驚いた。けっこう、高さは あるのに。
「今日は。入れてもらえないだろうか?」
 男性にしてはやや高い声。とんでもないとこからきたのに、妙に落ち着いた態度。どうして、この人は こんなにも余裕があるんだろう?この状況の把握がよくできてなかったせいか、私はそんな事を考えてい た。
「こんなところにいつまでもぶら下がっているのは、疲れるのだけどな。」
「あ、はい、どうぞ。」
 きれいに笑って、落ち着いた声でその人は言う。慌てて、私は窓際からどいて、その人を入れる。その 人は軽く窓に腰掛けてから、そのまま部屋の中に入り込んだ。
 あれ?見たことある、ひと?とっさに誰だかわからず、考える。
 何か、直接見たんじゃなくて......ああ、鏡に映ってるのを見たんだ。女性でいることにどこと なく嫌悪を抱いている人...そう、戦神の想い人、ステイル。
 しかし...私は心の中で苦笑する。何故か、ラプンチェル。魔女はいなかったけど、王子様は自力で 登ってきた。正確には王女様かな。
 塔までのぼってきたステイルについて、街を抜ける。塔の上から見ていた街。自分の住んでいた世界と もまた異なったつくりの家々。それらが連なった通り。日があたり、人々が笑いさざめいている表通り に、薄暗い路地からなる裏通り。建物にそれぞれぶら下がっている看板は、色々な形で、それぞれ異なっ ていて、見飽きる事はなかった。ゆっくり見ていたいのに、ステイルに急かされるまま、その日のうちに 街を抜けた。








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