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『この部屋で、お待ち下さい。』 見た事ある奴がおれを部屋に案内しておいていった。見た事ある部屋だ。ったく、こんなところで、 まっていられるかよ。そう思ったが、今回はあいつに会うまでここから逃げるわけにはいかない。少々 しゃくだが、部屋にあるソファーに座りこむ。 さあ、どうなるか。 意味なく、部屋を見渡す。中央にあるソファー。窓際におかれている机。その隣りの壁際においてある 壁を埋め尽くしている本棚。まあ、中の本が増えていたり、中身が変わってたりは、やっぱしねえな。 その反対側の壁にはおれの全身を映して、さらにあまりある大きな鏡がある。相変わらず、変な部屋 だ。おれ用に用意された部屋は。 そして、大きな鏡に映っている自分を睨み付ける。きつい目で睨んでいる者。しっかりとした体つきだ が、がっしりという形容詞は似合わねえ。ほっそりとした、形容されるとしたらそんなところだろう。 おれはいつのまにかソファーから立ち上がっていた。平均的な身長。そのために他の兵士たちより低 かったが、多少の体型の違いは今まで何とも思われてなかった。そこらへんから、気にする必要はなかっ た。誰にも、言われたことはなかった。人の性別など、気にするやつも、わざわざ尋ねるような馬鹿もい ない。 何より認めたくなかった。そう、こうしてみてしまうと、鏡に映っている人物は、紛れもなく、女性 だった。髪などはばっさりと短くしてあるし、普段、いつも通りにしている分には目立たない。わからな い。 それでも、時々、こうして意識してしまうのだ。自分の性別を。そう思ってしまうと、今度は意識せず に入られない。馴れることもできず、嫌悪と共に。その対象が何なのかはわからない。 いや、本来、自分の性別など、忘れられるものではないのに、普段忘れているふりをしているだけだか ら、余計そう、感じてしまうのだろう。 『だからといって、睨む必要はないだろう。ステイル。』 はっと戸口を振り返る。そいつは扉を閉めて、今、部屋に入ってきたところだった。華奢と評されるお れとは違って、がっしりとした体格。身長も横幅もおれよりも大きい。端正といえる顔立ちはまだそんな に歳を取っていない。一軍の将をつとめるにしては、まだ、遥かに若いだろう、そんな年齢だ。一国を支 配するものとしてはなおさら。ただし、位官につりあった風格と、威厳は持ち合わせている。こいつの一 声に、多くの者が命すら投げ出して戦う。 『久しぶりだな。』 何も言えないでいるおれに声をかけ、そのままおれに近づいてきた。おれは意識せず、一歩下がる。 『......喜びのあまり飛びついてくるような反応は期待してはいなかったが、それでも、会えて嬉 しい程度は言ってくれてもいいだろうに。』 そう言われても、おれは何も言わなかった。ただじっと見つめた。にらみつけてはいないが、それでも そのおれの瞳に気圧されたかのように、そいつはまた、おれに声をかける。 『.....睨まないで欲しい。ただ、会いたかった。手の届かない人だと思わせないで欲しい。ステイ ル。おまえが目の前にいるという事を確認させてくれ。』 そう言って、更に一歩おれに近づく。おれは下がる、その手につかまらないように。そのまま、静かに 問い掛ける。今まで持っていた疑問をぶつける。何で、なのか。 『おれに執着するわけは?』 そいつの瞳が揺れた。かなしげな表情が浮かぶ。それをおれは見ていた。睨んではいない。ただ、表情 を浮かべず、そいつの答えを待つ。 『わけなど、分からない。この感情は理性ではかれるようなものなのか?おれがわかるのは、ただ、これ だけだ。おれはお前と共にいたい。』 そいつは真っ直ぐにおれを見つめる。それを見つめかえす。甘い感情などは存在しない、いや、感情自 体含んでいない、透明な瞳で。そいつの瞳に映っているおれはただ、静かだった。 『お前に初めて会ったときから気になっていたんだ。お前という存在。その理由は分からなくても、お前 を見つめていることには気づいていた。それは不快ではなかった。おれにとって大事な人がお前であるこ とに、おれは感謝している。だが、だからこそ、お前がおれのとこからいなくなってしまうのは哀しい、 そして何より許せない。お前のいるべき場所はここだ。そのためになら、おれは手段を問わない。お前が ここにいるために。』 珍しく饒舌なそいつが、何を言いたいのか分かっていた。それでも、おれは何も言わず、ただ、待って いる。そいつはいったん閉じた口を再び開く。 『何より、お前の居場所が判明したときは許せなかった。お前がそんなようなところにいること。お前を 取り戻す、そうおれの権利のために。お前をおれのものにするのは、おれの権利だ。だから、おれは、あ いつに対し、戦を仕掛けた。まあ、思った以上に大きな戦にはなったが、それすらも問題ではない。お前 をおれのもとにおいておくためなら。』 電話のベルで唐突に目が覚める。いつもの電話。今日はさすがにそのまま寝入る気にはならなかった。 多分、ここでねいったら、あの続きじゃないのかなあ。 そこまで考えて、私は、思う。 あれって、あの続きって、もしかして、最初に見た夢? はじから、思い返してみる。不思議なほど、夢ではなく現実ではないかと思えるほど、はっきりと覚え ている。まあ、あの荒唐無稽さは夢でしかないとしても。 めずらしく時間がある朝。のんきに新聞を開きながら、思い返す。もしかして、夢の中の時間、最初は あの場面からになるのかなあ。 メモ帳を取り出して、夢の内容をメモる。 そう、やはり最初は将軍が降伏勧告を受けたときからか。そして、あとは、そのまま時間は下る。その まま、戦神に会う場面まで。 「だけどさ、何であんな夢、見たんだろ。」 よく分かりはしない。所詮は夢。その手の本を読んでいたわけでも、そういう内容の何かを見たわけで もないのに。どうして。 何気なく、時計を見て、慌てる。どうしていつもこんなんだろ。 「別に好きで朝余裕がなくなるわけじゃないのにな。」 ぼそっと呟きつつ、仕度をして家を出る。今日だって、いつもより早く起きたにもかかわらず、時間ぎ りぎり。いつから朝飯を食べなくなっていたのか、思い出すのも馬鹿らしかった。 集まってしゃべるだけのサークルに顔を出してくるとさすがに遅くなる。ついつい無意味に長話をした 後、夕飯を食べはしないで、そのまま、家に戻ってくる。適当に何かつくって食べるか、そのまま抜くか は、その時の気分次第。それでも、週末ともなると、さすがにほっとする。今週はもう、これで何もない のだから。 「明日は思いっきりストレス解消できるな。」 そう、この時には夢のことなど忘れきっていた。パソコンを開いて、ゲームをやって。結局、今日も食 事は抜くのだろう。 |