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しばらくろうかでたたずんでいると、予想通り、先ほど将軍の前であった使者が出てきた。 『話しがあるんだが。いいか?』 先に声をかけてきたのは使者の方。おれは素直にうなずいた。拒む理由はどこにもない。そのまま使者 は与えられた部屋まできた。使者は扉を開けて、従者らしい、部屋の中にいた奴に、しばらく話しをした いから、ここに人を近づけないで欲しいと頼む。そいつは素直に部屋の外に出た。使者の後に続いて、お れもその部屋の中に入った。 『話って、何だ?』 将軍の前では知らぬ顔をしていたが、全く知らない仲じゃない。無造作にそう言ったおれに、そいつは 軽く笑った。 『相変わらずだな。まあ、お前が変わるような性格とも思えないが、ここでも星って呼ばれてるんだな。 捕虜からそんな話し聞いた時、まじで笑えたぜ。戦神は激怒してたが。』 人の事言えるかよ、こいつの性格だって変わってやしねえ。 『好きで呼ばれてるわけじゃねえ。いいかげんにしろよ、ユイエル。このまま、おれはこっから逃げても いいんだからな。そうしたら、戦神にひどい目に遭わされるのは将軍だけじゃねえだろ。』 『へえ、不本意だったのか。まあ、でも、お前の性格からすると逃げねえだろうが。』 おれは軽く舌打ちをした。ばれてる。 『極めて不本意だね。それに、お前に星と呼ばれる筋合いもない筈だ。』 使者の瞳がすっと細くなった。 『だったら、どう呼べば良い?戦神のお気に入り。どうして戦神から逃げ出す?お前が逃げ出しさえしな ければ、この戦はおきはしなかったと、はっきり言ってもらいたいか?』 こいつの性格はめちゃくちゃ悪い。悪いからこそ、使者という役柄が務まる。ただ伝えるだけでなく、 そそのかすという事をやってのけるのだから。さらに言うと、その時だけ、誠意を込めるのだから始末に おえない、それで騙されるやつがどんだけいる事か。 『別におれはかまわないぜ。おれは自分の権利を行使しているだけだからな。この戦がおれのせい?鎖で 縛りつけられる前に逃げ出す事は縛られそうになってるやつの当然の権利だ。どう考えたって、縛り付け ようとしているやつが悪いに決まっているだろ。』 多少の罪悪感がないといったら嘘になる。それでも、おれはそう突っぱねた。おれが、戦神のところに 行くのを嫌がる理由は鎖に縛り付けられるからだけではない。いやでも自覚させられるからだ。普段は忘 れている事を。 『意地になる必要はないと思うがね。と言うより、どうしてそこまで、意地を張るんだ。おとなしく、戦 神の隣りの位置におさまっちまえば良いものを。結構お似合いの居場所だと思うね。』 真顔でなんて事を言いやがる。おれの性格がそんな大人しいものなら、こんな事が何回もおきはしねえ よ。しかし、こいつも性格悪い割には、おれと戦神との関係をえらく心配してやがる。もしかして、使者 としてきた理由の一つはそれかよ。 『とりあえずは戦神のとこに行く。これについてはきっちり話しをつけとかねえと。いい加減こっちもこ ういう状況にいるのはもういい。』 『それは戦神のとこに戻るという意味にとっても良いのか?』 その問いには首を振る。 『いや。単に話しをするだけだ。大体、おれの戻るところは、戦神のところじゃないぜ。』 『ああ、戻るとこ、の発言は黙っといてやるよ。そんな事本人の耳に入れたら最後、お前は二度と自由が なくなるぜ。まあ、どんな状況からも逃げ出しちまうんだろうがね。』 使者は笑いながらいった。それはおれの特技といっても良い筈だ。まあ、そういうことをするから、あ いつも自棄になって追いかけるという面もあるんだろう。 『実際、一つだけ聞かせてくれないか?』 おれはたじろいだ。何だ?今まで見た事がねえほど真面目な顔してやがる。 『...なんだ?』 『お前は戦神の事をどう思っているんだ?好きなのか、嫌いなのか、どちらかで答えて欲しい。正直な 答えが聞きたいんだ。嫌いという答えでもかまわない。この答えで、お前がひどい目に遭うような事はし ないと約束してやる。』 軽くため息をついた。何だあ。使者は無言で答えを待っていやがるし、おれも、しばらくは口を開かな かった。 『.........それは、まあ、嫌いじゃねえし、そりゃ、そうきかれたら、確かに、答えは一つだ けしかねえよ。』 そのまま、そっぽを向いた。誰が言える、あんな言葉。 『ほう、その返事は要するに、おれの期待通りの答えと取っていいんだな。』 『......かまわねえぜ。』 にやにや笑いながら言うあいつの顔を睨みつける。それでも、笑顔など、久しぶりに見た気がする。連 敗続きで、人の笑顔など無理に作ったものしか見れなかったからだ。ただし、それをおれのせいだとは、 おれは思わない。 目を開く。やったあ、今日はいつもより早くおきれた。......ただし、もう8時はすぎてるけ ど、そう思いながら、ごろごろ布団の中でころがっている。...既に8時20分。うげ。どの服着てい くか考えながら、急いで行く支度を整える。一限の語学に結局間に合うかどうかの瀬戸際だわ。そうおも いながら、いえをでる。けっこうやばあい。綱渡りの人生。そんなん歩みたくはないのに。 2限はないから家に帰ってきて、洗濯物を持ってお風呂場へ。洗濯しながら、適当に部屋を片づける、 ような性格なら、まあもっときれいな部屋になってるだろうな。昼。適当に何か食べて、家を出る。 帰って来たのは4時30分頃。テレビはもう始まっている。途中から見ても意味ないから、そのまま転 がる。結構自堕落な生活をおくっているとの自覚はあるが、それでも、まあしょうがないでしょう。そん ないいわけが通用するほど、のんきな生活。そう、あの世界とは違うのんきさ。命のやり取りなど、存在 しない世界。それが私の住んでいるところなのだから。余計なとこで、余計な事まで考えてしまった。 だって、さ、あんな言葉、誰が言うのよ。妙に自分の台詞じゃないのに、やたらと恥ずかしい。だけど、 多少気になる。なんなんだろう、あれは。普段は忘れてる事って? 日は暮れる。そうしてまた、夜になる。あの夢の時間に。 |