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「おれの選択を、怒るか?」 「いや、怒らないさ。それに今更。済んでしまった事だろう。」 「生きて欲しいとお前は言った。生き続けて欲しいと。だがおれは、世界全てを犠牲にして、お前の後を 追った。」 どこか不安げに見つめられる。しらず、あきれたように笑っていた。それは声を漏らすほどの笑みと なった。 「くく。」 それがよくわからないようで、きく。 「なんだ?」 「いや。お前に連れ戻された時、戦争をおこしてまで、おれを手に入れようとしたときな、あの時言った だろ。いうとやるのとでは、大違いだと。」 そう言いながら、笑い声がこぼれる。その笑顔を愛しそうに見つめられる。いつもの、瞳。それでも何 を言われるのかがわからないのだろう、問う。 「それで?」 「あの後な、いわれたんだよ、あいつに。」 多少顔をしかめる。何を言われたのかが気になるらしい。そんな表情を見て、さらに笑う。 「この程度ならまだかわいいもんだって。あいつなら、いつかこの世界を犠牲にしてまでも、お前の後を 追うんじゃないか。」 言われた時の口調を真似して、言ってみる。冗談めかしていたが、それは本心だったのだろう。 かすかに不機嫌だった表情が一瞬驚いたような表情になり、その後、気に食わないとでもいいたげな表 情を見せた。 「だから、おれとお前が敵対できた時、安心した事は確か。お前は国として、部族の頭ではなく、王とし ての判断を、おれに執着するせいで誤る事はなかったと。おれを切り捨てる事ができるのだと。」 口を止め、声に出さずに、心が呟く。 おれに執着せず、王として、きちんとやっていけるのだと、そう思った。だから、あの戦の指揮を執っ たのだ。滅んだ部族の、単なる意地でしかない、何も得るものなどない、あの戦の指揮を。だが、結果は これ。結局こいつは世界を巻き添えにしてまで、後追い自殺をやってのけた。 だから、笑うしかない。どっちにしろ、おれがこいつに、戦神に求めたのはおれが存在しない世界で生 きていく事。今ならわかる、それがどんなに辛い事なのか。どんなにこいつがそれをいとんだのか。どん なに残酷な事をしてしまったのか。だから、笑う。最初に見せた笑み、思い出したことをおかしいと笑う のではなく、相手に負担を感じさせない為に。こいつに自分ひとりの罪だと思わせない為に。何より、も う、済んでしまった事なのだから。 「......おれがお前を切り捨てる事なんて、できないんだ。」 呟く戦神。そう、本当はそんな事はわかっていたのだ。 「知ってるさ。悪かった。本当に。」 ひどいのはおれのほうなんだから。 「何故、謝るんだ?」 戸惑ったような表情、そういえば今回、こいつを戸惑わせてばっかだな。 「おれが、お前にそういう選択をさせてしまったことをさ。」 なんて表情をしているのだろう、本当に。どうにかして、何かを言おうとしている様子がはっきりと分 かる。言葉なんて要らないのに。何を考えてるのか、何を言いたいのかくらいは、わかるのに。 結局この状況でも、伝わらないのだろうか。心は。ここはもう、存在しない人の世界だというのに。 「.........選択した事は、後悔していない。後悔しているのは、お前を失ってしまった事だ。 他にもやりようがあったのではないかと、それが気になっていた。」 本当に今更。そう思いながらも、感じてしまった、後悔。戦の時から感じていた。戦神のためらいが。 あれだけの兵力差とこいつの能力からすれば、死にもの狂いで、命を捨ててそれでも、おれが戦神のと ころまで、行ける筈はなかったのに。おれが戦神のところで死ねた事が、戦神が、おれを殺したくなかっ た事、おれを敵としたくなかった、何よりの証拠。 だから。 「もう、いいさ。」 ポツリと呟く。真っ直ぐ、見据える。言葉で想いが、届くように。 「お前を愛していた。閉じ込められるのも縛られるのも、お前を縛り付けてしまうのもいやだったけど、 愛していた。すごくおれがお前に対して我が侭な事をしていたのも、わかっている。最後に、ひどく辛い 選択を、押し付けてしまった事も。だから、おれはお前の選択を責める事はない。その選択をしたせいで お前が罰を受けるというなら、おれも甘んじて受けてやる。だから、もう.........」 軽く伸び上がるようにつま先立ちになり、唇を重ねる。残っているからだの感覚にしたがって。もしか したら、もう、意味の無い事なのかもしれないが。不安定な体勢で、唇がふれあってから、ゆっくりと離 れた。瞑っていた目を開いて、はっきりと、おそらくおれが今まで見せてきた中で、最高の笑顔を見せ る。 「過去は忘れて、来世で、また逢おう。」 これは誓い。いずれまた、星でもなく、戦神でもない、新しく生まれ変わった先の未来で。誰か、違う 名をもつ、他の者として。同じ世界、同じ時代に生きて。それくらいは、許されるだろう。 言った言葉がキーワードであったかのように、目の前で、扉が開かれた。おれは、前を向き、歩き出 す。新たな違う人間としてまた生まれ、あたらしい人生をはじめる為に。その人生の中で、さっきまで隣 りにいた人に何処かでまたあえることを望みながら。 |