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夢を見た。 草原で、幼い二人の子どもが遊んでいる。無邪気に。 二人は仲良く、楽しそうにみえた。まだ男にも女にもわかれてないような子どもたち。 それを微笑みながら見つめている大人達。 「本当にお前達は仲がいいな。」 一人が声を掛ける。 「うん。」 大きくうなずく、男の子。 「僕ねえ、大きくなったら、ステイルを、妻にするんだ。」 無邪気なその言葉に周りの大人達は好意的な笑い声を立てる。 「ステイルが、ウェイルの妻か...それもいいのかもしれませんな、アスティどの。」 「ステイルは、我部族の跡継ぎ。それをよこせとは、アウェンどのもむごい事をいいなさる。」 笑顔で話を持ち掛けたアウェンに対し、アスティはわざと渋い顔をして答える。 「父上、アウェンどの、それにウェイル。私がウェイルの妻になるには、ウェイルが私に勝たなきゃいけ ないんです。それを忘れてないですか?」 笑い声が上がる。 「それもそうですな、アスティどの。ならばウェイル。お前がステイルを妻にしたいのならば、ここで、 ステイルを打ち負かせてごらん。」 「はい。」 元気よく、ウェイルは答える。 「ステイル、負けたら、僕の妻になってもらうからな。」 ステイルは、きっと睨む。 「負けたらね。」 その口調には負けるものかという意気込みがあらわれてた。そして、腰に佩いた剣を抜きかまえる。 「真剣で、勝負してもらう。」 宣言したステイルに、周りはぎょっとする。 「真剣で負けない限り、私はまけと認めない。」 それを聞いて、アスティは深く溜息をついて、慌てているアウェンにいう。 「ステイルはああ見えて頑固ですから、いうだけむだですな。」 「しかし、万が一ということがあったら...」 「その心配は無い程度には、お互い、剣が使えるでしょうし、ま、万が一なにかがあったら、わしがいか ようでも責任を取りますからな。」 不安そうなアウェンをなだめて、アスティは穏やかに宣言する。 「ふたりとも、いいか。......では。はじめ!」 キン 剣がぶつかりはじかれるようにわかれる。あくまでお遊びの一つとしてみている大人達と対照的に子ど もたちは真剣だった。子どもらしい一途さで。 ウェイルが仕掛ける。頭を狙うと見せかけて、胴を鋭くつく。それをよこにかわし、ステイルは逆に、 ウェイルの頭めがけて、剣をおろす。 キン それをウェイルが下からはじく。とたんにステイルは後ろに大きく下がった。それを追ったウェイルの 一撃をぎりぎりで避け、さらに、間合いをとる。 周囲から歓声が上がっている。まだ年端も行かない子どもたちの剣の見事さに感嘆の声がもれる。両部 族の民が固唾をのんで見守っている。いつのまにか周囲は人垣ができるほどに増えていた。 「見事ですな。これほどまでに使えるとは。どうです、本当に婚約させてしまいませぬか?」 「アウェン殿。ステイルは我部族の後継ぎ。そのお話はお断りするしかないですが...そうですな、 ウェイル殿がステイルの婿としてこられるなら、歓迎いたしますぞ。ステイルとウェイル殿、どちらも私 の後を安心してまかせられますからな。」 「それはこちらが困ります。こちらもウェイルは後継ぎですぞ。他の部族にさし上げるわけに は.........」 大人達の会話をよそに二人の勝負は続いている。お互いの攻撃をかすりもさせず、それでもまいったと いわせようと、細かに攻撃を仕掛ける。さすがに疲労の色が見え始めているが、二人はやめようとしな い。 キン 激しい音がした。ステイルが自分のふところに誘い込んでから、ウェイルの剣の柄近くを強く打った。 ウェイルはその勢いに剣をてばなす。剣は、高く飛んでいき、 ざく 地面に突き刺さった時には、ステイルの剣が首もとについていた。 「おれの勝ち。」 肩で息をしながら、ステイルはそう宣言する。 「もう一回!」 ウェイルが諦めきれずそう要求するが、ステイルは、首を振って、一歩下がって、剣を納める。 「アウェン殿、ウェイル殿。これで、ステイルの事は諦めて下され。」 アスティがしずかにそう告げた声が、いつまでも、のこった。 戦神は目を覚ます。自分が泣きそうな表情をしていることに気がついてはいないだろう。幼かったころ の夢。あのころはよかった。自分は何も知らなかった。望んだ事はいずれすべてかなうと思っていたの に、そうではないと気づかされたのがあの日だった、それでも。 幸せだった日々。そう、もはや、戻れない。どれだけ悔やんでもどれだけのぞんでも、あの日は、あの 日から続く日々は、戻ってきはしない。悲しんでも嘆いても。あそこで勝っていたら、なにかは変わって いたはずだ。そんな事まで考えてしまっても。 目覚めてしまった以上、待っているのは、辛い現実。馬を引く音、人々の怒声、鎧がぶつかり、武器が 出している。人々はあわただしく、戦の準備をしている。星の部族を倒すための、戦の。 星は目覚めて、微笑む。懐かしい日々。思い出に声を出して笑う。 そう、あんなこともあったな。あの時むきになったのは、べつに戦神の妻にされるのがいやだったわけ ではなくて、周りの大人達がおれが負けるだろうと見ていたのが、悔しかっただけ。あれからしばらく、 戦神はずいぶんしつこかった。あの勝負のやりなおしをしろと。おれを妻に迎えるのだと。一度ついた勝 負だからと、おれは応じなかったが、その勝負を理由に戦神の求婚にも応じなかったな。まあ、あそこで 戦神が勝ってもその望みはかなわなかったはずだ。 あれから、何年もたっている。戦神のジェンシェン族は徐々に力を増して、このあたりの部族をまとめ あげ、戦神を頂点として、中央の勢力争いに加われるほどの力を備えた。おれのシンフォン族もその下部 に属していた。それは今はもうなき部族。そして、その後始末をつけるのが、おれの族長としての、最初 で最後の、役目。 泣きそうになる。この二人は、戦うしかないのだろうか? |