夢想
〜 破壊された世界 〜


日曜日―世界のつながり [4]

作:ナーヤさん

 おれは塔の中に入った。窓から。窓際にぼんやりとしていた彼女に頼んで中に入れてもらって。美人では ない、どちらかというと、かわいいといわれる類の女性。普通の女性だよな。ふとそう思った。おれと 違って、普通の、自分が女性だとわかっている存在。そう思い苦笑する。
「あの...」
 彼女がおれのほうを見て、何かいいかけようとした。
「ああ、入れてくれてありがとう。」
 とりあえず、礼くらいは言っておかないとだよな。女性相手だから、いつもよりは丁寧な口調を使う。 昔、礼儀だけは習ったんだよな。
「あ、いいえ。」
 どこか戸惑ったように、彼女は言った。おれを見つめてる感情は困惑?まあ、普通は窓から来る奴なん かいねえよな。
「自己紹介したほうが、良い?」
 おれはそう尋ねた。彼女は首を振った。
「ステイル、ですよね、戦神の想い人の」
 想い人.........名前を知っているのは納得できるにしても、想い人っていうと は......虚を衝かれ、自分がどんな表情をしたのか分からなかった。
「想い人かどうかはともかく、ステイルです。」
 本当におれはどんな表情をしたのか。美夜は笑っていった。
「普段使ってる口調で、かまわないです。そっちの方がなれていますから。」
 そういってから、彼女は自己紹介をした。
「美夜と申します。この世界はあなたの視点から、ある程度見せてもらいました。」
 意外な言葉を聞き、驚く。
「じゃあ、おれと、あいつのやりとりも?」
 言葉づかいが変わっている事に気がついているのかいないのか、彼女はうなずく。
「戦の終わりに、条件として、あなたが戦神のもとに行く事っていうときのやりとりなら、見ました。」
 おれは赤面する。同時に納得する。
「それで、想い人か。」
 彼女がうなずく。
「どうして、傍にいないで、離れてしまうんですか?好きなんですよね。」
 真っ直ぐきかれてたじろぐ。これは、答えなきゃいけないのか?困惑しているおれにかまわずに、尋ね る。
「好きだったら、そばにいたいんじゃないんですか?どうして、離れようとするんですか?」
 決めた。誤魔化す。ここで押し問答しているだけの時間が惜しい。ついつい、美夜のペースにのせられ ていたことに今更ながら気がついた。
「...その答えはまたいつか話す。それよりも、ここから出ないか?このままだと、美夜は永遠にここ にいなければならない。永遠にここにいたいというなら置いていくし、そうでないなら、おれの後につい てくるといい。時間がないから、早く決めて欲しい。...どうする?」
 おれが嫌なのは、個人の意志が無視される事。本人が承諾しているなら、問題はない。
 美夜は、少し考える様子を見せた。そして、頷いた。
「ついていきます。その代わり、後で聞きたい事には答えて下さいね。」
 なんで、そんな念を押すのか。おれは多少うんざりとした。先ほどのような事をきかれたら逃げ出そう かと考えながら。彼女のききたいことが他の事だとは、思わなかった。

「おれは、自由でいるのが好きだ。ただ、自分の意志のままに行動していたい。おれをしばることは許せ ない。だから、どんな状況からでも、逃げ出す。それがおれの意思に反するものならば。」

 戦神。私をこの世界に呼んだ人。でも、この人が本当に望んでいたのは、私をこの世界にとどめておい て、この世界を存続させることではない。
 ただ、星が存在していること。それだけが望みだった。そのために、星が存在するためには、世界が存 在してなければならないから。ただ、それだけで。この人は、私に世界の存在を、望んだのだ。

「わかりました。仰せの通り、この世界に夢見人を捕えます。ただし、条件が一つ。」
 そういって、おれの部族の呪術師はぶしつけにもおれを見つめて、言い聞かす。
「戦神様が夢見人をこの世界に捕える本当の理由を、誰にも言わない事。これが条件です。」
 その条件の理由が分からない。それでも、おれはうなずき、了解の意をしめす。もともと、誰にも言う つもりなどはない。
「わかった。」

 そして、この世界についた私は塔に閉じ込められ、それから、いなくなった。

 城で、戦神は苛立っていた。せっかく捕えていた夢見人の逃亡。しかも、それを行なったのが星であっ たという報告。夢見人を捕えておけばこの世界は、そして、あの人は存在していられる。それなのに。と にかく、夢見人を元の世界に逃がすわけにはいかない。それゆえ、夢見人をとらえ、連れ戻す。それが、 現在とるべき手段。星がからんだ以上、自分で動きたかった。ステイルを説得して、2人とも、連れ戻 す。
 ここで戦神が動いていたら、世界の運命は変わっていたかもしれない。だが、戦神は動けなかった。長 という立場ゆえ。立場、義務、そういった者が彼を縛り付け、夢見人を逃がす前にステイルとした口論 が、彼をすくませた。それゆえ、彼は臣下の一人、フォウルに命令する。
「夢見人をとらえ、連れ戻せ。」 と。必ず生かして捕えるように。
 臣下―フォウルは、自らの部下達―群を率いて、出発する。戦神は気がつかなかった。そのものの思惑 を。

 夢見人を連れ戻すように戦神に命じられたもの。彼は軍を率いて星の部族へと赴く。
 この者が知っていたのは、ここが星の出身部族であり、戦神傘下の一部族である事。この部族から、星 は放逐された。だから、好き放題に傭兵として暮らしている。戦神の敵か味方かなど、気に掛けてもいな いようなもの。それなのに、星は、何故、戦神のもとにいるのか。
 それがたまらなく、憎らしかった。何故、このものに限ってそんな事が許されるのか。
 故に.........しておきたい事は、星の抹殺。あの者に関わる事は戦神の益にはならぬ。
 あんな男のなりをして男の言葉を話して、男どもなかに平然といるような、女としての美徳の欠片もな い女は。自分の妹の方が、たおやかで女らしい美しさに溢れ、大人しく殊勝で、戦神の妻としてふさわし い。
 何より、この者は知らなかった。戦神の星に対する狂おしいほどの執着。そして星がこの部族の長の娘 であり、現在放逐されたという形が取られているだけで、この部族の次期族長であるということに。

 なかったかもしれない。あんな悲しい出来事。

「なあ、おい。」
 ぞんざいな口調で、戦神に話し掛ける人。見覚えがある。...確か、使者として、将軍のもとに赴い た人だ。ユイエル。きつい目で、戦神を見つめる。
「本当に、それでいいのか?」
「何が?」
「お前が自分で行かなくて。」
「この程度の事でおれが動くわけには行かない。」
「この程度、ね。大事なものと他のものを天秤に掛けるのはよすんだな。いずれ、後悔しても知らないか らな。」
「...どうしろと?あいつが夢見人を連れ出した。おれはやる事があって自分で行くわけにはいかな い。だから、連れ戻すようにと命じた。仕方がないだろ。」
「本当はただあいたくないんだろ。お前は昔、戦までしてでもあいつを手に入れるといって、実際にそれ をしたんだ。だとしたら、今更、あいつに関してお前がむきになるのは誰もが分かっているはずだ。今 更、必要の無い意地など張らなければいいだろうが。」
「.........なんといわれようと、無理なものは無理だ。連れ戻すように部下に命じた。後はこ こで待っていれば、ふたりとも、戻ってくるはずだ。」
「............本気でそう、思っているのか?」
「ああ。」
 決裂。この人は気がついていたのかもしれない。この先の未来を。
「.........だったら、一発殴らせろ。」
 戦神が、何を言われたのかわかる前に、戦神の体に、ユイエルのこぶしがはいる。その勢いに戦神の体 は立っていられなかった。
 座り込んだ戦神に対し、ユイエルは怒鳴りつけて、そこから立ち去る。
「いいかげんにしろよ!」

 ユイエルは馬を駆け、急ぐ。この人は本来は一つのところにとどまる人ではなかった。流れて、うた う、吟遊詩人。人々に夢を届けながらも、自分自身に夢はなく、ただ、他人に夢を見させる。
 その人が初めて見た夢。戦神と星が並んで、この世界を治める事。途方もなく、無謀な夢だったのかも しれない。それでも、見てみたかった。この国を統治するだけの器量をもつものは、戦神と星だけだと 思っていたから。...そして、そのどちらが欠けても現実にならない夢。
 まだ間に合うかもしれない、その思いが、彼を星の部族の下へと急がせた。

 それでも結局、この人は間に合わなかった。

 フォウルは星の部族のもとに、辿り着く。そして、居丈高に命じる。
「この部族の長にあわせろ。」
 と。
 戦神の命を受けているという意識。そして、自己の部族の方が戦神直属であり、優位にあるという意 識。その高圧的な態度にいきり立つ周囲を宥め、族長は戦神からの使者であるフォウルに対峙する。
「私がこの部族の長だが、戦神様の使者は何用があってこの地にまいられた?」
 丁重な部族の言葉を無視し、フォウルは言い放つ。
「引き渡してもらいたいものが二人。この部族に逃げ込んだはずだ。一人はこの部族出身のステイル。も う一人は、美夜と名乗る少女。」
 集まっている部族のものたちがざわめいた。
「どんな理由があって、引渡しを要求するのか?」
 長の隣りにいたもの―マヌイが誰何する。
「ウェイル様の命だ。よもや、逆らいはせぬよな。」
 長が静かに問う。
「どういった理由によって、ウェイル様はその二人を引き渡す事を要求なされているのか。」
「美夜は、夢見人だ。その夢見人を勝手にステイルが連れ出した。故に、美夜とステイルの引渡しを要求 する。まあ、美夜に関しては、大事な夢見人だ。生きたまま連れてかえるつもりだが、ステイルに関して は、話は別だ。場合によっては、殺してもかまわぬと思っている。」
 その一言で、まわりが、さっと殺気だった。
「それは、本気ではあるまいな。」
 長の、雰囲気が変わっている。厳しい、触れるだけできれそうな...それにフォウルは気がつかな かったのか.........
「本気だ。夢見人に死なれては困るが、ステイルの生死など、かまわないからな。いや、そもそも、戦神 の傍にあのような娘がいうのがおかしいのだ。あのような男だか女だかわらないようなものなど。」
 殺気立っている部族のものに触発されて、フォウルが率いてきた一軍も応戦体勢になっていた。
「どうせ、この部族からも放逐されていたのだろう。厄介者の始末を私がつけてやるんだ。さっさと引き わたせ。」
「断る。」
 きっぱりとした返答。
「異な事を申される。ステイルはこの部族の次期族長。殺すという者に引き渡すことなど、できるわけも ない。そもそも、戦神の命にせよ、使者どのの言葉は、あまりに無礼。そのような無礼な申し出、受ける 気にもなれん。」
 周囲に怒りを押さえるようにと静めてから、そのままきびすを返し、話し合いは終わったとばかりに戻 ろうとする長に向かってフォウルは怒鳴る。
「拒むというなら、力づくでも引き渡していただく。」
「他部族に対し、あまりに無礼な振る舞いではないか?」
 マヌイが、怒りのあまり、怒鳴った。周りの部族のものたちが、そうだと、声を上げる。一触即発の状 況になっていた。
「な、何を言う。私は戦神の命を受けたものだぞ。」
「戦神の命を受けていようが、他部族への礼儀ができているとは思えない態度。わしらはその命に従う気 はない。お引き取りを。」
「次に来るものは、もう少し、ましなものを頼むぜ。」
 やゆるつもりではなかったのだろうが、言われた言葉に、フォウルは、怒りをあらわにする。
「戦神の命に従う気はないと。ならば、いい。力づくでも、引き渡していただく。」
 この人が使者に立たなければ、よかったのかもしれない。フォウルは剣をぬいた。部下も一斉に、白刃 をさらす。
 部族長が止める間は、無かった。
 部族の者たちも剣を抜き、武器をかまえる。...............双方は、一斉に動いた。

 ステイルが部族のものたちのもとへ戻ったときには、全てが終わっていた。フォウルは愚かにも部族長 を手に掛け、それがために、部族のものに殺されていた。配下の軍も、大半が殺され、一部が、ちりじり になって、逃げ延びた。
 そのうちの何人かが戦神のもとに辿り着き、そして、告げる。
「謀叛。...引渡しを拒み、戦神に向かって、反旗を翻した」と。

 使者の言葉をステイルは知らない。ただ知っている事実は、戦神配下の者が族長を殺した。部族の者も 殺され、自らは戦神配下の者を手にかけた。もはや、戦神の傘下には戻れず、また、部族の意思として、 戻る気も無い。これだけ殺害されれば部族としての未来はなくて。生き残っているものは復讐心に燃えて いる。他の選択肢は、誰も望まなかった。
 旗印は存在している。ステイルは担ぎ上げられる。戦神に報いるための矢。
 そして、ウェイルも動きざるをえない。ウェイルの、戦神の名を受け赴いた使者を傘下の部族が殺し、 そのまま、戦神へ反旗を翻したのだから。他への見せしめと、戦神を頂点とする集団の権威のため、ウェ イルは討たざるをえない、星を―ステイルを。
 運命は転がり続ける。破滅への道を。いつから転がりはじめていたのか、何処かで引き返すことはでき たのか、わからない。
 ただ、はっきりしているのは、もう、引き返せない。そして、とまることも、ない。もう、ころがっ て、最後まで辿り着くしか、ない。

 .........なにかのなる音がす る............................ああ、電話だ。
 意識すると同時に、目を開ける。部屋が薄暗い。半ばぼんやりとしながら、私は受話器を取る。
「はい。」
「...ようやくでた。」
 あきれたような、誰かの声。
 一瞬おいてそれが誰の声か認識すると同時に、盛大に文句を言われる。今日出かける約束をすっぽかし たのはどうしてだ、と。ぼんやりしていた頭を動かして、慌てて時計を確かめる。ちょっと待って。
「ねえ、今って、午前?午後?」
 大きく溜息をつかれ、あきれたような声で、午前のこんな時間に電話するわけないでしょといわれる。 予想以上に、私は眠りこけていたらしい。
 ......どうしてこんなに寝入ってしまったんだろう...そう思いながら、ひたすら謝る。
 電話を切り、また、布団の上に倒れ込む。今からおきても無意味だろうなあ。それに、それ以上に、眠 かった。あれだけ寝たのになあ...そう思いながらも、思い返す。あれは夢だったのか、と。
 現実としてみるには、認めるだけのものはない。夢としてみるには...?
 夢の中で生きている人々。存在している人達。夢の中に自分も存在して...へんな立場だったけ ど...そのせいであの二人が戦わなければいけなくなってしまったのは......きつい。すごく、 痛い。
 でも。
 それで、どれだけ私が痛みを覚えても、彼の―戦神の、彼女の―星の痛みの比では、ないんだろうな。 電気もつけない、薄暗い部屋の中で、そう思う。...だから、それが、ひどく、痛かった。
 いつのまにか、意識は沈む。あれだけ寝ていたのに、どこかつかれきっていて、私は寝入る。夢も見ず に、ぐっすりと。
  そして、
 しばらくはあの夢を見なかった。戦神も星もどうなったのか、気になっても知ることはできなかった。








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