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部屋にいるのは二人だけ。 『ったく、それだけの為に戦を起こしたのか?』 問い掛けたのは背の低い方。そして答えを求められている方はその問い掛けに相手をじっと見つめて答える。 『そう。お前を手に入れる為だけに。』 『そうはっきり断言するな。』 苦笑したようだった。いや、呆れているのか。 『毎回逃げられているんだ。こうでもしなければ、お前は手に入らない。』 『何故、おれを手に入れようとする?おれが逃げ出さないように、他の者に責任を負わせる形で。』 じっと見つめて問い掛ける。答えを求める。 『では、何故、お前はいつも逃げる?おれのもとにいてくれないんだ?』 答えではなく、問いがかえってくる。強い瞳で見つめる相手から、目を逸らし、答える。 『縛られるのは嫌いだ。その相手がたとえ、お前でも。』 相手はその肩をつかんで叫ぶ。 『お前を人に渡したくない。おれだけのものにしたい。それのどこが悪い。』 その言葉に睨み付ける。 『それがいやだ。おれはおれだ。おれは人の物にならない。』 『お前を手放す気はない。お前を手に入れる為なら、何でもするということを、分かっていただろう。』 相手の冷たい声、その言葉。それでも肩をつかんでいる手を離させ、強い口調で言う。相手に負けないほどの強さで。 『実際やるのと、やらないとでは大違いだ。』 『お前がいなくては生きていけない。』 相手は、囁く。耳元で。真剣な声で。その言葉を。 『おれは必ず生きている。お前に内緒で死にはしない。それでいいだろ。』 ため息をつくように、言葉を返す。それでも、相手は不安げな様子を見せる。 『絶対的な安心が欲しい。どうしてもお前が傍にいてくれないかぎりは不安だから。傍にいてくれれば、安心ができる。』 『どうしてそこまで執着するんだ?』 はっきりと呆れた様子に、相手は戸惑いながら、答える。 『分からない。それでも、お前をおれのものにしたい。はっきり言ってしまえば......お前が他の者と話しをしているだけでもいやだ。』 『......病気だな。』 相手はそれを意に介さない。 『何とでも言うがいい。とにかく、おれはお前を傍に置きたい。』 相手の言葉を跳ね除ける。自己を確定している強さで。 『おれが嫌だ。はっきりと断る。』 『おれが嫌いか?』 戸惑ったのは思いがけない言葉だったから。戸惑いをあらわにしながら、答えを探す。 『......そうじゃない。だから...おれが好きなのはお前だ。他の誰でもなく。そしておれはどんな時でも生きている。...これでいいだろ。』 その言葉に相手は納得しようとはしない。 『よくない。どうして、ならば何故、おれの傍にいてくれない?』 ため息一つ。どうしてこうも。 『堂々巡りだな。』 『......傍に、いて欲しい。お願いだ。』 驚いたのは、相手が頭を下げたから。普段はそんな事をしない、プライドの高さを誇りにするような人の思いもかけない態度。 『ったく、頭まで下げるもんじゃねえよ。』 動揺しつつ言う言葉に、相手は真摯な瞳で見つめてくる。 『お前相手にならいくらでも。それでお前がおれのものになるのなら。』 『それは、不可能だ。おれは人のものにはならない。お前だけでなく、他の誰のものにも。』 その言葉に、相手の瞳に強い光が宿る。一種狂気じみた瞳の光。 『ならば、閉じ込める。おれ以外の誰にも会えないように。』 『どうして、そこまで執着するんだ。』 『それは、お前だからだ。』 一瞬の沈黙。そして、不思議なほど、無邪気な笑顔を見せた。 『...ありがとう。だが、お願いだ。おれを自由にさせて欲しい。必ず、お前の元に戻ってくる。何より、おれの心はお前と共に有るのだから。』 とまどう。拒絶しか見せていない人の、思いもかけない言葉。その言葉に、いつもは聞けない優しい声に、歓喜を見せつつ確かめる。 『......絶対にだな。』 『ああ。絶対にだ。約束する。必ず、お前の元へ戻って来ると。だから、あいつは解放してやれ。あいつにだって、大事な人がいるだろう。捕えられているのは、かわいそうだから。』 どんな願いでも聞いてやりたい。そう思い。簡単にイエスを出す。確認を求めつつ。 『分かった。約束だ。忘れないで欲しい。お前の居場所はここにあるのだと。』 『忘れない。お前だけは絶対に。』 目を覚ます。枕元の時計を確かめる。針がさしているのは無情にも、9時。そのまま、ばたんと起き上がったばかりの布団の上に倒れこむ。既に授業は始まっている。 「はああ。二限からだな。どうして毎朝毎朝。お前は起きれないのよ。」 昨日寝たのは早かったのに。起きた時刻が変わらない事に腹を立てつつ、起き上がって、着替えを始める。トーストを焼きながら、新聞を取り出して眺める。軽くめくりながら、テレビ欄を見て、それから、一枚一枚丁寧に見始めた。 焼けたトーストを食べながら。ふとした動作の弾みで、見た夢を思い出した。寝起きは完全に忘れていたのに、思った以上に、はっきりと会話を覚えていて、思わず赤面した。 「どうしてあんな夢見たんだろう。」 人に言えないのは確かだ。下手に言ったものなら、まじめな顔をされて肩をたたかれ、早く彼氏作りなさいよ、といわれるのが落ちだ。別にこっちだって作りたくない訳じゃあない。いない方が楽かなあとつい思ってはしまうが。 朝の一時間はあっという間に過ぎてしまう。私はかばんを手に、家を出た。 戻ってきたのは予定より遅かった。 「ああもう、どうしてこんなに遅くなったのよ。」 友達とのおしゃべり、そしてそれを早く切り上げる事ができなかった自分に腹を立てながら、ベッドに転がる。バイトまでもう少し時間があるから。洗濯とかをやらなきゃいけないと思いつつ、転がっていた。 思い出したのは、朝の夢。ぼうっと、思い出せる事を思い出してみる。人物はおぼろげながら、話しの内容は覚えていた。 「あの執着はすごいよな。」 ぼそっと無意識に呟いた。自分だったら、絶対にいやだなと思いながら。だけど、手に入れるために戦を起こすって、どんな人なんだろう。 軽く寝てしまったのか、時計を見て、慌てて飛び出していく事になった。 帰ってきたのは10時近く。そのまま、着替えて、布団の上に横になった。問答無用で、睡魔が、取り付いていた。 |