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閑話 ―Long Long Ago ――― 遠い、遠い、昔の話。 本当は、興味を持っていなかった。父と母の馴れ初めなんて。 結局のところ兄と、私が存在しているのだから。子供にとって親など、それだけで十分なはず。それなりのことはあったのだろうけど、だからといって、私たちがどうこう言ったりするものではないはずだと。 父はいないのがあたり前だった。母は、私たちを愛してくれた。今でも、つよい人だったと思っている。今から考えると、本当に色々なこと、大変なことがあったはずなのだから。 私ははやくに独り立ちをしなければならなかった。私のまわりには、私と同じ力を持っているものが、一人もいなかったために。 あたり前のことだけど、母は、普通の人間だった。人として子供を産み、育てた。兄も普通の人間として育っていた。 私だけが、異端だった。少なくとも、あのころは。私はある年齢から成長しなくなった。このままでいたい。大きくなりたくない。あのころにそう思ったのを覚えてる。 子供でいたかった。それより何より、女になりたくなかった。それはなによりも恐怖といっていいほどのおそれで、そのおそれゆえに、私の体は成長を止めた。最初に気がついたのは、自分だった。 だから、成長をしないことに人々が畏怖の念を抱く前に私は家を出た。不安がなかったわけではないが、ここにはいられないという認識の方が強く、それに自分の中の力の使い方もある程度は分かっていた。父にあってみようかと思わなくもなかったけど、私は、父を呼び出すことができなかった。 自由に外見を変えられるようになってからは、家にも良く帰るようになった。 少し老けた母は、変わらぬ優しさと強さを持っていて、私の帰還を喜んでくれた。兄は結婚していて、3人の子供がいた。当たり前のように受け入れてくれるそこが、当時の私にとって一番大事な場所で、今の私にとっても故里といえるべきところ。 しあわせな時代。その時代は、いつしか終わった。 兄が始祖と呼ばれ、第2世代と呼ばれるその子供達と、末裔の村と呼ばれるようになる人里離れたところで、ひっそりと暮らしはじめてからも、私は何度も母のお墓に行った。末裔の村からでることのない、兄達に代わって。 母のお墓は、ある種の聖域であった。末裔にとっても、人々にとっても。神に愛された女性のお墓、として。 私にとっては、母の墓でしかないそこに、畏敬の念を持って人々が参詣するその様子に違和感を感じて、そして、初めて思った。 母の若いころに会いに行こう、と。 私が生まれ育った村。それはどこか懐かしかった。変わっていなかったのだと思った。私が生まれる前から、ずっと。 変わらぬ営み。むらに一件だけある教会に、人々は集まり、祈る。幼いころに合った風景そのまま。本来、こういう村だったのだ。私の父が何もしなければ、変わることはなく、穏やかなこの風景が続いていただろう。 ...私が育ち、兄の子達に異変が起きるようになってから村は変わっていった。今は、母の墓所を、良い言い方をすれば護るような町となり、もう、今私の前に広がっているような面影はなくなっている。 涙が零れそうになるのを教会を睨み付けるように見る事で、止める。感傷に過ぎないものなら、こぼしたくはない。この光景は、今の末裔の村に、残っているから。 「......教会が、嫌いなの?」 びっくりした。言われた言葉もそうだけど、その声に。 振りかえると、まだ若い女の人が立っていた。20歳にもなっていないのかもしれない。私がその年齢になった時の姿に良く似ている。 声もでなかった。驚いてただ、見つめていた。 それを警戒していると思ったのか、女性は安心させるような人懐っこい笑みを浮かべて、穏やかな口調で話し掛けてきた。 「私も、教会は好きではないの。...ないしょよ。」 彼女は悪戯っぽく、指を口元に当て、笑う。 明るい強い人だったのだ。ふと、思い出が過ぎった。 「どうして.........ですか?」 母親に対して普段使っていた口調になりそうなのを、慌てて治す。この人は、まだ、母ではない。 「そうね......強いて言えば、建物かしら?」 「建物?」 私が幼いころに、聖地にふさわしいものに立て替えられた教会は、今見る限りではこの村の中でもっとも立派な建物ではあるけれど、素朴な村にふさわしいような作りをしていて、村のシンボルとして申し分ないように見えた。 「村で、一番大きく、立派でしょ?確かに人々が集まるところだし、神様に対してふさわしいかもしれないけど。でも、逆に、強要されている気分になるのよね。私はえらいんだって。」 こんな事、誰にもいったことないから、うまく説明できないんだけどね。母は、まだ若いその年齢相応の表情を見せる。 「だから、崇めなさいっていわれているみたいで...でもね、納得いかないのよ。神様を実際に見たって話も、何かをしたって話も何にも聞いたことがないのに、世界中で、フェンサイという名の神様を、崇めているでしょ。ごくあたり前に、一生懸命生きている人達よりも、えらいんだっていう扱いが。」 そういって彼女は村を見る。私は、笑った。 「凄い発想をするんですね。」 そっか、お母さんってこんな人だったんだ。 「何か言われたりしませんか?」 でも、さすがにこんな事いってると、まずいと思うんだけど、な。 「大丈夫よ。別に、誰にもいってないから。」 母は、くすっと笑った。 「だから、誰にも言わないでもらえる?」 その明るさが、懐かしかった。 私は、しばらく母の家に滞在することになった。まずいことをしゃべってしまったから口止めね、と、母は笑っていた。 彼女の両親、私にとっては祖父母にあたる人も優しく、記憶の中の彼らそのもので、それは私にとって、泣きたいほど懐かしかった。 この場所を、私はすてざるを得なかったのだ。まだ、幼かった時間に。そして、今はもうこの場所が存在していないとおもうと、無性に泣きたかった。 昼間は祖父母や母の手伝いをしてすごす。夕飯後は、村に一件だけある酒場でお仕事。 一人で生きるようになってから覚えた仕事。今まで覚えた中で無難なものを選んで竪琴を弾きながら、うたう。この時代に始まった有名なバラードを、思い出しながらゆっくりと言葉を紡ぐ。時代を考えて、本当に自分が子供のころに聞いたようなものばかりを。 少なくない称賛と金銭を得て、仕事は終わる。また、明日の晩に。 待っているはずだった。一度もあったことのない父が母に会いに来ることを。知らなかった。父と母との関係が、どのようなものであったのかを。 子供だったのだ。甘い夢を見ていた。自分が夢見がちな少女でしかないと、思い知らされるあの事件。 それが、私が見ることを望んだものだった。 「婚約、したの。」 嬉しそうに母は私に告げた。 「幼なじみなんだけどね、ようやく向こうの親が納得してくれたの。本当に大変だったんだから。」 幸せそうだった。何度か会っているところを見た時は、随分深刻そうな話をしているように見えたけど、ようやくおさまったのだろう。少しほっとする。 「でもね。これで結婚式の準備ができるの。」 結婚式...本当に幼い時に、何度か見たことがあるだけ。そんな戸惑いが分かったのか、母は私を教会に引っ張っていく。 「許可をね、もらうの。私はこの人と一緒になっていいですかって......なんで神様に許してもらわなきゃいけないのかって気もするけど...まあ、風習だから。」 神像の前で跪き、手を組む。 「花嫁は前夜、教会に泊るの。ここで今までの自分を懺悔して、全ての罪を清めて、嫁ぐって事。何で女性ばっかりって思うな。でも、それはそれで憧れなんだよね。愛する人と一緒になるための儀式だから。 花嫁っていうのは、一生に一度の経験でしょ。」 母は凄くはしゃいでいた。きいている私は複雑だった。...その人と結婚していたら、私たちは生まれていない。 「でもね、懺悔って神に対する不信をいっぱいいっちゃうかもね。」 そういってわらう。私も心中を隠して笑顔で告げる。幸せになってほしい。それは本当だから。 「婚約、おめでとう。」 「ありがとう。」 はにかんだように笑う母の笑顔はとても綺麗だった。 結婚式の前夜に、母は教会に向かった。白い服を着て。私は混乱していた。このまま母が結婚してしまったら、私たちは生まれるはずはない... 過去に渡ったことは何度もあるが、自分に関係した過去に渡るというのはこれが初めてだから...もしかして、ことなる過去に来てしまっているのだろうか。 混乱した気分をもてあましたまま、私は酒場に向かった。結婚式は村総出のお祝い事らしく、村中に浮かれた雰囲気が漂っている。そして、前夜は男達が花婿を中心にのむという。その時になにかうたって欲しいと私は頼まれていた。 酒場はもりあがっていた。そのなかで要望に応えながら、かるくつまびく。英雄ものよりも、甘い男女の機微をうたったものを中心に。 ほんの冗談で、コミカルな夫婦ものの伝承をうたにしたてたら、なぜかみなにうけていた。誰もが知っているような笑い話。亭主を尻にしく女房とその亭主。いつもは間抜けなその亭主がはりきって真面目なことをしようとする度に何故か必ず失敗する。そして最後は皆揃って、こういう。「だから女房に任せればいいんだ。」全てはうまくいくよと...案外、夫婦が成功する秘訣はそこなのかもしれない。そんなうた。 若い人達が反発する。旦那がしっかりするべきだ、と。女房持ちはにやにや笑って、結婚すれば、分かることさと笑いとばす。 私も胸の中の困惑を忘れて、皆とはしゃぐ。母が誰と一緒になろうと、幸せになれれば、それでいい。ここが、自分の異なる世界であるのだと、そう思い始めていた。 事件が明らかになったのは、翌朝のことだった。 日の出とともに、教会の扉が開かれる。一晩を教会内で過ごした花嫁は、早朝に禊を行なう。冷たい泉に身をひたし、生まれかわりを示す儀式。それがすむと花嫁衣裳に着替える。 禊の仕度を整えた村の女たちが、扉を開く。私も特別に混ぜてもらっていた。禊の後で体を拭くために用意された白い大きな布を持って。参加したかっただけで、特にこれといった理由があったわけではなかったのに。 開いた扉のさきには、想像もしていなかった光景があった。切り裂かれた白い衣服に、赤い血の跡。そして激しい抵抗の後を示すように乱れた室内。気絶している母の隣りで悠然と衣服を整えている男。 とっさに布を手に、母に走りよった。気絶している母の体を起こして、皆の目に触れないように、裸身を布で覆う。母の体に残るいくつもの跡とこびり付いている血が、なにがあったのをはっきりと示していた。 私の動きに、かたまっていた女性たちの何人かが、声を上げる。 「なんという事が.........」 悲鳴のような声のなか、私は男を睨みつける。許せない。 「誰よ!何の権利があって、こんなことしたの!!」 男は私を見下ろす。 「私のこの世界での行動の自由は保障されている。なにをやっても許される。そも、婚姻前夜に花嫁を私にささげているのは、そなたたちであろう。」 その言葉に私の祖母が声をあげた。 「ふ、風習じゃないの?今まで誰にも、興味を示さなかったのに......」 ささげる? 「どういうことよ!何者よ、あなたは?」 「私の名は、フェンサイ。このワールドの神だ。」 驚きに、体を強張らせる。これが、私の父?それじゃ...... 女たちは、首を垂れる。私は混乱で呆然としていた。その様子に興味を失ったように神は、一瞬でいなくなった。 結局、式は取り止めになった。神に愛されたということで、母の婚約はないものとされ、将来結婚することも許されないことが決められた。 気がついた母は、一度狂ったように暴れてからは、静かになった。母親と私以外の人を傍に寄せ付けることもなく、ただ、日々を過ごしているようだった。将来結婚するはできないと告げられても、うなずいたのみだった。 私は、母の傍でずっとうたをうたっていた。恋愛は避け、ただ綺麗な景色や穏やかなものを。知っている限りの全てを穏やかな声で優しくうたう。 そうやって過ごしたある晩に、母はようやくおりあいがついたのか、それとも、何もかも吐き出してしまいたいのか、あの時に起こったことを語った。 .........風習は、歪められていた。行われていることは同じであっても語られる理由はいつのまにか変わってしまった。花嫁は懺悔のためではなく、神に捧げられるために教会に泊めらる。神が気に入れば、その者を神の嫁とする。神の嫁とならなければ、人に嫁ぐことが許される。 実際に、神の花嫁となったものは今までいなかったのに。 不思議な感覚に襲われるようになったのは、その少し前からだった。母の傍にいると、何処かで脈うつ感覚を味わう。体の中が震え、自分の心音が自分以外の誰かに重なるような、そんな感覚。 語った後の母は、全てを吹っ切ったかのように元の生活を取り戻し始めた。今までしていたように、両親の仕事を手伝い、。 私は、ずっと傍にいた。母が、私以外の女性と普通に会えるようになり、男性とも普通に接することができるようになる様に、できる限りの事をして。その間、不思議な感覚はずっと続いていた。 三ヶ月したところで、私が襲われていた違和感の理由が、分かった。考えてみればうかつな話だった。 母は、身ごもっていた。あたり前といえば、当たり前なのだ。私と兄が存在する以上。 それが分かった時には、母は、何処か諦めたような笑顔を見せた。 「...産むわ。」 周囲の者達は安堵したような表情を見せた。おろす手段はあるから、そう選択してもおかしくないと恐れていたのだろう。だから。 「いいの?」 そうきいたのは、私だけだった。 「大丈夫よ。」 そう、母は笑った。私が最初にあった時の笑顔で。 「子供を愛せる自信はあるわ...だって、生まれるのは、あなたなんでしょ?」 まわりには誰もいないことは知っていたけど、その言葉に思わず周囲を窺う。驚いた。問い直すだけの時間が欲しかったのかもしれない。 「どうして?」 「わかるの。まだ、実感はないけど、あなたが生まれるなら、産んでちゃんと育てるわ。約束する。」 でも、だからって......私は混乱していた。 「どうして?」 「ずっと、傍にいて支えてくれたでしょ。...本当は、怖いの。どんな子が産まれてくるのかって。人とは限らないから。でも、生まれてくるのがあなたなら、私は安心して産めるし、愛せる自信があるの。」 「お母さん.........」 涙が零れる。知らずに泣き出した。母に抱き着く。昔よくやったように。母は、なだめるように私の背中をたたく。 「今までありがとう。私は大丈夫よ。ちゃんと生きていけるから。」 「...生まれるのは双子。男の子と女の子が一人ずつ。」 呆然と口にする。生まれ落ちるのは私だけじゃないことを伝えたくて。母は、笑ったようだった。 子供が産まれる前に、私はそこから去った。今でさえもぎりぎりのところできついのに、自分に会えるとは思えないから。 そして、母は私たちを産む。そのつよさを、私は感謝する。自分の存在を厭うことは、私にはできないから。だから.........感謝する。 これが、始まり。そして、理由。 今まで、目的の無かった私の人生にできた、唯一の。 想い―母 子供ができた。それは、本当は喜ばしいこと。私も、いつかは子供ができると思っていた。愛する人との結晶と、そう表現する人もいる。 吟遊詩人が奏でる幸福な恋人達の最後には、二人の子供が産まれることになっている。子孫を増やして、人は自分の生を終える。将来の夢は愛する人との間にできたたくさんの子や孫に囲まれて、豊かな老後を送る事だとあの人は笑っていた。 婚約していた。幼なじみと。いつからか漠然と、いつかはこの人と一緒になって、子供を産んで育てて、その子供達が一人前になるのを見送ってから、どちらかがさきになるにしろ、穏やかに人生を終えるのだと、そう思っていた。 子供ができた。だけどそれは、私を愛してくれた人ではなく、わけもわからず体をひらかされた結果のもの。多分、相手が普通のヒトだったら、おろすことをまわりはすすめていただろう。しかし、私の相手は神だった。この世界の絶対的な存在。 周りの人々は、おろす事を望まなかった。そして、私は産むことを受け入れた。神によって、運命を捻じ曲げられた時に、傍にいて優しくしてくれたのは私の母と、私の娘だったから。 知ったのは、夢の中。誰かが、語りかけてくる夢を、何日も続けてみた。最初は何を言われているのか、分からなかった。まるで、穏やかな言葉のつながりを聞いているみたいで、どこか、昼間に娘が奏でている言葉のように、気持ちよく響いていた。 その言葉が意味を成す言葉として聞こえるようになった時には、わたしのなかで受け入れることができるようになっていた。 私の傍で、私を大事にしてくれているのが娘だと知った時に、私は決心をしていた。 この子供を産もう。この子供を愛そうと。今まで感じていた恐怖はなくなった。生まれる子供が、彼女なら、大丈夫、愛せると信じられた。 神の子供。産まれてないはずの娘が私と同じ年齢でここにいるということは、おそらく普通の人間ではないということなのだろうけど、ここまで人に優しい娘に育つならば。 「私は、子供を産んで、育てるわ。」 あなた達を愛せるから。 シーア―時渡りのひめ:決意 降り出した雨のなか、私はただ、立ち尽くしている。 髪の毛をぬらし、顔を流れ、地面に滴れ落ちる雨。服をぬらし、むきだしの肌だけでなく、体中をぬらし、地面にしみ込んでいく。 知らないほうがよかった、そんなことを言うつもりはない。知ってしまった事実はかえようもなく、知らずにいるよりも、はるかにまし。 .........だからといって――今更、それを後悔しようとは思わないが、ひどく、やるせない。 兄に話す気はない。隠者の穏やかな生活を壊す気はないし、優しい母がいたのに、ショックを受けるような両親の話をしても、それがどうなるというんだろう。 さきほどと矛盾するけど―知らなくていい事が、世の中にはある。 母と父の馴れ初めは、想像できず、予想もしていなかったもの。それでも、母は私を産んでくれた。育ててくれた。愛してくれた。 それだけに。 私は父を許せない。 雨のせいなのだろう。いつもは人の訪れが絶えない母の墓所には、私のほかには誰もいない。ただ、私だけがその場に立ちすくむ。ひどくつめたい雨が体中を凍えさせているのを、まるで人事のように感じながら。 母は。愛してくれた、育ててくれた、私を、兄を。 ...............望んで産んだ子供ではないはずなのに。 父が母にした仕打ちは、許せるようなものではなく、実際、母は許したとも思えないけど、でも、受け入れていた。憎むでもなく恨むでもなく、ただ、受け入れる。 それは、考え方を変えれば存在を無視するということ。憎むのも恨むのも、それだけ自分の精神をすり減らすのだから。それが、彼に対する一番の仕打ちなのかもしれない。 でも...私にはそんな事はできない。無視して受け入れてしまうには、私は幼い。 自分の存在を厭う事はできない―ソレハ、ハハニタイスルウラギリ 産んでくれた母には感謝する。感謝なんて言葉では言い尽くせないほどの想いがある。 その原因をつくった父の行いを許せない―ソレデモソレガアッタカラコソワタシタチハウマレタ そのジレンマは私を苛む。 産まれてこれた事に感謝するけど、私たちが産まれるために行われた事を許す事はできない。 母は受け入れた―ワタシハユルセナイ 顔を上げる。母のお墓をじっと見つめる。 「お母さんがどう思っているのかは、わからない。でもきっと、望んでないと思う。それでも、やらずにはいられないんです。」 雨の音にかき消されながらも、お墓に向かって、呟く。 「母の仇を、とらせてください。」 ずいぶんと身勝手な言い草だと思う。それでも、そうせずにはいられない。 「私は、このワールドの神―フェンサイを殺します。」 まっすぐ前をみつめ、そう言いきる。どんな手段であろうと、厭う気はなかった。 母と、兄以外の―ナニヲギセイニシヨウトモ ふりゆく雨の中、末裔の母の墓の前に立ち、まっすぐ前を見据える。たとえ、どのような事があろうとも、変わらぬ決意をいだいて。
Fin. |