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| ― 遥かときを超えて ― |
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ここは何処だ・・・ 俺は何をしていた? 起き上がろうとして気がついた。寝ていないことに。そして・・・・起きてもいないことに。 「そっか・・・そういうことか・・・」 くっくっくっっっ・・・ 顔を片手で覆う。 「滑稽で・・・涙も出ねぇ」 指と指の間を温かいものが伝う。伝ったそれは空間で粒となり・・・闇の中に消えもせず漂い始めた。そう、其処は深い闇のみがある世界。他には何も、存在しない。時さえも流れることを忘れた、黄泉の――・・・そして、思い浮かぶ少女の姿。 その少女の一生を見守り続けるだけでよかった。 例え・・・自分と重なる時に存在しなくとも。 幸福であれば、それだけで満足と――・・・ 「護りきれなかった」 黄泉は独りの世界。亡者にさえ、会うことは叶わない孤独が永遠続く・・・耳にするは、自らの声の思い出。声さえ、発することは望めないのだ。体までも、溶け込んでしまいそうな闇と、静寂。 今、あるのは、感情だけ。それさえも、これから過ごす、気が遠くなるほどの間の中で消え行くだろう。 けれど、それは然程、問題ではなかった。問題なのは、理不尽にも再び奪われた少女の命。彼の最後の希望が消えたことだ。結局、触れることも、語りかけることも叶わなかった。一度も・・・。今回は・・・前回よりも何もできなかった。そして、二度と、転生した少女の姿さえ、見ることはないのだ。 「ミリーナぁぁぁ・・・」 心が震えた。前回、少女を失った時のやり切れない、怒りはなく・・・・哀しみだけが彼を支配した。 ―――人を・・・・ ああ・・・誰も恨んじゃいないさ・・・今度こそ、君の望むままに・・・ 忘れられない少女の切望は時空を超え、今叶う。無意味に・・・・。 そう、あの時は失った哀しみのために自らに封印されたそれに誘われるまま、恨み、仲間を困らせた。今あるのは、静かな絶望だけだった。 シャラン 「御覧なさい。娘、あなたの罪を」 レゾは隣の存在に静かに語った。 「ルー・・・・ク」 涙が止まることなく溢れる。 「ここから、向こうは見えても、彼にはあなたを見ることはできない。手を伸ばせば触れることも出来るほど近くに存在するのに・・・」 レゾは小さな肩をとった。 「今なら、触れることも叶うでしょうに・・・彼は、心を閉ざし、見えるものも拒絶している」 「そんな・・・・」 小さく震える唇を覆う。 「ルーク!」 諦めきった、青年の腕を掴み、引き寄せる。が、無反応で・・・・ ただ、青年の思考だけが悲しく伝わる。 許シテ・・・護レナカッタ・・・君ヲ・・・・・・・哀シイ・・・自分ガ・・・・トテモ・・・・・悔シイ・・・・ 「あたしはここに居るのよ!見てよ、あたしを!」 思わずしがみつく、力の限りに・・・・・ うつろな瞳は自分を写さない。 輝く、赤い瞳は其処にはない。うるさいほどに、自分を追ったその人はここには存在しない。 「無駄ですよ。彼は、あなたに気づかない。決して・・・」 「・・・・」 レゾに振り返る。 「どうしたら?」 助けを求めるが、レゾはあっさり、それを無理だと否定した。 「それこそが、あなたの罪です。あなただって、これを望んだはずですよ。娘」 あたしが・・・・望んだ? 呆然と・・・心に問いかける。そして、直ぐに否定した。 「してない!するわけが・・・・・・・ない・・・・だって・・・・あたしは・・・・ずっと、彼の傍に居たいと・・・・それだけを・・・・・・・・・・・・・・・・・望んでいたのに」 そう。あたしはルークと歩きたかった。離れるなん・・・一度も考えたことはなかった。 「いいえ。それはきれいごとですよ。娘よ。あなたは、否定し続けたではないですか!彼を!」 辛辣にレゾが言い放つ。 「否定なんてしてなかった・・・・ただ・・・・」 声が震える。後悔に涙も止まる。 「あたしは・・・・・・・・・期待してはいけないと・・・・・自制してただけ・・・・」 ポツリ、呟き・・・・青年の傍に崩れ、青年を見上げ続けた。 「あなたは何度も、好きだと言ってくれたけど・・・・あたしには好かれている、自信なんて少しもなかった・・・あたし・・・・自分の気持ちでさえ、気がついてなかったのよ。今の今まで・・・いいえ・・・」 言いかけて・・・激しく頭振った。 「だって、だって!ルーク!あなたは簡単に言葉に・・・・・・・するから・・・・・するから・・・・・・」 「おや?あなたは、彼の責任だというのですか?」 責任? 「随分・・・ご自分には、寛大でいらっしゃる」 レゾはくつくつと肩を揺らせた。 「・・・・・」 ミリーナは瞳を硬く閉じた。 「もしも、前世で・・・あなたが、彼に、そう、彼にです」 レゾは身を屈め、ミリーナに迫る。 「彼の気持ちに素直に応えていたなら、あなたを失ったときに、彼はもっと・・・・違った生き方も出来たかも、しれない。あるいは、あの、リナ=インバースとともに哀しみを乗り越えられたかも、知れませんねぇ。だとしたら、あなたは、多くの命を彼に奪わせたことにはなりませんか?彼はあまりにも、多くの命を奪いすぎた。それゆえの罪の結果がこれです」 レゾはミリーナの鼻先、数センチのところで含み笑いをし、 「少なくとも・・・・殺戮などはしなかったでしょう。あなたのあとを追うことは・・・・・あったとしても・・・・哀れですねぇ・・・彼は不幸です」 と、ひと息。 あたしの・・・・すべて、あたしの所為? ミリーナ・・・俺ハ・・・君ノ命ヲ翻弄シテバカリダッタ・・・・ 「そんな・・・・こんなことって・・・」 「そうです。あなたは後悔しなければならないのです。私の半身の望みを叶えるために」 レゾは虚空を仰ぐ・・・・。 それは彼と共鳴する者の記憶を脳裏に感じて。 大気は何処までも彼に優しく・・・・ 「美しい・・・・世界はなんと美しい・・・・」 満足げに目を細める。 「たいした者だな・・・・あの魔族を見事にこっちに引き寄せた」 「ええ。彼は実によく働いてくれましたよ」 と、振り返る。 「人間、魔族、自らのコピー・・・そしてこの私をも」 「シーリウス・・・と、おっしゃいましたか?私は、まさか、あなたまで動くとは思ってもみないことでしたよ。いいえ、あなたこそ、私の策を利用してあの剣の駆除をしたのではないですか?」 シーリウスは静かに目を閉じた。否定も肯定もせずに。 ―――ゴルンノヴァ――― シーリウスの記憶、最も厄介なブラックスターの武器が蘇る。それは神族である彼にも扱いきれるものではなかった。他の武器はそれぞれあるべき姿に戻ったが、あれのみは何故かそれを拒み、この地に災いをもたらし続けた。まるで、ここにあるのが、不服とばかりに。誰の手にも馴染まず・・・・使い手をも不幸にし――・・・ 「やはり、あれを扱える人間は、あの者だけだった」 「あの剣士ですか・・・彼は人であって、人でない、からでしょうね・・・彼の中にはエルフが息づいている」 レゾは虚空に手を伸ばす。光が指先に集い始める。それを見た、シーリウスは目を丸くした。 「まだ、お前の中には・・・」 レゾは軽く、笑みを浮かべそれを否定した。 「いいえ・・・・あれは私がかつて・・・滅びたときに消滅しました。これは、私の命そのものの・・・・力。私のたった一つの望みを叶えるためのみに存在する。真名の力、、そのもの」 それを頷けるように光が大きくなるにつれ・・・レゾは蒼ざめてゆく・・・ 「馬鹿な・・・それをすべて使い果たすということは、真の命の終わりを意味する」 開放すれば二度と転生は望めない、と・・・ 「もう十分なのですよ。私は終わる、私自身の意思で・・・・」 ふらり、よろける。 「この大地。人、自然・・・・空の蒼も・・・すべて・・・愛しい。最早、私の内から消えることはない。十分なのです。私は生き過ぎました・・・氷に留められることもなく、あのリナ=インバースのおかげで・・・転生も出来た」 集った光はやがて・・・・一粒の真珠となり輝きを放つ。 「・・・・」 シーリウスはもう、何も言わなかった。 「汝の新しい主の下へ」 レゾの指先から・・・放たれた真珠は眩しく時空のかなたに消えた・・・・それと、同時にレゾの存在そのものも世界から消滅・・・・ 「嫌よ!絶対に嫌!」 ミリーナは叫ぶ。蘇る記憶は最期の時の・・・・自らの青年への執着。 ―――あたし・・・・死にたくない。 「――・・・」 ―――お願い。独りにしないで。ルーク。 「・・・・二人に・・・・・してもらえますか・・・・・」 それは切望。せめて、誰にも邪魔されずに・・・独り占めにしたくて・・・そして、不幸にはなってほしくなくて。 ―――見ていたい。この人だけを・・・気づきもしなかった・・・・・こんなに・・・・惹かれていた・・・こと。 最早、心を伝えるべき、時間が足りなくて・・・・残したのは・・・ルークへの願い。本当は時間をかけて自分が態度で示したかったことを・・・ 「・・・・人を・・・・・きら・・・いに・・・ならないで・・・・あたしは・・・・・・ルー・・・・・・・・・・して・・・る」 声は掠れて音にはならず・・・ 「見て。あたしを・・・見てよぉぅ!!」 絶叫。 お願い。誰か・・・もう一度、この人をあたしに還して! 「諦めなさい。娘。あなたは非力だ」 嫌よ。絶対に嫌だ。こんなに近くに居るのに・・・・諦めることなんて・・・出来ない! 「・・・・ルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥック!!」 心の其処からの絶叫は空間を振るわせた。微かに青年の眉間が顰む。 レゾはゆっくりと―――・・・ 額に触れる・・・・赤い石が其処に現れ輝き始める。 ―――ついに、時は来た。私が私になる、時が。魔族でも、レゾでもない、私になるときが!私は新たな時を生きるのだ。 輝きは緋色を増し・・・二人を包み、瞬間、まるでガラスが割れるようにルークを包んでいた闇が砕け――・・・ 「み・・・」 ぼんやりとルークは愛しい人の瞳を見た。 ―――好きよ。ルーク。あなたが好き!――― |