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| ― 遥かときを超えて ― |
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シャラン レゾの記憶が蘇る・・・・ 「見えない!」 それは恐怖だった。 「大丈夫・・・お前は独りではないよ。母さんが居る」 そして、その声は希望―――掴む手の温かさは心に希望の光をともした。 見えぬこの眼に私は必ず・・・光をともしてみせる。 そのために払った代償は大きかった――― ―――非はすべて私にある――― 出来ることならば、忘れ去りたかった。望むものを得るがために犠牲にした愛しい者。自分と同じ波調を持つゼルガディス。 「お前の望みは何ですか?」 ゼルガディスは遅れて生まれてきた、もう一人の自分だった。すなわち、半身。何かの理由で生まれるときの時間がずれた。私は考えた。ゼルガディスを手中に収めることが、光への近道と。半身は自分に戻るべきだと。気付きもしなかった。それが、自分の最大のエゴだということに・・・・ 「俺は強くなりたい」 望むものがなんであるかを知りつつ聞き、それを与え―――その先にそれが半身の身を如何に苦しめるかをも知っても、望んだ光は―――死を選んだその一瞬に得られた。 そして、その目に焼きついたのは贖罪。 ―――許してください――― シャラン 光を瞳に蘇らすことが出来たその時には、その姿は元に戻すつもりで居た。しかし、それは叶わぬこととなり―――・・・ 「私は冥界の入り口に留まった。ただ一つ、ゼルガディスを元に戻すことが出来るのは・・・・彼の容姿に惑わされることなく、彼を愛することの出来る娘の命。そして・・・・・ゼルガディス、彼自身もその娘を心から愛すること・・・・」 シャラン レゾの声は空間に響く・・・・ミリーナのうつろな意識の中にまるで風に煽られた危ういロウソクの光のように・・・・ 何故?私を? ミリーナは心の中で問いかけた。 「まだ気が付かないのですか?娘」 レゾの声が割れた。 「あなたは最後の鍵なのです。私が私という一人になるための」 一つの声はそれを告げ、また一つの声は・・・ 「愛するものを失った者の末路を知っているはずでしょう。娘」 とても痛い真実を突きつけた。かつてミリーナ自身、不本意ながらも愛するものを置き去りにした。そして、その人は死を選んだ。信頼した友に命を奪わせるという選択をして。彼が命を落とすその時までのわずかな時間にどれだけの罪を重ねたのかをミリーナは知っていた。が、その後の彼の運命は知ることはなかった。 けれど、決して幸福であったとは言い難いものに違いないと・・・・ 「私の望みは、ただ一つ。犠牲にした半身を人とし、人らしく生かすこと。愛した娘を失っては、ゼルガディスに幸福はない。娘、あなたも私も罪人なのです。犯した罪は償わなければならない」 罪を償う・・・・? 「娘、お前の命。私たちが貰い受ける」 鋭い痛みが胸を貫き意識が薄れゆく・・・・消えゆくときにミリーナはただ一人の人の姿を望んだが、その姿をもう一度その瞳に映すことはなかった。 ―――ルーク・・・私――・・・・会いたい――― そいつは以前と変わらず虚空に浮かび――・・親しみ深く微笑んだ。 「あんた・・・何したの・・・」 リナはその瞳を睨み見た。 「何も」 「何したの!あんたしか居ないのよ!ゼロス」 記憶の彼方、封印したかった名前を口にした途端に蘇る、忌々しいエピソード。 「おやおや・・・思い出してしまったようですねぇ。やだなぁぁ・・・僕はリナさんにだけは、嫌われたくなかったんですけど・・・」 軽くジェスチャーをして溜息を吐く。リナにはすべてが演技に見えた。 「言ったでしょ?思い出さないで下さいって」 「アメリアを殺したの・・・今のあんたにあの子をどうにかして何のメリットがあるというのよ!」 「僕がアメリアさんを・・・・?それこそ誤解ですよ。彼女は望んで、ゼルガディスさんに殺されたんですよ?僕は何もしてません」 笑みさえ浮かべ・・・あの頃と変わらない仕草を見せた。 「そう仕向けたくせに」 リナの声は深く沈む。 「・・・何故・・・其処に居るんです?また――・・・リナさんに護って貰うためですか?ガウリイさん」 ゼロスが初めて瑠璃を開眼させた。瞬間、振り返るリナ。その人を確認して安堵し涙腺が緩んだ。皮肉たっぷりのゼロスの声など届いていなかった。かつてそうであったようにその人は、其処に居て自分を護ろうと位置していた。 「あなたたちは一体なんなんですか?何故、バカの一つ覚えのようにくっついてるんです?何が出来るんです。手ぶらのガウリイさんに無能なリナさんに。それに何度も言いますけど、僕は何もしてないですよ?」 そう。今のリナにはかつての魔道能力はない。ガウリイにあるのは身一つだけなのだ。呆れ顔が虚空から降り立つ。 「それだけか・・・言いたいことはそれだけか」 ガウリイの聞きなれない深い唸るような声。 「・・・・」 口を噤むゼロスの顔に微かな不快の色が浮かぶ。恐らくははじめて見ただろう、ガウリイの強い視線に釘付けだったリナは、それを見ていなかった。 失うことを知り、失ったはずのものを再び得たガウリイに恐れるものがあるとしたら、再び愛しい存在を失うことだけ。武器があろうがなかろうが。相手との力の大差があろうがそんなことは微塵も問題にならない。いざとなれば盾になるこの体があると。今はとにかく護る。ガウリイにはそれだけだった。 何があろうと、こいつだけは俺が護りきる。 護りたいものある。 それだけで強みになる。 リナの緋色の瞳を見るとき、ガウリイはすべてを失ってもいいと思う。自分を形どるすべてのものと引き換えにしてでも護りたいと思う。だから、失う訳にはいかない。自らが存在する意味を。 沈黙はそうは続かなかった。 「ま、こうして僕らが会えたことに僕はある意味、感謝してますよ」 ゼロスは意味深げにリナを見、その髪に手を伸ばす。が、触れはせず拳する。一瞬珍しくも躊躇う表情を浮べた。リナもそれを見て困惑を覚えた。それも一瞬のことに過ぎなかった。ガウリイの力強い腕に引っ張られ――・・・ 「こいつに近づくな」 その声にその人の名を呼び安堵する。 「ガウリイ・・・」 リナのその声を聴いた瞬間、ゼロスの態度が豹変した。 「葬るつもりだった」 あなたたちと居ると時々・・・自分を失ってしまいそうになった。ひどく居心地悪いのにいつまでも傍に居たいとも、思う。だから――・・・消えて欲しかった。リナさんも、リナさんの周りを囲む人たちにも・・・・ かつて彼の中にあった真実だった。 「でも、僕はその前にあなたに消えて欲しかった」 ガウリイに振り返り、 「まさか、リナさんがその為に命を落とすことになるとは」 それはあの日の忌まわしい記憶を蘇らせた。 「貴様かぁぁぁ!!」 リナが自分を庇い崖下に転落し傷を負い、命を落としたあの、忌まわしい記憶が感情的にさせた。 「ええ。僕です」 それに反して穏やかに。いや、放心したようにゼロスは淡々と続けた。 「まったく。誤算でしたよ」 そう言ってゼロスは遠くを思い浮かぶように。また、何かに思いをめぐらすように彼方に視線を流す。 「長かった・・僕はね・・寂しいという感情を覚えたんですよ。リナさんたちに会えなくなって」 ゼロスはそう彼方を見詰めながら笑みを浮べた。あまりに自然な笑みにリナは、その言葉だけは、この魔族の真実だと素直に受け止めることが出来た。 「本当に長かった・・・僕はずっと・・・・・・・待っていたんです。誰一人として欠けていい人は居ない。あの頃のまま。いえ、あの頃に近い状態のあなた方に僕は会いたかった。本当に嬉しいですよ」 ゼロスはリナとガウリイを愛しげに見詰めた。 「ふざけるな!」 ガウリイの怒鳴り声が響く。真剣に目が怒っていた。 くすくす・・・ 「いやだなぁぁぁ・・・・ガウリイさんってば。僕はふざけてなんかいません。いつも、本気ですってば」 と、すっと瞬間移動でガウリイの右隣に移動してきた。そして、リナには聞こえないように静かにアストラルサイドから、ガウリイに囁きかけた。 僕ら魔族にはそんな感情はありはしませんよ。人間とは違って、嘘もない。いつも正直です。己の心にはねだから、いつも本気です。諦めてくださいね。リナさんはあなたには渡しません。 「なっ!」 ガウリイの顔色が変わった。 「連れて行きますよ」 ガウリイはゼロスの肩を掴もうとした。が、またも空間を移動され――・・・ 「リナ!」 慌ててその人を見た。その頭上に現れたそれ。 「え」 「さ。行きましょうか。リナさん」 ガウリイは瞬間、腰に手を当てた。そして思い出した。もう自分にあれはないということに。一歩踏む出して手を伸ばせば届く位置に居て・・・・ 「リナぁぁぁぁぁぁぁ――っっっ!」 掴んだはずの細い腕はあの日、金色の中で掴み損ねたように消えた。あの時はリナは腕の中に戻ってきた・・・・今度は・・・・ 「・・・・」 何もなかった。 僅かでもいい、空間に何らかの影響を与えることが出来たなら、僅かな歪みの中に飛び込むことくらい出来るのに。脳裏に蘇ったのは二本の剣。あのうちのどちらか一本でも今、ここに在ったならば・・・・ 「これで空間を斬ることは出来ない」 声が響く・・・・ 「・・・・・」 ガウリイは懐かしい覇気を感じ、空間に手を伸ばす。其処に光が集い始め・・・・現れたのは・・・ 「光の剣?」 ぽつり・・・呆けたようにその名を呼んだ。 「真にあの娘の後を追いたいのならば、それを今一度取れ、私が空間に誘おう」 声は静かに響き渡る。 ガウリイの懐かしい叫び声が空を切る。 ―――光よ!――― その手に懐かしい手が重なる。 『手伝う』 赤い燃えるような瞳が蒼の輝きと重なる。 「一度だけしか使えない。タイミングを外すな!今だ!ゴルンノヴァを!」 ―――リナッ!――― 「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっっっ!!!」 光の剣、最後の一太刀が今振り下ろされた。 ザンッ |