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― 遥かときを超えて ―
16


作:萌黄さん


 青年は自らの手で唯一の希望を絶った。
 記憶の中で少女が笑う。自分の名を呼び幸せそうに小首を傾げる。
 腕の中で冷たく冷えてゆく体に視線を下ろして。

「アメリア」

 青年はその少女の名を呼び、微笑んだ。
 腕の中で絶えた少女が優しく微笑んだ気がしたからだ。

「もう――・・・俺から離れることはなくなったな」

 そう。罪を犯し続けた青年と、小さな肩に大きな責任を負った少女は命の枠を超えない限り結ばれることはなかった。

 例え―――それが、過去の記憶の中であったとしても・・・・

「アメリア・・・・行こうな。これからはいつも一緒だ」
 青年。ゼルガディスは満足げに愛しい少女に語りかける。




 トントン



「お時間です。お支度を・・・アメリアさま」
 第三者が二人の空間を壊した。
「何者です!アメリアさ・・・・・」
 その声は途中で途切れ――・・・悲鳴へと変わる。



 きゃああああっっっ!!





***







「え・・・?」
 マルチナの声が固まった。思わず携帯を落としてしまうかと思うほど、震える手。部屋から出てきたミリーナが微笑ましそうに部屋から視線をマルチナに移し、笑みが消えた。
「どうしたの?」
 携帯の向こうのザングルスの声は、あまりにも唐突にそれを告げた。マルチナがミリーナを振り返り首を振る。
「真っ青よ?どうかした?」

「アメリアが・・・」
「? 」
「婚約したって」
「え?」
 眉を顰める。
「テレビで放送されてるって」
「は?」
 ミリーナには訳が分からなかった。確かにその親友は昨夜から部屋には戻ってなかった。父親に会いに外出していたので、深く気にも留めずに居た。震えた手で渡された携帯を耳にあて。
「・・・・・」
 その脇を転げるようにマルチナが部屋に入ってゆく。
「嘘」
 絨毯じきの廊下に携帯が落ちた。まるでそれを合図にしたかのように、周りの部屋から寮生たちがざわめき飛び出してきた。

 突然部屋に飛び込んできたマルチナがリナにぶつかり、躓くようにテレビに手をかけた。
「マルチナ?」
 マルチナはうわ言のように・・・
「スイッチは何処・・・」
 と、呟きながら画面をせわしく触った。
「リモコンは机に在るわよ?」
 そう言いながらリナは笑い、白い指で主電源を押した。
「どうしたのよ・・・」
 窓の外のガウリイをちらり、気にしながらマルチナに触れた。息をふき返したように流れ出す音声。俄かに信じがたい真実が告げられ、雪崩れ込むように他の部屋から寮生たちが部屋に入っくる。

「・・・・」

 アメリアの予告なしの婚約と・・・・突然の死の報道に全寮生は声を失う。
 映像はアメリアを映さずキメラの青年だけを露にし―――・・・その姿はリナにもガウリイにも馴染み深く懐かしく・・・・二人の視線が重なり、何かを悟ったようにリナは窓から飛びだしガウリイがそれを支えた。ざわめきの中、二人の時間が確実に戻り始める。ミリーナの頬に一滴の涙が伝い落ちる。

 ―――人を・・・嫌いにならないで・・・(どうか。独りにならないで)

 忘れていた想いが溢れ出す。緋色の燃えるような瞳の青年が寂しげに。切なげに自分の手に触れたあの瞬間、残して逝くしかなかったもどかしさと、素直になれずに居たことを悔いた自分。

「る・・・・・・く」
 無意識にその名を呼ぶ。瞬間、周り全てが消えうせた。

 しかし――現れたのはその人ではなかった。

 シャラン

 静かにその音がミリーナを誘う。その人はゆっくりと手を差し伸べ。
「さぁ。私の手を取りなさい」
 レゾの声が二つに割れる。ほのかに額が輝きだす。現れたのは赤い宝石。ミリーナは心を奪われた人形のようにその手を取った。レゾ。いやコピーのその人は満足げに笑みを浮かべた。
「これで今度こそ、私は私になれる・・・・」

 彼は静かに瞳を伏せる。

『教えてください。何故・・・・・』
 かつて彼が狂おしいほど、求めたものは虚無と消えた。
『分からない?』
 その少女は少し残念そうに笑い告げた。

 ―――あなたは先を見ることが出来なかった―――

 口元に笑みが浮かぶ。開いた瞳にはその自分の見ることの出来なかった未来。彼の額から宝石が零れ落ち、ミリーナの胸元で消えた。ミリーナはその瞬間、

「あ・・・・」

 揺らぐ虚空に一番会いたかった人を見た。

 ―――ルーク―――

 あなた・・・そんなに近くに居たの?いつから?

 レゾによって、虚空で体の自由を奪われたルークはレゾの腕の中で、静かに輝きながら薄らいでゆく最愛の人を見た。一瞬、自分を見て微笑んだ気がして息を呑む。

 ―――ミリーナ!

 レゾは満足げにルークを見、その消えゆく姿のミリーナと共に姿を消した。



 ―――この娘は私が頂きますよ―――





「待て。リナ」
 ガウリイは前を走るリナを必死で追う。今、捕まえなければまた、この少女を失ってしまう。そんな予感がしていた。

 二度と失うものかと・・・・・




 向かう先の空は闇夜にも眩しく業火に朱に染まっていた。おそらくはそこに、あの魔族が居る。丸腰である自分にリナを護ることが出来るのだろうか?

 もう、自分を縛り付けていた光の剣も。リナと二人で手にしたあの剣も・・・・ここにはなく―――








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