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― 遥かときを超えて ―
15


作:萌黄さん


「アメリア・・・疲れたんじゃない?お披露目までには時間がある。僕らの部屋で休むといい」
 アルフレッドはアメリアの肩に触れようと手を伸ばす。が、それは叶わず・・・・
「殿下とはまだ、他人です。あたしは別の部屋で休ませていただきますから」
 アメリアは目を伏せがちにそう言うと背を向けた。
「アメリア・・・・・・・・・・・お・・・・お披露目には君の友人も特別に招いてやった。後、三時間後だ」
 そう言うと逃げるようにアメリアの脇を通り部屋を出て行った。


「・・・・」
 アメリアはその気配が消えたのを確認すると力なく座り込んだ。昨日から張り詰めていた何かかぷつり、切れたのを感じた。

 ――― アメリア・・・すまない。

 はじめて見た弱気の父の姿。心労と過労で倒れるまで自分を庇っていた父の限界。駆け引きに使われた責任の重さ。アメリアに選ぶ道は一つしかなかった。

「大丈夫よ」

 カタン

 窓が鳴った。一筋の風が流れる。頬を掠めた風に顔を上げる。

「あ」

 そこに立っていたのはキメラの魔剣士。

「・・・・」

 隔てていた時間が重なる。過去と今が交差し――・・・アメリアの中に眠っていた記憶が蘇る。

「ず・・・っと・・・・・・・・・・・・そばに・・・・居たかった、です」
 
ゆっくり立ち上がりその人に触れようと――その名を口にする。

「ゼルガディスさん」
 が、伸ばしたが触れることは叶わず空を掴んだ。苦笑が口元に漂う。ゆっくり窓際に立ち夜風を招きいれた。
「結局、逃れられなかったってことですね」
 ぽつり、呟いて外に目を向けた。

 思い出すのなら・・・・もう少し早く思い出したかった。そしたら、もっと楽しく過ごせたのに・・・・あなたと。
「惜しいことしました」
 アメリアは寂しそうに笑いかけた。
「・・・・・あなたはやっぱり、キメラの姿の方が似合いますよね・・・・・見慣れている所為でしょうか?」
 数メートル先、庭木の陰に立つその人に話しかけた。今度は幻ではなく其処に確かに存在するその人に。

 アメリアは続く想いを形にしなかった。するだけ虚しいと思ったからだ。

 ―――あたしは何者であってもあなたが好きです―――


「それは皮肉か?アメリア」
 そして差し出された手。

 ―――迎えに来た―――




***





「何よ。その手は」
 リナは目の前に現れた馴染み深いその魔族を見据えた。
「やだなぁ〜? 聞いてなかったんですか? リナさん。僕はあなたをお迎えにあがったって、たった今。言ったじゃないですか?」
 人畜無害な人のよさそうな笑みをたたえ微笑む。

「魔族がいったい何のようなの」
 ミリーナの声が遠くに響く気がした。リナの頭の中に蒼い瞳が蘇る。自称保護者と名乗り続けた大嘘つきの眼差しが・・・そして、今の非力な自分の能力とは桁外れの能力を自慢するかねてからの顔見知りの・・・・・

 そして、蘇るその中に見たあの日の暗い瑠璃の瞳。崖上のゼロスの微笑み。その視線の先にはあいつが居た。何者よりも代えがたい最愛の人が。その後自らが辿った運命をも鮮明に。

 ――― あたしはあんたに護られてきたの。

 心の中、あの瞬間の想いがあふれ出す。頭の隅にさえ、浮かびもしなかった呪文。それを唱える暇がもしかしたら残っていたかもしれない。けれど―――体が動いてしまった。


 ―――護りたい。

 この想いが届くことがなくても。あたしはガウリイを愛してる。もしかしたら・・・・秘めた思いを隠すことに疲れていたのかもしれない。そして、恐れていたのかも知れない。いつか自分から離れていってしまうその日が来ることを。


   ―――ガウリイ―――


「リナぁぁぁぁぁっ!」
 馴染み深いその声にリナは振り返った。覇気も何もかも消えたただの少女の顔で。

「おやおや・・・お早いお着きで。じゃ、リナさん。後ほど」
 ゼロスは笑みをたたえ消えた。消える瞬間、ガウリイに挑戦的な視線を返して。


「きゃーっ、消えたわ消えたわよぉぉぉ」
 マルチナの半狂乱の声が響く中、二人の視線が重なり合う。

 あたしはこの人をずっと見続けてきた。生まれる前からずっと――・・・
「ガウリイ・・・」
 窓の外のガウリイに歩み寄ろうとするリナの腕をマルチナが掴む。
「リナっ、リナもみたでしょ・・・あの人消えちゃったじゃないの」

 ぱぁぁぁぁぁ―っっ

 淡い琥珀の輝きが辺りを包み・・・・

「あれ・・・?あたし・・・・」
 きょとんとマルチナが拍子抜けをしたようにリナから離れた瞬間、後ろで携帯がなった。それをミリーナが手に着信を見て・・・
「マルチナ。ザングルスさんからみたいよ」

「えっ、やだっ」
 慌てて携帯を手に部屋を出て行く。それを見送った後、ミリーナはリナに振り返り軽く微笑んで本を手に部屋を後にした。

 窓枠に置かれた白い手を取り、
「無事か?」
 声をかけられてリナは少し顔が火照った気がして振り返ることが出来なかった。





 彼方で静かに沈む音。

 シャラン

「揃いましたね・・・・私の計画に必要なもの」
 そのレゾの呟きは誰に届くことなく闇に消えていった。




***




「何をしている。アメリア」
 ゼルガディスはその腕を取ろうと伸ばす・・・・
「・・・・」
 アメリアは静かに首を横に振った。
「どうして!」
 ゼルガディスは声を荒げた。
「言ったはずです。二度と会うことはないと・・・」
 静かに告げられた気絶の言葉。
「何故」
 納得がいかなかった。



 ―――結婚します―――


「渡したいものがある」
 ポケットから取り出したものを差し出す。アメリアの視界の隅に真珠が哀しく輝いた。
「なんですか?それは」
 

「え・・・・・何って・・・・・」
 声が凍てつく。
「要りません。あたしはそんなものに不自由はしませんから」


 哀しいほど冷たい風が温かい部屋に流れ・・・アメリアの足元を撫でた。アメリアはそこから心が冷たく覚めてゆく気がした。
「信じない」
「それはあなたの勝手です」



 ―――あなたを待っててもいいですか?―――

 優しい眼差し。

 ―――必ず、お前を迎えに行く!―――

 己を支えてきた約束。そして、自分は忠実にそれを守ろうとした。返ってきたのは拒絶。それを信じた訳ではなかった。が、その時ゼルガディスの頭の中にあの忌まわしい音が沈む。

 シャラン


 やめろ。俺はただアメリアとの約束を守りたかっただけだ。


 シャラン

 容赦なく鳴り響く・・・・

「素直になるのですよ。私の思うがままに力を解放するのです」
 レゾの声が脳裏に過ぎった半瞬後、青白い閃光がアメリアの体を貫いた。


 それは、彼が狂った瞬間でもあった―――










 くすくすくす

「楽しそうだな。ゼロス」

 虚空に漂っていたゼロスの背後からの声に彼は下界から視線を外すことなく返す。

「ご協力感謝してますよ。シーリウスさん。見てください。僕の望んだままにことが運びましたよ」
 ゼロスは満足げに笑みを浮かべた。シーリウスはただ黙ってその姿を眺めた。

 沈黙が流れた。それを破ったのはゼロスだった。
「・・・・魔族の僕が何故――?それを聞きたいのでしょう」
 シーリウスはダークスターとの戦いのときに一時的に仲間として戦った異界の魔族をただ黙って見つめた。
「しかし。あの戦いの所為で僕らの世界とあなた方の世界が未来で一つに繋がることになろうとは・・・流石の僕も想像しませんでしたよ」
 ゼロスは振り返った。
「そうだな」
 シーリウスは下界を覗き、
「人間か・・・・不思議な生き物だな」
「そうですね本当に。ある意味、僕たちよりも図太く出来るかもしれませんね。確かに僕らは永遠に近い命を持ちます。でもそれだけだ。失くしてしまえば・・・・人間のように転生などしませんからね」
 そして、ゼロスは懐かしむように再び下界を見下ろして、
「シーリウスさん。もう、僕に協力は必要ないですよ。後はどうとでもなります。好きになさってくださって結構ですから」
 風がゼロスの前髪を微かに揺らした。
「僕に協力したのは彼を救いたかったんでしょう?僕はただリナさんだけ手に入れれば・・・後は文句はないですし」
「そうか。では、そうさせてもらおう」
 シーリウスはその場を去ろうと動いた。
「どうして・・・・・聞かないんですか?」
「・・・・・知れたことだ。神族側の私がお前に協力したのと同じ理由だろう」
 そう告げるとシーリウスは虚空に消えた。

「・・・・・・まったく。人間とは厄介な生き物ですね」
 ゼロスは苦笑交じりに目を閉じた。

 神族も魔族もいつの間にか狭間を生きる人間に魅了される。僕は長く生き過ぎたのかも知れませんね。

「退屈で仕方ないですよ。リナさん」








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