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| ― 遥かときを超えて ― |
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「見てゼルガディスさん」 アメリアは満開の桜の花を仰ぐ。大きな瞳に桜が映える。 「・・・・キレイだな」 ポケットに手を突っ込んだまま、ゼルガディスはアメリアの横顔を見詰める。やっと見つけた半身。あの晩夏に再会し付き合うようになって、早、数ヶ月。以前よりも愛しい存在になった女性の隣に居られるのが・・・・とても不思議だった。あれから何も言わなくなった叔父レゾ。それ幸いにアメリアとの時間を楽しんでいた。 「春ですよね。あたし、春って一番好きなんですよ。始まりって感じがして・・・・真っ白なイメージなんです」 と、ゼルガディスに振り返ってアメリアは数歩、後退る。桜の樹が逃げ場を阻む。 「・・・ぜ・・るがでぃす・・さん・・・」 少し脅えた声が空気を震わせた後―――ゼルガディスはもう一つの桜の花に触れた。柔らかな甘い香りに誘われた蝶のように・・・・ 「・・・・」 やんわり伝わる温もりはあの日、交わした冷たさはなく、優しく柔らかで・・・・胸が熱くなる。 ―――・・・て・・・くれよ?コレが・・・俺の本当の・・・・ 返ってこない返事を待ち、もう何度も抱き締めた。あの日の最初で最後のキスの記憶。 ―――あんたと同じだなっ・・・同じだろ?髪も・・・ほ・・ほら・・・普通より柔らかいぞ? 待望の望みが叶ったあの日。何よりも代え難い希望を失ったあの日の絶望が蘇る。二度と開かなかったなつぶらな瞳。恐くなって名前を囁く。 「アメリア・・・・」 返事は返されなかったが、頬に優しい吐息がかかった。その生きている証が嬉しくて・・・・もう一度触れた其処。今度は少し長く。優しい春風が二人を包み込んだ。 ―――今度こそ、放さない――― ザングルスの店ではランツが無駄な努力をしていた。 「リナちゃん、映画観に行こうよ」 トレイを抱え込みカウンターに座る少女の顔を覗き込む。 「ランツさん・・・仕事中でしょー?」 にっこり微笑み返す。まるで相手にしてない様子。 「仕事?こんなのいいんだよぉー。ね、行く?行くでしょ?」 カウンターの中のザングルスは最早、怒る気にもならない。 「そんなに行きたいの?映画」 「もちろん!」 身を乗り出すランツ。 「いいわよ」 そのリナの一言にザングルスが目を丸くする。 「ほんと?」 「ええ」 リナは飲んでいたココアを置き、カウンターのザングルスを見た。 「こんなに行きたいって言ってるんだから・・・マスターもいいわよね?」 「へ?あ・・・ああ」 「ほんとに?ほんと?」 嬉しくて仕方ないランツ。 「うん。行ってきて。その間、あたしがお店手伝ってるから」 ランツの―――・・・・ 「お、居た。リナぁー」 努力は・・・・虚しかった。 「あ。ガウリイ」 「いいもん貰ったんだ」 手には二枚のチケット。 「何?」 「フルコース。時間無制限食べ放題」 「嘘!」 思わず立ち上がる。 「このチケット一枚5万なんだ。帝都ホテルのだから豪華だぞ〜・・・どうだ?制覇しに行くか?」 「キャー!!行く行くぅぅぅ!!行くに決まってるじゃん♪でも何処で貰ったのよ?まさか、自腹?」 ガウリイに駆け寄りチケットを手に取り・・・・顔を見上げる。 「自腹?冗談だろ?こんな高いチケット買うかよ。貰ったの・・・・其処で」 と、店の外の通りを差す。 「其処?」 ガウリイの指先を目で追い・・・ 「ああ、直ぐ其処でだぞ?」 きょとんと指で頬を掻くガウリイ。 「でも、なんでくれたんだろう?あの子」 「知ってる子に貰ったの?」 「んにゃ・・・知らん」 「ふーん」 「・・・・」 カウンターの中でザングルスが呆然とランツと二人を見比べる。 「でも、ラッキーだったじゃん♪」 しばらく考え込んだように通りを見ていたリナは、にっこり、ガウリイに振り返った。 「だろ?だろー?」 ―――・・・ すっかりランツとの会話を忘れて店を出て行く姿を見送って、マルチナが呆けたままのランツに、 「・・・・ランツ」 ゆっくり冷ややかに口開く。 「お願いだから、仕事して」 「お久しぶりです。会長」 デスクで書類に目を通していたフィルがゆっくりと顔を上げる。 「おぉ・・・これは殿下」 メガネを外しながら立ち上がり、青年に歩み寄る。 「お知らせくだされば・・・・」 と、気さくに話し掛けるフィルの差し出した手を無視し、 「今日はね・・・お知らせにあがったんですよ?会長」 今の今までフィルが座っていた其処に座りデスクに肘をつく。 「知らせ?」 「このセイルーン財団の株を某国に46パーセントお譲りしました。この意味がお分かりですね?フィル?」 手に顎を預けながら楽しげにその人はフィルの反応を覗う。 「なんのご冗談・・・」 フィルは笑おうとしたが笑えなかった。 「冗談?冗談だと思いますか?」 「当たり前です。そんなことをすれば我が財閥は・・・・アルフレッド殿下、我が国だって、ただではすまない」 「知ってますよ?我がセイルーン国は小国だ。それでも富んでいるのは・・・・ここがあるからですよねぇ?だから、あなたはここの名前を国と同じにした・・・・でしたよね?亡き父もあなたには感謝してますよ」 アルフレッドはフィルの反応の一つ一つを楽しむように続けた。 「父はあなたに最愛の女性を奪われた。まぁ、あの人は権力を振り翳すような?無粋なことはしませんでしたが・・・?亡くなるまでずっと、グレイシアさんを愛してましたよ。ならば、僕を生んだ母はどうなるんです?父は優しかった。・・・母にも誰にも優しかった。でもね、僕は知ってます。父が母を愛したことは一度もなかった。すべては・・・・・国のため。皇太子という身分でなければ・・・・・・あなたの奥さんを想って一生独身でしたでしょうからね」 其処で一度言葉を切り、フィルを仰ぐ。言葉を失ったままのフィルを観察するように。 そして、 「国がただではすまない。そうおっしゃいましたよね?」 ゆっくりと立ち上がり、空にも届きそうな窓から外を見ながら・・・・ 「なくなってしまえば、いいんだ。セイルーンなど」 そう吐き捨てる。 「殿下!」 堪りかねて声を上げたフィルに、アルフレッドは含み笑いを見せた。 「だってそーでしょう?この国があったから、僕の両親は・・・・・・」 アルフレッドは静かに目を伏せた。 「僕はね・・・悔しいことにあなたが憎めない。憎むどころか・・・・父とも慕ってます。憎めたら楽なんですがね。おまけに・・・・親子ですね。アメリアを愛してる。子供の頃からずっとです」 苦笑を漏らし振り返る。其処で始めて素顔を見せた。泣きそうな顔を。 「アルフレッド・・・」 重い沈黙が流れる。 「アメリアを僕にください。そうすれば・・・・株は売ったりしません。僕の父親になってくださいよ」 ―――アメリア嬢と皇太子殿下との・・・・ フィルの頭にあの日の大臣との会話が蘇る。 ―――何を・・・娘はまだ子供だ。 ほんとは気付いていた。この親友の息子の想いを。だから、できることならばとアメリアに見合いの話を持ちかけた。けれど、どうしても強くは話を勧められなかったのは―――・・・ アメリア・・・・私はどうすればいいのだ。 |