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― 遥かときを超えて ―
13


作:萌黄さん


「見てゼルガディスさん」
 アメリアは満開の桜の花を仰ぐ。大きな瞳に桜が映える。
「・・・・キレイだな」
 ポケットに手を突っ込んだまま、ゼルガディスはアメリアの横顔を見詰める。やっと見つけた半身。あの晩夏に再会し付き合うようになって、早、数ヶ月。以前よりも愛しい存在になった女性の隣に居られるのが・・・・とても不思議だった。あれから何も言わなくなった叔父レゾ。それ幸いにアメリアとの時間を楽しんでいた。

「春ですよね。あたし、春って一番好きなんですよ。始まりって感じがして・・・・真っ白なイメージなんです」
 と、ゼルガディスに振り返ってアメリアは数歩、後退る。桜の樹が逃げ場を阻む。
「・・・ぜ・・るがでぃす・・さん・・・」
 少し脅えた声が空気を震わせた後―――ゼルガディスはもう一つの桜の花に触れた。柔らかな甘い香りに誘われた蝶のように・・・・

「・・・・」
 やんわり伝わる温もりはあの日、交わした冷たさはなく、優しく柔らかで・・・・胸が熱くなる。




―――・・・て・・・くれよ?コレが・・・俺の本当の・・・・


 返ってこない返事を待ち、もう何度も抱き締めた。あの日の最初で最後のキスの記憶。



―――あんたと同じだなっ・・・同じだろ?髪も・・・ほ・・ほら・・・普通より柔らかいぞ?



 待望の望みが叶ったあの日。何よりも代え難い希望を失ったあの日の絶望が蘇る。二度と開かなかったなつぶらな瞳。恐くなって名前を囁く。

「アメリア・・・・」
 返事は返されなかったが、頬に優しい吐息がかかった。その生きている証が嬉しくて・・・・もう一度触れた其処。今度は少し長く。優しい春風が二人を包み込んだ。

 ―――今度こそ、放さない―――





***






 ザングルスの店ではランツが無駄な努力をしていた。
「リナちゃん、映画観に行こうよ」
 トレイを抱え込みカウンターに座る少女の顔を覗き込む。
「ランツさん・・・仕事中でしょー?」
 にっこり微笑み返す。まるで相手にしてない様子。
「仕事?こんなのいいんだよぉー。ね、行く?行くでしょ?」
 カウンターの中のザングルスは最早、怒る気にもならない。
「そんなに行きたいの?映画」
「もちろん!」
 身を乗り出すランツ。
「いいわよ」
 そのリナの一言にザングルスが目を丸くする。
「ほんと?」
「ええ」
 リナは飲んでいたココアを置き、カウンターのザングルスを見た。
「こんなに行きたいって言ってるんだから・・・マスターもいいわよね?」
「へ?あ・・・ああ」
「ほんとに?ほんと?」
 嬉しくて仕方ないランツ。
「うん。行ってきて。その間、あたしがお店手伝ってるから」




 ランツの―――・・・・



「お、居た。リナぁー」


 努力は・・・・虚しかった。

「あ。ガウリイ」
「いいもん貰ったんだ」
 手には二枚のチケット。
「何?」
「フルコース。時間無制限食べ放題」
「嘘!」
 思わず立ち上がる。
「このチケット一枚5万なんだ。帝都ホテルのだから豪華だぞ〜・・・どうだ?制覇しに行くか?」
「キャー!!行く行くぅぅぅ!!行くに決まってるじゃん♪でも何処で貰ったのよ?まさか、自腹?」
 ガウリイに駆け寄りチケットを手に取り・・・・顔を見上げる。
「自腹?冗談だろ?こんな高いチケット買うかよ。貰ったの・・・・其処で」
 と、店の外の通りを差す。
「其処?」
 ガウリイの指先を目で追い・・・
「ああ、直ぐ其処でだぞ?」
 きょとんと指で頬を掻くガウリイ。
「でも、なんでくれたんだろう?あの子」
「知ってる子に貰ったの?」
「んにゃ・・・知らん」
「ふーん」

「・・・・」
 カウンターの中でザングルスが呆然とランツと二人を見比べる。

「でも、ラッキーだったじゃん♪」
 しばらく考え込んだように通りを見ていたリナは、にっこり、ガウリイに振り返った。
「だろ?だろー?」

 ―――・・・



 すっかりランツとの会話を忘れて店を出て行く姿を見送って、マルチナが呆けたままのランツに、

「・・・・ランツ」
 ゆっくり冷ややかに口開く。
「お願いだから、仕事して」




***






「お久しぶりです。会長」
 デスクで書類に目を通していたフィルがゆっくりと顔を上げる。
「おぉ・・・これは殿下」
 メガネを外しながら立ち上がり、青年に歩み寄る。
「お知らせくだされば・・・・」
 と、気さくに話し掛けるフィルの差し出した手を無視し、
「今日はね・・・お知らせにあがったんですよ?会長」
 今の今までフィルが座っていた其処に座りデスクに肘をつく。
「知らせ?」
「このセイルーン財団の株を某国に46パーセントお譲りしました。この意味がお分かりですね?フィル?」 
 手に顎を預けながら楽しげにその人はフィルの反応を覗う。
「なんのご冗談・・・」
 フィルは笑おうとしたが笑えなかった。
「冗談?冗談だと思いますか?」
「当たり前です。そんなことをすれば我が財閥は・・・・アルフレッド殿下、我が国だって、ただではすまない」
「知ってますよ?我がセイルーン国は小国だ。それでも富んでいるのは・・・・ここがあるからですよねぇ?だから、あなたはここの名前を国と同じにした・・・・でしたよね?亡き父もあなたには感謝してますよ」
 アルフレッドはフィルの反応の一つ一つを楽しむように続けた。
「父はあなたに最愛の女性を奪われた。まぁ、あの人は権力を振り翳すような?無粋なことはしませんでしたが・・・?亡くなるまでずっと、グレイシアさんを愛してましたよ。ならば、僕を生んだ母はどうなるんです?父は優しかった。・・・母にも誰にも優しかった。でもね、僕は知ってます。父が母を愛したことは一度もなかった。すべては・・・・・国のため。皇太子という身分でなければ・・・・・・あなたの奥さんを想って一生独身でしたでしょうからね」
 其処で一度言葉を切り、フィルを仰ぐ。言葉を失ったままのフィルを観察するように。
 そして、
「国がただではすまない。そうおっしゃいましたよね?」
 ゆっくりと立ち上がり、空にも届きそうな窓から外を見ながら・・・・
「なくなってしまえば、いいんだ。セイルーンなど」
 そう吐き捨てる。
「殿下!」
 堪りかねて声を上げたフィルに、アルフレッドは含み笑いを見せた。
「だってそーでしょう?この国があったから、僕の両親は・・・・・・」
 アルフレッドは静かに目を伏せた。
「僕はね・・・悔しいことにあなたが憎めない。憎むどころか・・・・父とも慕ってます。憎めたら楽なんですがね。おまけに・・・・親子ですね。アメリアを愛してる。子供の頃からずっとです」
 苦笑を漏らし振り返る。其処で始めて素顔を見せた。泣きそうな顔を。
「アルフレッド・・・」

 重い沈黙が流れる。

「アメリアを僕にください。そうすれば・・・・株は売ったりしません。僕の父親になってくださいよ」

 ―――アメリア嬢と皇太子殿下との・・・・

 フィルの頭にあの日の大臣との会話が蘇る。

 ―――何を・・・娘はまだ子供だ。

 ほんとは気付いていた。この親友の息子の想いを。だから、できることならばとアメリアに見合いの話を持ちかけた。けれど、どうしても強くは話を勧められなかったのは―――・・・



 アメリア・・・・私はどうすればいいのだ。








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