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| ― 遥かときを超えて ― |
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「なんの用ですか?こんな夜更けに」 顕微鏡を覗きながらレゾは後ろの気配に話し掛けた。 「なんの用か・・・ですか?あなたが僕を呼んだんじゃないですか?」 ゼロスはすみれの双眼を薄く開く。レゾは軽く含み笑いをし、 「ま。その辺に座っててください。直ぐ終りますから・・・」 と、振り向きもせず、手だけで後ろのソファーを使えと指差した。 「まさかお忘れじゃないでしょうね。あなたはもう、僕に指図できるご身分ではないということを」 もう、レゾの中の魔王は完全に消滅していた。 「おやおや・・・高位のあなたがそんな、心の狭いことでどうするんです?」 レゾは微笑みゼロスに振り返る。 「僕は魔族ですよ?あなたこそお忘れじゃないですか?」 ゼロスはゆっくりとソファーに腰を降ろす。 「心なんてないとでも?」 意味ありげにレゾが笑う。ポットから白い湯気が上がる。 「ま、インスタントですが・・・」 ゼロスは差し出された紙カップを受け取りながら、 「ある訳がないでしょう?」 と、レゾを見返す。レゾは構わず続けた。 「今回、我々の利点がたまたま、合致した訳です」 ゼロスの顔がいつもの、一見、人畜無害に見える笑顔に戻る。 「・・・・」 「手を組んでも―――・・・そちらの損ではないと・・・思いますが、ね?」 緋色の瞳がゼロスを見下ろす。ゼロスはそれを見上げ・・・・ 「僕らと契約したい訳ですか?」 と、すみれの瞳を覗かせた。 ふっ 「何を言ってるんです?ご冗談でしょう?私に魔族と契約をしろと?バカバカしい。見縊らないで下さいよ?いいですか?私たちはあくまで対等―――・・・それも一時的なね」 レゾは笑った。一歩も譲らない態度でゼロスの前のソファーに座った。 「普通の命しか持たない人間のあなたが・・・僕らと対等なんですか?」 「ええ。対等です。私はね・・・・バカじゃないですからね。それにこれは、あなたにとってもいい話だと思うのですが?」 「ほぉー・・・どんないい話なんです?」 ゼロスは愉快そうに身を乗り出した。 「あなた方は利用価値のあるリナ=インバースをもう一度手に入れたい」 「それで?」 「私はゼルガディスを上手く使いたい」 「なるほど」 「そのためにこちらでは捨て駒を・・・用意してあります」 「アルフレッド殿下は捨て駒ですか?」 「ええ・・・使い捨ての駒。そのためにあの娘が不幸になろうが泣くことになろうが、知ったことではないです。私が欲しいのはあくまで・・・・」 「おやおや・・・恨まれますよ?ゼルガディスさんに。でも―――面白そうですね」 「面白いですよ?それでお互いの利点が合致しなくなったら・・・・」 間が開く。お互いの瞳を探るそして、結論は出た。 「なるほど・・・アメリアさんなら嫌とは言えないでしょうね」 ゼロスはくつくつと肩を揺らした。 「ね、どっちがいいと思いますか?」 アメリアが両手に服を持って鏡の前に立ち、後ろのマルチナに振り返る。 「どれでもいいんじゃないの〜・・・」 と、感心のないマルチナはドーナツを摘みながら雑誌を捲る。 「ひどぉ〜いっっ・・・ちゃんと見てくださいよぉぉぉぉ」 アメリアはもう半べそ状態。約束の時間まで後一時間しかないのだ。 「右」 見るに見かねたリナがベットの上から指差した。 「右ですか?・・・・うーん・・・・派手じゃないですか?」 「じゃ、左?」 ミリーナに言われて悩む。 「うーん・・」 「どっちでもいいじゃないの?どーせ、着るのはアメリアなんだし」 マルチナはカフェオレを啜った。 「マルチナさんっっっ!!・・・あたし真剣に・・・」 マルチナを非難するアメリアを、ベットから飛び降りたリナが中断した。 「ストォ――ップ!アメリア、時間見て?はい。こっちの服ね。あたしが決めたあんたはこっちがよく似合う!」 と、アメリアが左手に持っていたワンピースを取り上げ、右のツーピースを示す。 「で・・・」 「あら?なんな訳?あたしの選んだ服が着られないとでも?」 と、意地悪く顔を覗く。アメリアは顔を赤くしながら着替え始める。それでもとても楽しそうに。 マルチナはくすくすと笑いながらリナに耳打ちする。 「どっちも似たような服なのにね」 「でも・・・一応デートなんだし。迷うもんじゃないの?」 その脇を微笑みながらミリーナが通る。そして、マルチナが捲っていた雑誌に目を留めた。 「あら?」 「どうしたの?」 「何?」 ミリーナが取り上げた雑誌を二人、覗き込む。そこには髪を短くカットしたシルフィールの引退記事が掲載されていた。 「わぁー・・・ステキ♪理想以上の理想の人を見つけました。ですって」 着替え終えたアメリアが覗き込む。 「きっとステキな人なんでしょうね〜」 と、うっとり指を組む。 「ステキな人よ」 リナはあの店で、お菓子を作っていた姿を思い出しながら呟いた。 「知ってるの?」 マルチナの意外そうな視線に、リナはにっこり首を振った。 「あたしが知ってるわけ・・・ないじゃん」 少女たちはとても幸せな時間を過ごしていた。楽しくてたまらないそんな時間を。 『・・・・り・・・・な・・・ミリーナ・・・・・・』 風に乗ってルークの声が銀の髪を揺らす。ミリーナは頬杖ついて読書に専念する。情緒穏やかな横顔にルークは手を伸ばす。触れることを許されないと分かっていても・・・・・その指先に柔らかな感触を想像しながら。 「え?」 ミリーナが顔を上げて頬に触れる。まるで何かの感触を感じたように。 『何・・・』 ルークは息を詰めた。 「どうしたの?」 リナが声を掛ける。 「なんでも・・・・」 リナに振り返ったミリーナの頬に伝う涙。体裁悪そうに微笑み。 「やだ・・・泣いてるの?」 「ええ。リナさんに借りた本を読んでたら・・・・」 ミリーナは頬を染める。 『本?』 本に感情を流されただけなのか? ルークは苦笑する。期待してしまった自分の甘さに。 「あ・・・あの本。切ないでしょう?」 リナが身を乗り出し文章を読む。 「ああ・・・・ここでしょ?泣けるのよね・・・ ずっと いっしょに いられると思った。 どうしてかな。 なんでかな。 みきちゃんが、いなくなた。 それでここよ。ミリーナ。探すのよね?おいて逝かれた犬が飼い主を求めて泣くの。 どこ? どこ? どこ? どこ? どこ? どこにいるの? シロ、ってよんで。あたまをなでて。 堪らなくなるでしょ?アメリアなんか号泣したのよ?」 「すごく切ない。この残された犬の気持ちも。飼い主の心も。すごく・・・・身近で・・・・」 と、ミリーナには珍しく、涙を隠そうともせずに。 「身近?・・・・こんな経験があったの?」 リナはミリーナを伺う。 「いいえ。幸いにもこんな気持ちは経験したことは・・・・でもね、何故か知ってる気がするのよ。おかしいでしょ?大切な何かを残して逝く気持ち」 ミリーナは笑った。 『!』 ルークは初めて自覚した気がした。あの瞬間、ミリーナが自分に最期の言葉を残した瞬間を彼女がどんな気持ちで自分を見ていたかを。 ―――どうか、しあわせになって――― 『ごめん』 ルークは自分の不甲斐無さに唇を噛む。何度も後悔した筈だった。だけど・・・・初めて心の其処から後悔した気がした。どんなに自分が大きな失敗したかを。自分が何より大切な存在に対する思いやりが欠けていたと・・・・ 『すまない』 何度、あやまっただろう?でも、心のどこかでいつも彼女を責めた。どうして、自分を残して逝った。と・・・・護れなかった約束も何もかも相手の所為にして。 今となっては・・・・どうすることも出来ない過去の・・・気の遠くなるほどの過去を悔やむ。 『なぁ?いつか・・・・君に俺は償える時が来るだろうか?君の望みを叶えてやれなかったことを償える時が・・・』 ルークは堪らず、虚空に逃げた。どうしようもない後悔に涙さえ、乾いて。 ―――ミリーナ。君の傍に生まれたい――― 初めて心底、転生を願う。 |