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| ― 遥かときを超えて ― |
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「つめたっ」 頬に当たった雫でリナは我に返った。 雨?さっきまであんなに晴れてたのに・・・・ 突然の天候の変化に慌てて走り出す人並み。 「・・・・」 それに逆らうようにリナは立ち止まり振り返る。 なんで・・・・あたしは中に入らないで来たんだろう? くすっ 「また・・・返しそびれちゃった・・・」 そう呟くが、来た道を返す気にもなれず・・・ゆっくりと歩き出す。一瞬捕らえた蒼い瞳・・・・それを避けるように入り口で入るのを止めてしまった。 キレイな瞳だったな・・・ 歩くうち、本降りとなった雨。慌てて店先で雨宿り。ちょうど其処はケーキ屋の前。大きなガラス窓があり、ケーキ職人がケーキを焼く姿を一望できるようになっていた。暇つぶしにリナはそれを見ていた。 「良かったら、中で見てないか?」 中から手招きをされた。誘われるままリナは工房に入った。ちょうど良かった。なんとなく、今は独りで居たくない気分だった。 「其処にでも腰を降ろしてるといい」 調理場の隅にあるイスを指差され、軽く頷いた。 「君、濡れてない?」 到底、ケーキ職人になどは見られないだろう、ゴツイ顔をしたその人がタオルを差し出す。どうやら親切にも店の中で雨宿りさせてくれるつもりだったらしい。 「あぁ・・・・ありがとう」 優しく微笑むとその人はまた作業に戻った。その後姿をぼーっと見つめながらリナは、ふと誰かに似ていると思った。が、それが誰だったか思い出せない。思い出したのはあの蒼い瞳だけ・・・ 「ねぇ」 「はい」 「君から見て、通りからここが覗けるのはどう思う?」 「通りからですか・・・?」 「僕みたいな奴が作業してるの見えて・・・・買う気になる?」 躊躇いがちに質問され、リナは一瞬言葉を失った。 「なんで・・・あたしに聞くんですか?」 その人は照れくさそうに振り返り・・・ 「君が・・・熱心に僕を見てたから・・・少し気になって」 聞けばここはオープン前だと言う。まだ、人に売れるほど美味しいものが出来ないと、その人は言った。 「いいと思います。整頓されてるし清潔だし・・・見てて楽しいと思いました」 「本当に?」 嬉しそうに目を見開く。リナは微笑んで頷いた。 「作っている人の容貌なんて・・・・美味しければ、あたしなら気にならないと思うわ。それに・・・そんなに気にするような容貌じゃないじゃない?」 そう言うと照れたのか、そのまま作業に戻ってしまった。どのくらいの時間が経過しただろう?リナは目の前に差し出された焼き菓子に顔を上げた。 「よかったら」 美味しそうな色に焼きあげられたクッキー。言われるままそれを口に運んで驚いた。 「美味しい!」 思わず声をあげた。甘くもなくバター臭さもあまりなく純粋な味がした。本当に美味しいと思った。飾りの凝ったケーキより素朴な味がして、食べ飽きない。次に出されたシフォンケーキも絶品だった。 「どうして・・・オープンしないの?」 「同じこと・・・言うんだね」 少し寂しそうな顔をして笑う。 あたしの他にも同じこと言った人、居たんだ・・・・ リナはそれが誰なのかを聞こうと口を開いた。が・・・それを聞くことは出来なかった。 「どう・・・して?」 呆けたような声にリナはその視線の先に視野を広げた。 「雨に降られたの・・・・それに・・・・・あなたに会いたかったから・・・」 意外な人物が入り口に立つ。 「帰ってくれ!君の顔なんか見たくない!」 一変する声色。 「ボラン・・・この方、雨に降られてね・・・びしょ濡れ・・なのよ?何か貸して差し上げて?」 上擦る声。噛み合わない会話。そして、リナはその人の向こうにあの瞳を見た。 え・・? 「君なら僕のものが何処にあるか知っているはずだろ・・・好きに使ってくれていいからっ!」 叫び声に近い険しい声が遠退いて行く・・・・ ―――思い出さなくていいですから。その方が・・・――― 「・・・・」 頭の中に声が響く。でも・・・・ どうして・・・そんな死んだような顔して立ってるのあんた? 何故だか分からない。ひどく腹立たしい。 「君はひどい人だ!シルフィール!!僕はそいつの顔なんか見たくないのに」 リナの視線が店主に戻る。 「・・・・」 「やましい事は何もありません・・・だから平気ですわ」 彼女の首に輝くネックレス。 「・・・」 ―――内緒ですけど・・・――― 「・・・・・」 リナは二人の間をそっと抜けてずぶ濡れのその人の腕を掴んだ。 「行きましょ?あたしたち。邪魔だから・・・」 驚きに見開かれた碧眼。懐かしい輝き。懐かしくて涙が溢れそうになる。外の雨はいつの間にか止み、日差しが所々を眩しく輝かせる。 「雨・・・止んだわね」 振り返ると、険しい顔。 なんて顔してるのよ?あんたは・・・ そっとその頬に触れ・・・ 「だらしない顔ね」 笑みが漏れる。困った顔をするから頬を抓ってやる。初めて会う人なのに初めて触れたのに自然に・・・・ 「いっ」 顰めた顔。情けない瞳。 「そんな顔しないの。ガウリイ」 名前を呼ぶと―――・・・・何かが弾けたように抱き寄せられた。そして・・・小さな聞き取るにも困難な程の小さな声で・・・・ 「リナ・・・・」 名前を呼ばれたら涙が出た。 「すまない」 すまなそうに俯くゼルガディス。彼が強引に連れ出したがために雨に降られて、びしょ濡れの少女。 「気にしなくてもいいですけど・・・・少しびっくりしちゃいました」 笑う少女の濡れた前髪から雨の雫が零れ落ちる。日差しを浴びて輝く。 キレイだ。 「面目ない」 くすっ 「ね、謝ってくれるのなら・・・濡れたついでに泳ぎに行きません?」 と、顔を覗き込む。 「・・・・」 「水着どこかで買っちゃいましょうよ。ね?」 昔と変わらない前向きな笑顔。 少しも変わらないな・・・ 「ゼルガディスさん?」 名前を呼ばれて嬉しくなった。 「よし!俺があんたに似合うやつをプレゼントしてやる!」 手を取り走り出す。ただ違うのは・・・以前ならこんなに自然にこの手を繋ぐことなど出来なかった。 「えー・・いいですぅ〜・・恥かしいですから」 やっと・・・見つけた。 もう、昔はどうでもいい。 あんたが俺を覚えてなくても・・・あんたがここに居てくれるのなら。 ―――アメリア――― 「留学が決まったんだ」 「え?」 突然告げられた言葉に困惑する。 この人があたしの前から・・・居なくなる? 漠然とそれを受け止めている自分が不思議に思えた。 「しばらく君に寂しい想いをさせるけど・・・・」 寂しい?あたしが・・・? 「おめでとう。ロン」 そうね・・・そうよね?普通なら寂しいはずよね?でもね・・・・ごめんなさい。少しもそれを感じないのよ。 「ありがとう」 照れたように鼻の頭を掻く。 「・・・・・」 「急に決まったから驚いたけど。チャンスだから」 本当に嬉しそうに笑う。 「いつ行くの?」 「来月の頭には・・・・で・・・・その前にミリーナ」 来月頭?もう間がないのね。 「いってらっしゃい。あたし・・・・こっちに用があるから」 呼び止める声を無視して建物の中に入る。話の途中・・・・それを中断してエレベーターに乗り込む。 なんなの?なんであたし・・・・ほっとしてるの? ロン=スティタス。栗色の巻き毛の青年。彼とは幼馴染みでいつも隣に居るのが当たり前。そんな関係だった。なのに・・・・少しも離れることが苦痛ではない。むしろほっとしているのが不思議だ。 「・・・・」 自分の中にとても大切な封印された想いがある。そんな感覚さえした。 その日の夜。彼女はロンからのプロポーズを迷うことなく断った。 それはルークが知り居る限り初めての心の変化。いつも愛しい人の選ぶ者は決まっていた。ロンと呼ばれる青年。それを当然のように何度も受け入れてきた。ミリーナさえ、幸せであればと・・・・自分には彼女に何もしてやることは出来ないからと――― 『ミリーナ・・・?』 ルークは微かに変化し始めたミリーナの心に不安を覚えた。まるで長く届かなかった想いが叶う。そんな都合のいい予感に心が震える。 『何を企んでるんだ・・・ゼロス』 |