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| ― 遥かときを超えて ― |
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はぁはぁはぁ・・・ 弾む息、全速力で後を追ったのに・・・・何処にも見当たらない。 「リナ!」 叫ぶ。降り出した雨は、あの日失った日に降ったのと同じ。季節に不釣合いなほど冷たく―――・・・ 「リナぁぁぁっ!!」 周囲の迷惑そうな視線にも構わず、その名を呼ぶ。 人は――絶対に失いたくないものが在る。失ってはいけないものが在る。何者にも替え難い者が在る。だからこそ、一度手放したものを二度得ること―――・・・容易ではない。得がたいものであるからこそ。求めつづけるのだから。 ―――行くのか?どうしても・・・・・・・ガウリイ――― その声は諭すように響いた。 これがある限り・・・・ここは荒廃するんだ。 手にした剣を硬く握り締める。 ―――枷を――・・・お前が背負う必要は何処にもないんだぞ――― やめろと、物語る視線。何処までも優しい兄。優しすぎた兄。 護りたかった。 剣があれば、必ずその人は命を落すことになる。愛しい女性と別れて好きな勉学を諦めてまで・・・・命を捨てることはない。 「ダン・・・」 兄の名を呼ぶ。もう、ここには二度と戻らないと・・・・この『光の剣』がこの手にある限り――・・・ 犠牲になることはないと・・・・差し伸べる手。キレイな澄み切ったスカイブルーの瞳が諭す。 だから、護る。本が好きで穏やかで・・・争うことを好まない兄を。初めて恋したエリィが恋心を抱く兄を。くだらぬ掟で縛る必要などないのだから・・・・ 「ここを出る」 俺はこれを捨てる場所を見つけるために!! そういつも大切な奴と別れる時には雨が降る。要らぬ恋慕までも洗い流すように。そして、大切な人は二度と――・・・ 嫌だ。 嫌だ! 冗談じゃない! あいつとは・・やっと・・・ 「リナぁぁぁ!!」 どうしても得たかった女性。どうして・・・・ここに居ない? 記憶がごちゃ混ぜになって交差する。 ―――捨てちまうのか?もったいねぇな――― そうだ。こんな剣は人間には要らない。 ―――光の剣はねぇ・・・ガウリイ。あたしを救ってくれた剣なんだよ――― 優しい祖母の手が何度も髪を撫でる。剣を見る瞳はいつも寂しげで。 ―――だけど――・・・本当は必要なかったのかもしれないねぇ――― 自分が幸福であったことをいつも悔いていた。そのために後世に禍を残したと―――・・・ ―――ねぇー、ガウリイ〜♪それ、ちょーだい♪――― バカヤロー!お前にだけは渡せないんだ!! 初めて意識した異性。リナ。 ―――あ。言っとくけどな。捨てるならくれ、なんて言ってもやらないからな――― それと面影が重なる。俺に大切なことを教えてくれた・・・ ―――言わないよ。・・・・・ま、関係ないことだしな。お前とそれに何があろうが。それを拾った奴が何人手にかけようが、お前が持っていて何人助けようがな――― 道具は使う者の心でなんとでもなると―――・・・名も知らぬお節介なオヤジ。 リナと出会ってはじめて使いこなせた光の剣。 リナと出会ったことで手放す本当のタイミングを得た。 それは・・・・真に必要なもの得るための試練。 そして、俺は得たんだ。リナを護る為に必要なもの。 だから。折角手に入れることが出来たあれを。 俺は・・・・まだ、使いこなせてはいない。 「リナぁぁぁ―――――――っ!!」 誰に不審に思われても構わない。今、直ぐもう一度隣に立ちたい。 ―――特定の一人を絶対に作るな――― 兄ダンモアの最後の助言。作れば手におえなくなると。 ―――愛されても、愛してはいけない――― 誰か一人のために生きるのであれば、いつか、必ず剣を使いこなせなくなると。 ―――決めてしまっては、それを失った時すべてが崩れる――― 破滅すると。でも――・・・ 愛さない自信は、あったのに。俺はダンのくれた最後の戒めさえ護れなかった。愛してしまった一人の少女。心を伝える気はなかった。でも、何処かでいつもそのタイミングを狙っていた。 バシャン アスファルトに膝をつく。 「・・・・」 もう。声さえ出ない。 忘れてたよ。俺・・・あの時・・・お前さんを失ったあの日――・・・ ―――気の毒だがあんちゃん・・・・その娘は・・・――― 触れられた肩。全身を打つ雨。 ―――体に毒だよ?降ろしてやんな。埋葬してやりなよ――― 心配してくれた畑帰りの夫婦。 ザンッ 雨も悲鳴も哀もすべて―――・・・刃が呑み込んだ。 そう。手放した後も、光の剣の戒めは俺の中で生きていた。 誰も――あんたを責めたりしないよ。少なくとも俺は出来ない。だから・・・・・ 直ぐ傍で囁かれたルークの呟きは、ガウリイには届かなかった。 「・・・・」 ガウリイは雨の中。両膝をついて雨を弾く両掌を呆然と眺めた。 「あら?ガウリイさんじゃないかしら・・・」 穏やかな落ち着きの在る声。ゆっくりと顔を上げると・・・ 「まぁ、やっぱり!どうなさったんですか?びしょ濡れじゃありませんか」 「・・・・」 傘を差し出し手を伸ばす。 ビクリ 今の俺に触れるな!俺はまた・・・ 脇を掴まれ・・・・ 「さぁ・・・何が遭ったかは存じませんが・・・体に障りますわ」 「・・・・」 「知人のお店が直ぐ近くにあるんです。さ、参りましょ」 投げかけられた作り物ではない笑顔に声が零れ落ちる。 「シルフィール・・・・」 「ほう・・・・・・セイルーン家の一人娘に会われたんですか?」 アメリアの手を掴み強引に自分の前から消えたゼルガディス。足元に落ちた学生書をレゾはだれにも気づかれないように仕舞った。そして、明かされた少女の身元。 「ええ」 「あなたにとっては家柄は申し分ないですが・・・困ったことになりましたねぇ」 学生書を手に。ちらり、奥のソファーで優雅にカップを傾けているレゾに目を向ける。 「大丈夫ですよ。あれは私には忠実ですから」 「忠実ねぇ?」 青年はカップを持ったまま窓際に立つ。レゾに向けられた視線。含み笑いをしつつ歩み寄る。 「やな雨だ・・・・あんなに晴れ上がっていたのに」 「そうでしょうか?私はこんな雨ほど・・・好きですがね」 レゾは窓を開け手をかざし雨粒を拾う。 隣で短く吐息が漏れる気配。 「あなたの余裕は何処から来るんですかね!」 不満げにレゾが座っていたソファーに腰を降ろす。 「余裕?・・・・・そうですね。自分が正しいと確信があるから。とでも、言うしかないですね」 そしてレゾは続けた。「天候も人の心も同じですよ。時期がくれば定めに逆らうことはないでしょう」と。 |