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| ― 遥かときを超えて ― |
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なんで? 頬を切る風の音が耳についた。 あたし、走ってるの? 一瞬見えた蒼の瞳。とても懐かしくて心が壊れそうだった。 ―――秘密ですけど・・・・婚約指輪なんです――― 「・・・」 リナは胸元の服を掴んだ。胸が痛い。 「リナ!」 名前を叫ばれて、全身が泡立つ。一瞬振り返り、追って来るその人を見た。 「な・・んで―――?」 追っかけてくるの?誰に名前を聞いたの? なんで、俺を見て逃げるんだよ。 説明のつかない苛立ちに前を走る栗色の髪を睨んだ。やっと巡り会えたその人。いつも、何かの傍に在りたくて何かが足りなくて・・・・捜し続けた。やっと、やっと、見付けたその人は自分を見て逃げた。 そう、逃げた。 ギリリッ 腹立たしさに歯を食いしばる。 「逃げる、な」 叫んだつもりが掠れる。 ―――ねぇ、あんたさぁ。 不意に耳に蘇る自分の声。 ―――いつまであたしの保護者してるつもり? 何か、とても大切な何かが霞めた瞬間、 「こっちです」 通路脇から腕を引っ張られる。 「え」 誰かに引き寄せられる感覚。 「リナさん。目を閉じてください」 とても馴染みのある声。人の良さそうな響きの中に含みを感じる。 ―――ゼロス――― 何故その名が浮かぶのか。 一瞬確認したすみれ色の双眼。 逃れられるのならばと、視界を閉ざす。 追っていた目標――リナの気配が突然消える。 「何」 其処に居た気配さえ何も残らない。 「・・・・」 やっとたどり着いた愛しい存在を見失った。 「なん・・・・っ・・・・で・・・・だ。リナ」 いつもあんなに近くに居たじゃないか! 「アメリア」 自分でも可笑しいくらい声が震えた。 「はい」 明るく返事を返す少女。 ―――約束してください。ちゃんとした護身術を――― 永遠となった約束。失ってしまった懐かしい温もり。叶った望みとその代償――― ・・・ それは・・・・初めての口づけと永遠の別離。 今、蘇る忌まわしくも愛しい記憶。かつて、自分に課せられた足枷と様々な出会い。そして――あまりにも過酷な試練。 ―――アメリア!!――― 最愛の女性が今、目の前に。 ―――ゼルガディスさん――― もう一度、あの声で名前を呼ばれたい。 『あたしが・・・・あなたを待ってるの。怒りませんか?』 幻ともとれる約束。 「あの・・・」 不思議そうに自分を見つめる。 「いや・・・あまりにもあんたが・・・知った奴に、似てたから」 「・・・・そうですか」 きょとんとした瞳。俺のことなど記憶にない。そんな顔。 ふっ 仕方ないことだ。前世の記憶など、そうそう誰もが持てるものではない。だが――― 「アメリア・・・・一人?」 「え?」 一瞬困惑した顔を見せ――次に明るく頷いた。昔と変わらない元気な仕草で。 「一人なんです。良かったら・・・ここ、座りませんか?」 何故だろう?とても違和感があるのに、心が騒ぐ。懐かしくて・・・何かが溢れる。初めて会った人なのに。 「いいのか?」 「はい」 今は、彼女の傍に。ただ、傍に居られるだけでいい。今度こそ、俺が護るんだ。 「も、いいですよ」 その声に従い瞳を開ける。 四つの赤い輝きが空間に浮かぶ。 「こ、これは!!」 「ようやく、思い出しましたか?これはあなたが噛み砕いたもの」 声が告げる。 そう。それはあたしが、あいつを護る為、あれを倒す為、噛み砕いたもの―――そして、あたしはとても大切なものを失った証。 「なんでよ!なんで、これがここにあんのよ!」 込み上げてくる憤り。 「相変わらずですね。僕としても、その方が嬉しいですよ」 現れるその人。一番、会いたくなかった奴。 「ゼロス、あんた!」 あたしはあの時見た。崩れる崖を虚空から見下ろすこいつを! 「おや嬉しいですね。僕の名前は覚えていてくれたんですか?」 すみれの輝きが深くなる。 「忘れたりするもんですか!」 そう。こいつ。この魔族だけは忘れない。最も身近で最も危険な存在。 ゼロスはすっと人差し指を伸ばす。くるくると赤く輝きながら其処に集う。 「なんのつもり?」 また、ガウリイを狙うつもり?あんたなんかにあの人を殺させたりしない! 「言ったでしょ?これはある、高貴な方から頂いたもの―――と」 「だから何よ」 ゼロスが肩を竦め笑った。 「蘇生・・・・蘇生ですよ。失う訳にはいかないのでね。今から・・・あなたの中で」 一つにまとまりつつある輝きを愛しげに眺め・・・・ 「誤算でしたよ。あなたが、まさか、盾となるとはね。おかげで随分と待たされました」 リナに振り返る。 「さて・・・これで一つ目の望みが叶う訳です」 「望み?」 「ええ、望みです。まぁ、これだけではすみませんがね」 「何を・・・」 そのリナの呟きは続かなかった。見せられたのだ。 「そんな!」 溢れる悔しさに激しい頭痛を覚えた。 「実に美味ですしたよ?彼は。極上の栄養源でした」 「悪魔!」 「やだなー・・・リナさん、僕はそんなものではありませんよ?あれは人間の作り出した虚像。僕はね・・・・魔族なんですよ?」 愉快げに笑う。 ダメだ。こいつのペースに呑まれては。 「で、今回はあたしに何をさせるつもり?」 ニヤリと笑う。 「いやぁぁー・・・嬉しいですね。リナさんは勘が良くて♪でもね・・・・」 人差し指が振られる。 「何もしないでください。思い出さなくていいです。その方が楽しいですから」 と、くつくつと肩を揺らす。 「・・・・」 こいつは何処までも―――・・・ 「ただの、余興です」 試させて頂きますよ?今回も。 ―――ガウリイ!!――― 笑みが。本当に楽しげな笑みが忌まわしい。 「要らぬ。恋慕は捨てて頂きます」 その魔族は告げる。忘れろと。 あたしは見据え、 「なら、教えてもいいでしょう?どうせ、忘れるんだから」 言い放つ。 「いいえ。これは試練です。あなた方、人間への復讐――みたいなものですから」 「復讐?」 何言ってるの?復讐なら、こっちがしたいわ。 「僕らを退屈させた。復讐なんですよ?リナさん」 「・・・・」 「なぁに、時間ならたっぷりと用意してあります。死んでも、また生まれてくればいいんですから」 さらりと告げられる試練の重さ。 「言いなさい」 低い声。これほど、おぞましいと感じたことなどない。 「それはね・・・・秘密です♪」 「気持ちは変わりませんか?」 突然現れた叔父。ゼルガディスから笑みが消えた。 なんでここに現れる。それも今。アメリアの居る前で!今生では邪魔はさせん! 「変わらん」 冷たく言い放つ。 「おやおや・・・」 レゾは穏やかに笑みを浮かべ、 「お嬢さん・・・悪いのですが・・・少し席を外していただけませんか?」 アメリアを見る。 「あ、はい」 立ち上がろうとするアメリア。その腕をゼルガディスが掴む。 「行くことはない!」 「え・・で、でも」 困惑するアメリア。アメリアに向き直るゼルガディス。 「・・・・」 アメリアの口元から吐息が零れ落ちた。再び腰を降ろす。 「すまん」 小さく囁くゼルガディスに、アメリアはにっこり笑った。 「俺は今、彼女と話をしてる。帰ってくれ!」 「だめですよ?赤の他人が聞いても楽しい話題ではありません。ねぇ。お嬢さん?」 レゾは冷たい視線をアメリアに向けた。 |