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― 遥かときを超えて ―
7


作:萌黄さん


「ええーっ、リナちゃんって言うんだぁー」
 ランツのハイテンションな声が響く。カウンターからザングルスが奥の席を覗いた。
「すみません。マスター・・・友達なんです」
 マルチナが奥を気にしつつ、ザングルスに声を掛けた。
「友達は分ってるけど・・・で、なんであいつなんだ?」
 不信そうに呟く。
「友達の一人が前にちょっと・・・多分、ちょっとだけなんですけど、介抱してもらったみたいで・・・」
「えっ?えっ・・ええーっっ??」
 ザングルスは目を丸くして、マルチナと奥の客を見比べた。
「?」
「で、どの子?」
「はい?」
 意味も分からずマルチナは首を傾げた。




「可愛い名前だよねー」
「どうも・・・今度、この前のハンカチ・・・お返ししますね」
 気色悪いなーこの人。近付かないでよ。

 と、引き気味でリナの笑顔も引き攣る。その隣に座ってランツ。
「リナちゃんが持ってきてね。でも、あれ僕らのであった記念に持っててくれてもいいんだけどなー・・・」
 満面の笑みを浮かべる。しれっと立ち上がるアメリアとミリーナ。縋るようなリナの視線を無視してカウンターのマルチナのところへ。



 ひぃぃ〜んっっ。薄情ものぉぉぉ!!



 リナは視線だけで抗議するが、背を向けられていてはそれも意味を成さない。
「ほっんとに持っててくれてもいいけど・・・あっんなの要らないよね。違うものプレゼントするよ」

 嫌ぁぁぁぁ!!近付くなぁぁぁ!!んなもん、要るかー!!




「おい・・・いいのか?嫌がってるぞ」
 ザングルスがマルチナを見る。
「嫌なら・・・言うでしょ」
「冷たいなー・・・あいつの性格を知ってるくせに」
「しつこいんですか?」
 アメリアが小声で奥を気にしつつ聞いてくる。
「かなり・・・しつこい」
 ザングルスが頷く。
「へぇー?」
 と、アメリアの瞳が輝く。楽しいものでも見つけたように。
「そろそろかしら?」
 ミリーナがカバンにつけた腕時計を見て呟く。
「そろそろね」
 マルチナも同意する。
「わぁぁぁっ♪」
 指を組み立ち上がるアメリア。
「??」
 ザングルスだけが意図が掴めず首を傾げる。その後ろで・・・



 すぱぱぱぱぱぁぁぁぁ----------んっっ!!



 軽快な音がした。





「へぇー・・・ランツその子にこれで殴られたのか」
 と、ガウリイは見事に割れたメニュー表を見、笑った。見事にプラッチックの板が割れ、中の紙のメニュー表が破けている。
「見たかったなー・・」
「そうなんだよ。俺も調度、その瞬間は見逃してさー・・・」
 と、上機嫌でモップをかけるランツを見る。
「でも、流石、ランツだよな?めげてないじゃないかぁ〜」
「それどころか、一人春を背負ってるよ」
 ガウリイとザングルスが感心する。
「バカな奴だ」
 ぽそり、ゼルガディスが呟く。2人はそれに振り返り・・息の合ったタイミングで頷く。



***



 はふっ

 溜息が漏れた。手の中の包みに視線を落す。
「何よ、マルチなのケチ」
 リナはそう口を尖らせる。
「ついでなんだから・・・持ってってくれたって・・・・」
 小さな包みの中にはいつかのハンカチ。
「もう。会いたくないのに」

 ブチブチ



 ―――ついでってさー・・・気持ちも分らなくもないけど・・・あんた、自分が世話になったんでしょ?嫌だからってあたしに預けてどーするのよ。ちゃんと、自分で返しなさいよ―――



 んなこと・・・分ってるわよ。でも、苦手なんだから仕方ないじゃない・・・



 リナの脳裏にランツの笑みが蘇る。背筋がぞぞぉっと寒くなる。

 ―――彼、多少変わったところも、確かにあるけど・・・・悪い人間じゃないのよ―――

「・・・言ってることは――分るけど・・・」

 はぁ〜〜〜〜っ

 生理的に受け付けないのよ。
「あのタイプは」
 重い足取りで路地を曲がる。

 ドンッ!

「きゃあ!」
「おわたっ!」

 曲がった矢先、人にぶつかり尻餅をつく。
「あたたたたぁぁぁ」
「ごめんなさい。すみません。お怪我はありませんでした?」
 キレイな透き通る声に声の主を見た。この暑い夏に長袖のスーツに身を包み白い手袋まではめた黒髪の・・・・
「シルフィールさ・・ん?」
 何故だろう?縁の広い帽子をかぶりサングラスでほとんど、その顔も確認できないのにその人だと瞬時に分った。
「え?分りますか?」
 小声でサングラスをずらしリナの顔を覗き込む。
「何してるんですか?」
 と、聞くと泣きそうな顔で俯いてしまった。今にも泣きそうに・・・

「どうしたの?」
「なくしてしまったの。とても大切な人に頂いたものを・・・」
「何を?あたしも捜すの手伝ってあげる」
 気付いたらそんなセリフが口から零れ落ちていた。

 なんで、そんなこと言ってしまったんだろう?分らない。
 ただ、泣いて欲しくなかった・・・・

「いいんですか?急いでたんじゃ・・・」
「いいのよ。たいした用じゃないわ」

 そう、ハンカチならいつでも返せるから・・・

「ありがとうございます・・・・私、私なんて言ったらいいか」
「お礼なら見つけた時にして、で、何を落としたの・・・・」



 通りを逸れた路地で2人、落としたものを探す。夕日が路地に差し込み2人のシルエットが長くなる。まるで時が止まったよう・・・・何処までも長く伸びるシルエット。リナはふと、何かを思い出しそうになる。




 なんであたしは、この人を放って置けなかったんだろう?

「あっ・・・」
「見つけた?」
「はいっ。これです」
 シルフィールの瞳から安堵の涙が溢れる。キレイで切なくなるほどの美しい涙。彼女が必死になって捜していたもの―――ネックレスに通した小さな石のついたリング。
「これ・・・もしかして・・・・」
 リナはシルフィールを覗く。
「秘密ですけど・・・・婚約指輪なんです」
 それは・・・・・とてもキレイな笑顔で・・・・
 笑顔で・・・・・

「おめでと・・・・・よかったわね。見付って・・・・」
 自分の声が何か違う響きを持って響いた。ただ呆然と。



 やだな・・・・なんか・・・・・ここに居たくない・・・・・なんか・・・・・よく分らないけど・・・あたし・・・・・泣きそう・・・



 挨拶もそこそこにリナはシルフィールと別れ歩き出す。何処へ行けばいいのか・・・分らない。いつかぽっかり開いた心の穴が大きく広がったように感じた。




「あっ、リナちゃん。ハンカチ返しにきて・・・リナちゃん・・・どうしたんだよ?」
 誰かの声が遠くに響いて・・・それが誰の声なのか確認したかったけど・・・溢れた涙が邪魔して何も見えなくて・・・・・




 見えなくて――――――・・・







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