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― 遥かときを超えて ―
6


作:萌黄さん


「る・・・・くか?」
 短い沈黙の後に紡ぎだした自分の声。ガウリイは有り得ないそれ呆然と見詰めた。
 それは自分がかつて、生きた別の時代で共に仲間として生きた仲間の姿。

 風が流れる。驚きと言う名の沈黙が風に攫われる。もう一度懐かしいその名を呟く。

「ルーク・・・」

―――大丈夫だ・・・嬢ちゃんは直ぐ傍に居るから・・・―――

「そっか・・・」
 ルークは何かを悟ったように呟いた。似ている立場が本来見えぬものを見せることもあると―――・・・
「ルーク」
 ただ、懐かしさが溢れ言葉を紡ぎだす。

 リナもこいつのように今、ここに存在するのだろうか?見えないだけで・・・・直ぐ傍に居てくれるのだろうか?

 ガウリイの思考が心に流れ込む。ルークは切なかった。伝えたかった。今、直ぐ下の道を愛しい少女たちが揃って歩いていたことを。ただ、それは出来なかった。見えない何かに阻まれて声は其処の部分だけ掻き消える。そう、知っているのに知らせることが出来なかった。代りに出たのは・・・・・本音だった。

「俺は逝きたかった。そして、お前たちと同じに生きていたかった―――」



 ガウリイは何も言えなかった。痛いほどその心が、想いが同じだったから。リナを失ったあの時、自分も死にたかった。何処までも少女に着いて逝きたかった。それをしなかったのは、目の前に居るルークを失った時のリナの涙を忘れられなかったから。それを彼女が望まないと知っていたから。

 リナに会いたい。

 溢れそうになる言葉を必死に喉の奥に押しとどめる。音になどすれば、自分は崩れてしまうかもしれない。狂うかもしれない。今、傍に在るかもしれない存在に凛とした自分を見てもらいたかったから―――





***





「お見合いぃぃぃ?」
 リナは思わず掌に隠した手紙の内容に声をあげた。慌てて前を向き黒板にチョークを走らせる女性を気遣う。何事もなく綴られて行く文字にほっとしたのも束の間、
「インバースさん。前の英文の訳をおっしゃってくださいな」
 チョークを止め、エリス教諭が振り返る。
「げっ!」
「随分と余裕がおありのようだから・・・・」
「それ・・・全部ですか?」
「そうですよ。簡単でしょ?」
 にっこりと微笑まれて、黒板にぎっちり収まった恐ろしく長い、英文。リナの頬を脂汗が伝い落ちる。よりにもよってリナの不得意教科の英語。おまけに今日はいつもの教諭が急に休み、何かとリナを目の仇にする、エリス教諭が臨時に教壇に立っていた。






「大丈夫〜?リナ」
 ぐったりと机に伏している姿を覗き込んでマルチナが愉快そうに笑う。
「死んだ・・・」
「アメリアがごめんなさいリナさんっっ」
 心配げに声をかける。その声に反応して伏したままでVサインしてみせる。



 くすくすくす




「理由はどうであれ、授業中に手紙なんか回すからよ」
 と、前の席からミリーナが振り返る。
「ふみゅ〜っ・・・反省してますぅぅぅ」
「ああ、あたしの所為ですね。ごめんなさいっっ」
 アメリアのすまなそうな声。

 がばりっ

「そーだ!あれ、どーゆーことよ!!」
「きゃあ!」
 いきなり起き上がったリナにマルチナとアメリアがぶっ飛ぶ。
「おっ・・驚かせないでくださいよぉぉぉ」
 胸を抑えながらアメリアが睨む。
「あっ、ごめん」
「あれって、お見合いのことですか?」
 寂しそうにアメリアが苦笑する。
「お見合いって誰がよ」
 マルチナから笑みが消える。ミリーナもイスの向きを変えこちら向きに座り直す。
「するの?」
 リナが短く問うと、アメリアが頷いた。
「別にね・・結婚する訳じゃないですし・・・父さんの顔を立てる意味合いで・・・
 仕方ないですね。えへへへ・・・・」
 アメリアは頭を掻きながら笑って見せる。
「えへへへって・・・アメリアぁぁぁ」
 と、顔を覗き込みリナは押し黙ってしまった。あまりにも思い詰めた真剣な眼差しに何も言えなくなってしまった。
「父さんはずっと、独りで頑張ってきたんです・・・・まだ、若かったのに再婚もしないで独りで頑張ってくれたんです・・・・・・そりゃーあたしだってこんな年でお見合いなんかしたくないですけど・・・会ってみるだけなら、いいかなーって・・・
 そう思ったんですよ」
「それでいいの?」
 ミリーナがぽつり呟く。
「いいんじゃない?別に・・・上流家庭にはありがちじゃない。こんなの・・・
 あっ、あたし用があるから、じゃっ!」
 マルチナはすっと顔を上げ教室を出て行く。
「マルチナ!」
 非難するように名前を呼ばれ、戸口で立ち止まり、
「そうそうアメリア・・・誰かの為なら、お止しなさいよ。相手に失礼よ」
 と言い捨て出て行く。

「一理あるわね」
「ええ」
 リナとミリーナが相槌を打つ傍でアメリアは黙ったまま戸口を見つめ――しばらくして突然、立ち上がってマルチナの後を追うように教室を飛び出した。





***





「おい。なんか軽いもの作ってくれ」
 ゼルガディスがカウンターに腰を降ろす。
「パスタなら、直ぐできるが・・・」
「それでいい」
「最近仕事、休んでるそうじゃないか・・・どうした」
 ザングルスが付け合せのサラダを出しながら話し掛ける。
「別に」
 それに短く応え、頬杖をつき通りを眺める。
 自分の問いに応える気がないと分るとザングルスは軽く吐息を漏らす。最近ずっと、来てもここから通りを眺めている常連に聞きたいことは沢山あったが、それは仕事の域を超えているので黙っていた。ゼルガディスが仕事もせずに毎日何処かへ行っているのはガウリイから聞いていた。ガウリイなら、然程気にもとめないのだが・・・・真面目なゼルガディスが仕事もしないでとなると、流石に気になる。
「らしくないな・・・」
 ぽつり、独り言を呟く。
「何が?」
 と、能天気なランツが顔を覗き込む。
「わっ!」
「うわっ・・・びっくりした」
「びっくりしたのはこっちだ!」
 ザングルスは不機嫌に睨むが、ランツはお構いなしで続けた。
「奥のテーブルにアイスティー二つね」
 用件がオーダーだったのでザングルスはそのまま、口を閉ざしてパスタをよそいゼルガディスに出す。それをもの凄い勢いで掻き込むと、ポケットから小銭を取り出しまた、店の外へ行こうと――
「おい」
「美味かった」
「直ぐに動くと気分が悪くなるぞ」
 心配したザングルスにゼルガディスは何かに憑かれたように通りを見つめたまま、
「大丈夫だ」
 と、短く言って店を出る。それと入れ違いにガウリイが、店の入り口でゼルガディスと何か簡単に会話を交わして入ってくる。



「珈琲」
「おお」
 ガウリイはさっきまでゼルガディスが座っていたところに腰掛けた。
「すごいな・・」
 ザングルスがガウリイに話し掛ける。
「何が?」
「10分と座ってなかったぞ」
「ああ・・・」
 と、ガウリイも苦笑を漏らす。
「お前から話は聞いていたが・・・・聞いた以上だな」
「だろー」

「遅くなってすみませーん」
 ちょうど其処へマルチナがエプロンをつけて入ってきた。
「おお・・マルチナ、あんた昼は?まだなら、こいつの隣でパスタでも食え」
 と、ザングルスがガウリイの隣を勧める。
「えっ?いいんですか?あたし、来たばかりですよ」
「おお、いいぞ・・・腹が減ってたら働けんからな。仕事能率を上げるためだかまわん。何がいい?好きなもの作るぞ」
「じゃ、マスターのお任せで」
 と、マルチナはすっとガウリイの隣に座る。奥でその会話を聞きつけたランツが、
「あぁ----っ、贔屓だぁぁぁ!!」
 と、文句を言いに来た。
「う、る、さいぞ。男の癖に飯のことくらいで」
 ザングルスはまるで相手にしていない。それを見てランツはガウリイに泣きついた。
「ひどいよなー・・・なんとか言ってやってよぉぉ」
 ガウリイは、くすくす笑うだけで何も言おうとはしない。
「みんな、ひどいじゃないか!」
 ランツがいじける。其処へ一人の少女が息を切らせて店に飛び込んできた。
「ほれ、ランツ・・・客だ」
 ザングルスがそれを言うとほぼ同時にマルチナが立ち上がる。
「アメリア・・・・」

 息を切らせたその少女は真っ直ぐマルチナに近付いてきて、
「あたしだって、嫌なものは嫌なんです!あなたと同じです!」
 と言い放つ。マルチナは一瞬、目を丸くするが直ぐに思い直したように
「じゃ、それでいいじゃないの」
 と、優しく微笑んだ。







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