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| ― 遥かときを超えて ― |
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チン レンジの音がしてゼルガディスは目が覚めた。 「・・・」 また、か。 頭を抱える。彼は一人暮らしなので彼が眠っている間にレンジが動くことはない。タイマーでもかけていない限りは・・・・どっと疲れを覚えながら起き上がる。昼間だというのに薄暗い部屋。彼は手探りで服を着てキッチンに向かった。 「来るなと言っただろう」 キッチンに向かうその人の肩が、ぴくりと動き振り返る。 「あ、起きちゃいましたか」 動じない笑みを返しながら、テーブルにサラダを乗せる。 「帰ってくれ」 「冷蔵庫、野菜がなかったから買ってきましたよ。後、たんぱく質も不足してましたねぇ?ダメじゃないですかゼルガディス」 「レゾっ!」 噛み合わない会話に苛立ちが込み上げてくる。 「なんですか?」 初めてまともに彼と向き合うその視線。ゼルガディスはふいっとそれを逸らしながら、 「帰れ」 言い放つ。 「栄養が不足しているんじゃないですか?顔が蒼いじゃないですか。食事はちゃんとしてくださいよ」 全然聞く耳を持たないそんな感じで、冷蔵庫に向かう。中から鮭のゼリー寄せを取り出し、 「で、いつまでモグラのような生活を送るつもりです?そんなに描写するのが楽しいですか?」 「描写だと・・・」 「描写でしょう?ああ、二次元に缶詰と言った方が適切ですか?さっ、座りなさい。スープが冷めないうちに」 座れと促す。 「カメラの仕事は辞める気はない!」 拳に力をこめ睨むが、 「さぁ、折角の料理が冷めますよ」 と、穏やかな笑みを向けるが、それには逆らえないそんな無言の重圧があった。仕方なくゼルガディスは席に着く。自分が食事を取るまでこの叔父は帰らないと・・・彼は食べたくもない食事に手を伸ばす。とにかく、早く帰ってもらいたかった。そのためだけに進まない食事を喉に流し込むように食べ始めた。 「美味しいですか?ゼルガディス」 満足げに頬杖をつき、食べる様を眺め―――― 「で、今日は何の用だ」 「何の用だとは、ご挨拶ですねぇ・・・これでも私はあなたのことを、我が子のよう に大切に思っているんですよ?」 そのセリフに彼は心の中で舌打ちした。煩わしい以外の何者でもない。親戚であるのも厄介なのに親子のようになど・・・・真っ平ごめんだと。 「そろそろ身を固めてはどうです?あなたは私の大切な跡取りなんですよ?」 ぴたり、フォークが止まる。深い溜息が漏れる。 「何度も言うがあんたの研究所を継ぐ気はない!」 強い口調で言ったつもりだった。が、返ってきたのは満面の笑み。 「一人、あなたに相応しいお嬢さんを見つけてきてあげましたよ」 と、見合い写真をテーブルの料理と並べる。 「家柄も申し分ないんですよ」 「持って帰ってくれ」 俺はあんたの道具でも、オモチャでもないんだ!! 胸いっぱいに広がる嫌悪感。何をどう逆らおうといつも自分はこの叔父の言いなりだ。結婚する相手まで決められて堪るものかと、ゼルガディスは睨み上げる。 「研究には資本が必要なんですよ?」 「帰れ」 「人の心は変わるものですよ。ゼルガディス・・・・」 その一言を残して用件だけ告げ部屋から出て行く。 バンッ テーブルが大きく揺れ、零れたスープが見合い写真の上に広がる。 「いい加減にしてくれ」 拳を強く握り締め震わす。 ―――冗談じゃない!俺はあいつ以外の女に、興味はない!!――― 不意に蘇った相棒の声に思い出したのは――いつか公園の前でたった一瞬、見かけた黒髪の少女の横顔だった。一瞬、それも数秒の一方的な出会い。何故かガウリイのあの言葉を思い出すたび鮮やかに蘇り、声を掛けなかったことを心の中で悔いるのだ。仕事を別にしても声だけは掛けるべきだったと―――― もう・・・会うことはないだろうな・・・ あれから何度、公園に足を向けただろう。二度と彼女に会うことはないと思いつつも―――・・・ ふぅ------っ ミリーナの溜息にリナが振り返る。 「どうしたの?」 「なんでもないんですけど・・・」 ミリーナは諦めたように顔を上げる。 頬杖ついて、また溜息を漏らす。リナは「なんでもない訳ないでしょ」と言う言葉を飲み込んだ。こんな時の彼女に何を聞いても無駄だということをリナは熟知している。だが、それは今回に限っては当てはまらなかった。間をおかず独り言のように呟かれた言葉にリナは目を丸くした。 「運命ってあるのかしら?」 「は?」 ここにアメリアとマルチナが居たらいい雑談の餌になったに違いない。その彼女らしからぬ呟きに、 「ミリーナ?」 再度顔を覗くしか出来ない。 「傍にいるとね・・・・鬱陶しいの」 「あっ、ごめん」 リナは顔を赤くして立ち上がる。 「違う。リナさんじゃない」 「あ・・・そう?」 ほっとして再び座りなおして、 「で。誰が?」 聞いてみる。こんなミリーナは初めてだと思いながら・・・・ 「分らないの」 さらり返されたそれがさり気なくて・・・ 「うんうん・・・・・・え?分らない?」 うっていた相槌を止めて、聞き返す。「本当に分らないのよ」と言いたげな瞳を覗く。 「意味・・・分んない。悪いけど・・・・」 そのリナの声にミリーナは一瞬呆けたような顔を見せ――苦笑した。 「そりゃそうでしょうね」 会話はそれきり続かなかった。が、いつまでもリナの心に残った。何故か懐かしいと思うのは何故なのだろう?まるで聞きなれた言葉のように―――― 買ってきた簡単な惣菜を流し台の上に置き、手馴れた仕草で皿に盛り付けている最中に気配を感じ振り返った。 「あっ、お前か」 部屋の入り口で自分を眺めるその人をちらり、見て再び作業に戻る。 「直ぐ、食べるんだからそのままでもいいだろーに・・・妙なとこ、女みたいだな」 ゼルガディスはガウリイに歩み寄りながら、持ってきた紙袋を差し出す。 「なんだ、それ?」 「食いもんだ」 紙袋の中身を覗きながら目を丸くする。中には手の凝った料理を詰めたタッパが入っていた。 「一人じゃ食いきれんから持ってきた」 「おっ・・おお・・その辺、座ってろよゼル」 ガウリイはタッパの中身を盛りかえようと、棚から皿を取りながら言う。 「相変わらず、殺風景な部屋だな。イスくらい買えよ」 と、ベットに腰を降ろす。 「テーブルなら、其処にあるだろ?」 呑気な声が返ってくる。 ゼルガディスはベットの脇に有る、サイドテーブルを見て苦笑する。床張りで何もない、其処を見た。淡い緋色のカーテン、無動作に置かれた観葉植物、大型のテレピの上にはオーディオ。そして、中央には少し大きめのベットにサイドテーブル。他には何もない。続きのキッチンに小さな食器棚と冷蔵庫があるだけだ。飾り気もなく殺風景なのに何故だか妙に落ち着く空間だった。彼は頬を緩ませた。 「で、今回は何のようだったんだ?」 「え?」 「来たんだろ。例の・・・」 キッチンからの声に溜息を落とし、 「見合いしろだと」 ベットの上のリモコンでテレビをつける。無動作にチャンネルをかえ始める。 「で、するのか?」 「いや」 と、プッツとテレビを切る。 「だろーな」 「するわけないだろう。振り回されるのは御免だ」 ガウリイに渡された皿を受け取りながら言い切る。 「ここ来るか?」 不意をついて出た言葉にガウリイは意外なことを言ったと思ったが、そのまま続けた。 「一人より二人だとやりやすいこともあるだろう」 何故だろう?こいつとなら、同じ空間を共有してもいいと思う。 「そうだな。越してこようかな」 「おう。そーしろそーしろ」 ゼルガディスのその返事が妙に嬉しかったりする。 「その方が・・・・・」 ニヤニヤとガウリイを覗いて、 「監視しやすいからな」と。 ピタリ、フォークを止めてむすっと顔を上げるのを見て、 「本気にするな。冗談だ」 笑いが零れる。何故だか理由は分からないが、ガウリイのあの言葉を聞いて以来それまでの噂話を信じてきた自分がバカバカしくさえ思う。友人の女性関係に何故、ああも苛ついたのかとも―――― 「でも」 ほぼ同時に二つの声が重なった。 「ランツ!」 ガウリイがここを借りる時、しきりに「一緒に住みたい」を連発したランツを思い 出す。 「・・・・」 「黙ってないだろうな」 「あぁ」 「あれも一緒か?」 ゼルガディスの一言にガウリイはしばし沈黙し。 「それは・・・・絶対に、やだ!」 そりゃー、あいつが一緒だと便利かもしれないが・・・落ち着かない。 そこそこ料理ができることも几帳面なことも知っていた。多分、一緒に住むことになれば家事をする手間はなくなるだろう。が、それと同時に自由もなくなることは目に見えていた。下手をすればトイレにまで着いて来るかもしれない。それを思いガウリイはぞっとした。 ―――ねぇ、ガウリイ。何処行くの?俺も一緒、行くぅーっ――― 何処へ行くのにも纏わりついてきたランツ。 ―――なぁ?ガウリイ。お前ならこれどっち、選ぶ?――― 何を買うにもガウリイの真似をしいつも、お揃いになる持物や服。 ―――えっ?家を出て行くのか?――― 上京を決めたあの時も・・・・ 『おわっ!なんで其処に居るんだ!!』 やっと自由を手に入れたと乗り込んだ其処に、当たり前のように座っていた。 『ガウリイ、心配だから着いて行くことにした。お弁当食べる?五つ買ったんだ』 目眩を覚えたことは多分、一生忘れない。 ―――うわぁー・・・ここ独りで住むのに広すぎない?一緒に住んであげようか? ――― ここに住むと決めた時もあいつは――当たり前のようにそれを言った。流石にその時は即答で・・・・「要らん」と拒絶したことはガウリイの記憶に新しいことだ。 ガウリイは幼馴染みの金魚の糞。ランツとの記憶・・・頭振る。 「やっと、あれから解放されたんだぞ?」 と、真顔で返してゼルガディスに噴出された。 くしゃん 「あら、風邪?大丈夫?」 マルチナがランツを振り返る。 「えっ?違うと思うんだけど」 ランツが首を傾げる。 「そ」 短くそう言ってランチメニューの下ごしらえに戻る。 しっかりして頂戴よ。風邪なんかで休まないでよ。 くしゃん、くしゃん、くしゃん 今度は三回続けて出た。ランツは照れた顔で頭を掻いた。 「あはっ、誰だろうな・・・誰かが俺を噂してるのかなー」 あの子だったらいいなー・・・ 彼の脳裏に蘇ったのは栗色の髪の少女。時とともにに鮮やかに蘇る繊細な少女の横顔。恥じらいで頬を赤く染めて俯き自分を縋るような目で見詰めた(ように見えた)視線。 はぁ----っ ランツの大袈裟な溜息にマルチナはげんなりと肩を落とした。その時、まだ準備中の店のドアが開いてマルチナは其方に顔を上げた。ちょうど逆光になって眩しく、目を細める。店内に入ってくるその人のシルエットをぼんやりと見詰めた。 「準備できたか?」 買って来たものをカウンターに置くころには、それが誰なのかも確認できるようになる。 「・・・・」 「どうした?」 と、その人に顔を覗き込まれるまで彼女は自分がザングルスを見ていたことに気がつかなかった。 「一瞬、誰が入ってきたか・・・・分らなかっただけ」 マルチナは呆けたように呟いた。 |