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― 遥かときを超えて ―
2


作:萌黄さん


 誰かの執拗な視線を感じてリナは振り返った。

 誰――――?

 気配は確かに其処にあるのに目の前にあるのは・・・・雑踏。人、人、人の人ごみ。誰の視線かは分らずに――――・・・
「リナ?どうしたの・・・行くわよ」
 立ち止まったリナを振り返る。
「あ、うっ・・うん」
 後ろ髪を引かれるように後ろを気にしつつリナは歩き出す。







 くすくすくす

「相変わらず勘の働く方だ」
 ゼロスは上空からリナの姿を見下ろす。その姿は誰の目にも触れることはない。リナが気配を感じつつもそれを確認できなかったは―――その者が魔力によって自分にシールドをかけていたから・・・もし、確認できるとすればそれなりの能力つまり、魔力を必要とするだろう。ここ数百年もの間に人間の中にあった魔力は低下し、今や微かに予感がすると感じる。その程度で・・・ほとんどの意識の中に能力を眠らせていた。それゆえに魔も神も想像上の架空的存在になっている。が、しかし、魔は存在しまた、神も昔と変わらず存在した。こうやって、時々人を観察しながら――――
時には心を操って・・・・

 ゼロスは長くリナの転生を待っていた。理由は・・・・・・・おもしろいから。おまけに今世では、多くの見知った顔ぶれが生まれてきている。魔族である彼が興味を持たないはずはない。
「それにしても・・・・こんなに近くに存在するのに・・・・命短い人間は何故、余分な時を過ごすんでしょうねぇ・・・さっさと出会えばいいんですよ。その方が楽しめますからね。こちらも」

 ここは少し・・・僕が意識を操作してあげましょう。有名になっちゃえばいいんです。簡単なことじゃないですか。



 くすくすくす

「おい。余計なことはするなと言っただろう!」
 不機嫌な声に振り返り、
「おや?いらっしゃったんですか?もと、ルビー・アイ様?」
 ゼロスはそう含み笑いを浮かべる。
「あいつらには手を出すな」
「それはご命令ですか?それならば、聞けませんねぇ・・・もはやあなたは魔王でも、人間でもない。ただの浮遊物体なのですからね」
「魔族などに命令などするか!胸糞悪い!忠告だ。あの二人には手を出すな!」
 そう詰め寄る。ゼロスは紫の瞳を薄く開眼させて告げる。

「あの二人には、手は出しませんよ。ただ――――・・・ちょっとだけ、周りの駒に動いて頂くだけですよ」 



 ―――今回、僕の邪魔をすればあなたは二度と転生できなくなりますよ。ルークさん。これはあなたの為でもあるんですから―――

 と、意味ありげに笑みを浮かべる。





***







 俺の背には大切な何かがあった。大切に大切にそれを背負って旅をしていたのに・・・・何かがそれを奪った。



 ―――触るなぁ---っ!!―――



 必死で抵抗した。もがいて叫んで―――けれど、どうすることも出来ずに大切な何かは消えた。本当は分っていた。誰も――そう、誰も悪い奴なんか居ないって・・・
 だけど、俺は約束したんだ。ずっと、ずっ――とおぶっててやるって約束したんだ。
 失った哀しみが消え、それから・・・俺は空っぽになった。空っぽを埋めるため今、俺は――――・・・今度こそ――――




 PIPIPIPIPI・・・

 日差しが、何も無い空間の床を眩しく輝かせていた。ガウリイは前髪を掻き揚げなら
「―――・・・」
 ぼんやりと開ける視界に無機質な空間の天井が浮かびあがる。むくりと起き上がり、寝起きだというのに酷く疲れたように深い溜息をつく。半開きのカーテンの隙かがらそれを開けた。眩しさに一瞬、視界がゼロになる。その後ろで、けたたましく携帯が鳴った。ベット脇のサイドテーブルのそれを手にとる。受信の相手を見て、
「おはよ。やけに早いじゃないかゼル」
 携帯の向こう側で珍しく焦った声がした。直ぐ出てこいと言う言葉に俺は素直に従った。

 いったい、何があったんだ?やけに慌てていたが・・・・・

 ガウリイはバイクを走らせながら珍しく電話の声が慌てていたことを思い出す。気になってスピードを上げる。待ち合わせはいつものあの店だ。二人の共通の友人の働くカフェ。其処には既にゼルガディスの不機嫌な顔があった。店に入るとカウンターでカップを拭きながらザングルスがちらり、ガウリイを確認して機嫌が悪いぞと首を振って合図した。ガウリイは苦笑し奥の席に目を移すと、奴の近くでおろおろしているランツの姿。これはもうかなり機嫌が悪そうだ。軽く溜息が漏れた。普段、滅多なことで感情を表に出さないゼルガディスだからこそ、こんな時は厄介なのだ。日頃の鬱積も重なりなかなか収まりがつかない。ガウリイは不機嫌だろうなと予感はあったものの憂鬱になる。ランツに珈琲のオーダーを告げるとほっとしたように、奴はそそくさとカウンターに戻っていった。その間もゼルガディスは不機嫌な視線で黙したまま、ガウリイを睨み見ていた。どうやら、怒りの原因は自分にあるらしい。ガウリイはどぉーんっと気持ちを沈めて、長いすに腰を降ろした。
「用ってなんだよ」



 パサリ



 目の前に一冊の女性誌が投げ出された。ゆっくりとそれに視線を降ろし、
「これ、なんだよ?」
 ガウリイは訳も分らず顔を上げる。無言のまま見ろと促されて仕方なくページを捲り始める。僅か数ページ捲ったところで手が止まった。
「なんだよ・・・これ」
「こっちが聞きたい」

 それはスクープ記事。先日仕事を断ったシルフィールと、楽しげに歩く金髪の男の後姿が写る写真が大きく掲載され、見出しの文字には――――『ファッション誌の花。シルフィールの交際相手は人気上昇中のAモデル』問題なのは、その写真の後姿が自分そっくりだと言うこと。何処をどう見たったガウリイなのだ。

「知らんぞ・・・」
 と、ふるふると顔を上げ首を振る。
「仕事は出来んのに個人的な付き合いはできるんだな」
 聞く耳持たないそんな感じで告げられる言葉。
「知らんと言ってるだろう!」
 親友に信じてもらえない苛立ちに声を荒げる。

 バンッ

 乱暴にたたかれるテーブル。
「お前が知らないはずないだろう!いい加減にしろ!!うんざりだ!」
「これは俺じゃない!」
 本当に見に覚えも何もなかった。行ったこともない場所に親しい会話も交わした記憶もないシルフィール。信じてもらえない苛立ちとその程度だった信頼への虚しさが入り混じる。どう言えば伝わるのだろう?確かに写真を見るかぎり自分とあまりに似た容貌。それが後姿であっても自分すら、一瞬記憶を辿ってしまうほど――――


 しばし黙した後、吐息のような疲れた声が耳に届く。
「また、逃げるのか?俺はいつか、こんな風になると思ってたよ」
 調度、ランツが運んできた珈琲カップを取りながら・・・・
「何が言いたいんだ」
 ガウリイは睨むようにゼルガディスを直視する。
「言葉のままだ」

 それじゃあ、俺がいつも女遊びに明け暮れているようじゃないか!

 頭痛がするほど、目眩を覚えるほどの不快感が胸に広がる。
「あのさ・・・余計なことかもしれないけど・・・仲良くな」
 ランツがおどおどと呟く。

 こいつは、今まで俺をそんな風に見ていたのか・・・・・?

 もはや、弁解する気も起こらない。信頼という厚い絆に罅が入った気がした。気が遠くなる。段々と抗議の声が遠くなる。

 やっぱり、俺にはあいつでなければいけない。あいつならこんな誤解はなかった。
そうあいつなら―――



『ガウリイ。聞いてた?』
『へ?』
『へじゃないっっっ!このくらげぇぇぇ!!』
 言いたい放題だったけど、絶対的な信頼関係が其処にはあった。
『もう。もう一度言うから聞いてるのよ?』
『はいはい』
『何よ!そのバカにした返事はぁぁぁ』

 すぱこぉぉぉ------んっっっ

『なんで殴るんだよぉぉぉ!!そんなもんでなぐるなよなーっっ!それ、どっから出してくんだよぉぉぉ!!』
『ド喧しい!乙女の必須アイテムよ』
『誰が乙女だ。誰が!!』

 ずっと傍に居たかった。
 ずっと――――お前さんさえ、居てくれたら他に何も要らなかった――――



「おい!聞いているのか?ガウリイ!!」
 腹立たしげな声が耳に軽い振動を起こす。

「・・・・・」
 目の前の不機嫌なゼルガディスを見ても一瞬、現実が掴めなかった。
「いつも俺がこうなる前にもみ消してきたんだ。男だから多少はいいだろうと最初は思ってきた。が、度が過ぎやしないか」
「もみ消す?」
「ああ、この前は女優だったよな」
 呆れ顔のゼルガディス。


 なんの話だ?俺は女には興味がないぞ?
 眉を顰める。
「真面目な付き合いなら、俺も何も言わんが、お前の場合違うだろう?」
 奴の口から深い溜息が落ちる。
「真面目な付き合いも何も、お前だって知ってるだろ?俺は女とはつるまないんだ」
「それは仕事上のことだろう?」
 ゼルガディスが呆れたように呟く。



 その言葉にカッとなった。
「冗談じゃない!俺はあいつ以外の女に、興味はない!!」

 ガチャン

 立ち上がった勢いでカップが倒れる。
「あいつ?あいつって・・・誰だよ?」
 俺の言葉に驚いたゼルガディスが俺を見上げる。
「お前に特定の奴が居たのか?」
 それを訊ねられても俺には何も応えられなかった。存在さえない恋人。好意の対象となる相手さえ居ないのに・・・・応えようがない。俺自身、自分の口から漏れたセリフに困惑した。



 けれど、確かに自分の中にはある一つのイメージが存在すると、その時はじめて自覚した――――






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