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Beautiful Life ― 4 ― 作:ユキさん |
――リナは、手術を受けることにしたらしい。 らしい、というのは、ルナ義姉さんから聞いたから。 「やたらすっきりした顔で言ってたわ。 『あいつ見てたら、なんだかいろいろ悩んでるのがバカらしくなっちゃって』って」 その言葉が、妙に頭を離れなかった。 もし『あいつ』と言うのが、俺のことだとしたら―― リナは、俺のために手術を受けてくれるのか? ……そんなわけないか。 だけど…… 俺がリナの手術を受けるきっかけになったのだとしたら、こんなに嬉しいことはない。 死ぬかもしれないけど――その時は、俺もついていくから。 だから、安心しろ。リナ…… リナとルナ義姉さんには、両親がいないようだ。 リナの手術の日――今日も、家族らしき人は現れなかった。 「……じゃあ、行ってくるね」 そして、手術室に入る時が来た。 ベッドに横たわったリナが、俺達を見上げていた。 「姉ちゃん、あのね――」 「言わないで」 何か言おうとしたリナの声を、強い声が遮る。 「ガウリイさんはどう思ってるか知らないけど―― 私は、あなたに生きてて欲しいと思ってるの。 だから、何も言わずに、とっとと良くなりに行ってらっしゃい」 「……うん」 ルナ義姉さんの言葉に、リナは微笑んで返事をした。 「リナ」 「……ガウリイ」 「………愛してる、からな」 柔らかい笑みが、リナの顔に浮かんだ。 「あたしも……愛してるよ。ガウリイ」 ―――そして、手術中のランプが灯った。 ………リナはベッドの上で、静かに眠っていた。 「お疲れ様、リナ…… ……もう全部、終わったから……ゆっくり、眠れ……」 諭すように言いながら、俺はリナの髪をゆっくりと梳く。 ――この部屋には、俺とリナの2人だけだ。 ルナ義姉さんや看護婦さん、リナの主治医の先生に頼み込んで、こうしてもらった。 ――俺は、ルナ義姉さんからもらった、2つの封筒を手にした。 ルナ義姉さんの言葉によると、1つは悪性だと発覚した日にリナから預かったもの。もう1つは、つい昨日に預かったものらしい。 『……リナが、『自分が死んだら、ガウリイに渡して』と言っていたわ』 ルナ義姉さんが、俺にこの封筒を渡すときに言っていた言葉……。 ……俺は、悪性だとわかった日に預かったと言う封筒の方から開けた。
あんたがこれを見てるってことは、あたし、やっぱり死んじゃったんだね。 あのね、実は1つ、言いたいことがあるの。 あたしは、生命保険に入ってる。 あたしが死んだら、多額の保険金があんたのものになるようにしたわ。 だから……ほんの、少しでいいの。 あたしの保険金の中から、ほんの少しだけ……盲学校や、そういう障害を持ってる人のいる施設に、少しだけお金を寄付してあげてほしいんだ。 あ、イヤならもちろん良いんだよ? この保険金は、実質あんたのものだわ。だから、あんたの好きなように使ってくれて良いから。 あと……あと、ね。 ……こんなこと、言うのはもちろん書くのも恥ずかしいんだけど…… ………愛してくれて、ありがとね。 あたし、こんなだから、きっと彼氏も出来ずに寂しく死んでいくんだろうなぁ って思ってたの。 だけど、あんたがいた。 あんたが、あたしを愛してくれたこと……すごく嬉しい。感謝してるの。 でも……あたしはもう死んじゃったんだから、あたしに捕われずに生きてくのよ! 新しい女の人でも見つけて、さっさと落ち着くこと! あんたってば、なんか女性関係ルーズっぽいもんね〜。 あたしの友達にシルフィールって子がいるんだけど、その子なんか超オススメよ!ルナ姉ちゃんに聞けばわかるから、会ってみてあげてね! ……さぁて、と……あんまり長いとあんた飽きちゃうだろうから、そろそろ終わりにするわね。 ……バイバイ、ガウリイ。ありがとう。――― 「シルフィール、か…」 生憎俺は、リナ以外の女とつきあう気などさらさらない。 俺は2つめの封筒を開けた。
まぁ、言ってみれば追伸みたいなもんかしら? あんたがあんまりバカなこと言ってたから、忠告しといてあげるわ! 『あたしが死んだらあんたも死ぬ』なんて、絶対に嫌だからね!! ……ねぇガウリイ、輪廻転生って知ってる? 人間は死んでも、再び生まれ変われるのよ。 でね、それって死ぬのが早いほど生まれ変わるのも早いんだって。 だからたぶん、あたしもきっと生まれ変わるのはやいのよ! ……だから。 あんたは、あたしが死んだら、別の人……前のに書いたシルフィールとつきあったりして、結婚して、子供でも作っちゃいなさいよ! そしたら……あたしは、その子供に生まれ変わるから。 人間ってね、生まれるとき、前世で縁深かった人のそばに生まれるって言うし ……あ、でもそしたら、あたしはルナ姉ちゃんのそばにも生まれなきゃなんないんだよねぇ……。 そーだガウリイ!うちの姉ちゃんと結婚したら? なーんてね。 ……シルフィールじゃなくても良い。あんたさえ気に入れば、誰でも良いの。 あたし、来世はあんたの子供として生まれたい。 それで、今度こそ、あんたのそばで生きたい…… なーんて、ちょっとガラじゃなかったかな。 …それじゃあ、今度こそ終わりにするわね。 ありがと、ガウリイ……大好きだよ……――― 俺は、リナの方を見た。 静かに、安らかに眠っているリナ……。 ……俺は、ゆっくりと微笑んだ。 そして―――――約10年もの月日が流れる。 「あ〜〜〜〜もうっ!!全然上手くカット出来ね〜〜〜〜〜〜!!!」 ……こんな言葉遣いだが、これでも立派な俺の『娘』だぞ。 「こら、ルーナ。持ち方直せって言っただろ?ほら、こう」 「持ち方1つで、変わるのか?」 「変わるさ。人生だって、ちょっとしたことで変わるんだからな」 よくわかっていないのだろう、頭にクエスチョンマークを飛ばすルーナ。 まぁいいか、と再びカット用マネキンに向かい合うルーナの瞳は、俺と同じ青。 髪の色は………リナと同じ、栗色だった。 「はぁ、それにしても腹へったぁ……。 母さん、まだ昼ご飯できねーのかな?」 「あぁ、あいつにしては遅いな」 いつもなら、ちゃっちゃと作っちまうはずなのに…… 「お待たせ〜〜〜!ごめん、ちょっと凝っちゃって!」 すると、両手いっぱいに料理を抱えた俺の妻が、ばたばたと走ってくる。――おいおい! 俺は彼女から料理をひったくると、 「走るな!転んだらどうするんだ!?」 「あ………ごめん、ね」 「まったく……」 「母さん1人の体じゃないから、父さん心配でたまんねーんだよなぁ」 からかうように言うルーナ。 そう……彼女の体には、新たな命が宿っている。 「あまり心配させるなよ。 ……ったく、どうしてお前さんは昔っからそう心配ばっかりかけるんだ?――リナ」 「……ごめぇん」 言ってリナは、ぺろりと舌を出した。 「昔って、何かあったのか?」 興味津々、といった表情で問うてくるルーナに、リナは、 「………母さんね、小さい頃、事故で足が動かなくなったの。 でも20の頃、ガウリイに会って……それで、もともとあった病気が悪性だってわかったときに、母さんひどいこといっぱい言っちゃったの。 だけどガウリイは、ずっと『大丈夫だ』って言ってくれて…… 手術したの。成功確率がほとんど皆無の。 でも、成功して―― そして足も、その1ヶ月後ぐらいに『何とかなるかもしれない』って言われて…… それで今、こうしてあるいたり走ったりできるのよ」 「……いや……あたしが聞きたいのは、父さん母さんのノロけ話じゃないんだが…… でも父さん、やるじゃん」 「はは、まぁな」 ――俺の自室には、今でもルナ義姉さんが『無駄にするのもアレだから』と言って渡してくれた、リナからの手紙2通がしまわれている。 いつかルーナに聞かせてやりたいが……あとちょっと、大人になってからだな。 そうだな―― ルーナが、リナが俺と出会ったときと同じ年齢――20歳になったら、聞かせてやるとするか―― もちろん、お腹の子供にも、いつか―― ――俺達の人生を、語ってやりたい。
Fin. |