Beautiful Life
― 3 ―


作:ユキさん




そして―――――リナの、検査の日。



検査の結果は、その日のうちに出るとのことだった。
検査を終えて、結果を待つだけとなったリナの顔は、少し青い。
「リナ…きっと大丈夫だから」
店長の――ルナ義姉さんの言葉にも、リナは反応しない。
「……リナ」
俺も声をかける。すると。
「………ガウリイ。
 ……姉ちゃんと……2人に、してくれる……?」
「………わかった」
本当は今のリナから目を離したくなかったが、リナが言うなら仕方ない。それに、ルナ義姉さんがいるんだし、大丈夫だろう。
俺はそっと、その場を離れた。



「……結果、聞いてきた」
しばらくして。
適当にうろうろとしていた俺を、ルナ義姉さんが呼びにきてくれた。
『リナが、検査結果を聞きに診察室へ入った』……と。
そして、リナが診察室から出てきて―――


「………悪性、だって」


――そう言うリナの顔には、自嘲ともとれる笑みが浮かんでいた――



「――手術するかどうか、聞かれたの。
 ひょっとしたら助かるかもしれないし……その場で死ぬかもしれない。
 前のあたしだったら、その場で『する』って即決してたわね」
病院の庭。
リナの要望で、今度は俺とリナが2人っきりで話していた。
「……どうするんだ?手術」
「………迷ってる」
――微かに、リナの声が震えている。
肩も震えていた。
……俺は何か着せようと、着ていた上着を脱いで、リナに羽織らせ――


―――ぱしんっ!


「………こんなときにっ……優しくしないでよぉ……っ!!」
振り払われた手。
痛みは感じなかった。
それよりも、リナの悲痛な表情の方が、もっとずっと痛そうで――
「なんでっ……なんで、こんな……っ……
 あ………あん、たの……せいよぉっ……!!」
涙声。
リナは顔を伏せながら、俺の胸板をどんどんと叩いてくる。
俺は――避けなかった。
避ければリナがバランスを崩して車椅子から落ちてしまうかもしれないし、なにより――これを避けることは、リナを否定することになるような気がしたから。
「……っ……あんたがっ……あんたが、あのときっ……!
 うちの図書館に、本借りになんて来なければ!
 あんな所にバイク停めてなかったら!
 ……あんたが、あたしと出会ってさえいなければ……!
 あたしは……あたしは、死ぬことなんて怖くなかったのにぃっ……!!」
「――っ…!!」
……俺は耐えきれず、リナを抱き締めた。
腰をかがめ、上から覆い被さるように抱き締める。
「……っだからぁ……っ……
 こんなときにっ……優しく…しな……ぃで……っ」
少しずつ弱くなる、リナの声。
――こんなリナを、放ってなんておけるか!
「大丈夫だから……大丈夫だから。
 平気だ。平気だよ……俺がいるから……」
優しく、諭すように俺は言った。
「……………『お前は絶対に死なない』とか、言わないんだね……」
少し落ちついた、リナの声。それでもまだ、少し沈んだ調子だ。
「……ああ。
 人間、いつか死んじまうから……『絶対に死なない』なんてこと、有り得ないって俺は思ってるんだ。
 でも……俺は、一生お前の側で生きたいって思ってるから。
 だから……お前は、大丈夫だ。俺がずっと、側にいるから」
俺はそっと、体を離した。
リナの顔には――微笑み。
「………ありがと、ガウリイ。
 ……………でも、嫌だよ……」
―――儚い―――今にでも消えてしまいそうな、儚い微笑みだった。
「あたし、手術する勇気ないし……ただ黙って、死が訪れるのを待つだけ。
 その間、ガウリイを縛り付けるなんて……嫌だよ……」
「縛り付けじゃない。
 俺が勝手に、リナの側にいたいだけだ!」
「でもそれは、あたしにとっては縛り付けてるのとおんなじだよ!
 なんで!?なんであたしの側にいるの!?
 同情のつもり!?そんなの、惨めなだけだよ!
 お願いだから……あたしの目の前から消えて!!
 あたしの側から離れて、自由に生きてよ…!!」
「――自由に生きてやるよ。
 リナの側で、一生、リナの隣で自由に生きてやる!
 だから、離れるとか言うな!お前と離れるなんて……無理に決まってるだろう!?」
「なっ……!
 じ、じゃあ、あたしが死んだ後はどうする気よ!?」
「俺も死ぬ」
俺はきっぱりと言い切った。
「……ど、どうしてそーゆーことになるわけ!?
 同情は惨めだからやめてってば!」
「同情じゃない!
 俺は本気だ」
「く…口でならなんとでも言えるわよね!
 どうせ死んじゃうんだから、って!
 バカにしないでよ、そんなことも見抜けないような人間じゃないんだから!!」
「信じろよ!
 俺はリナが好きだ、愛してる……お前さんがいない所にいたって、仕方ないだろう!?」
「まだ会って1ヶ月も経ってないのに、『お前が死んだら俺も死ぬ』なんて…信じられるわけないでしょ!?
 ……そもそも、1週間前の告白だって怪しいわ!」
「なっ……」
「あんな、ほとんど出会ったばかりの時に告白なんて……
 どうせ、他の女(ひと)にも同じことしてるんじゃないの!?」
「リナ、俺は」
「それとも、ボランティアか何か?
 あたしの病気のこと、ホントは知ってて、それで惨めに思って『好きだ』とか言ったんだ!!」
「リナ、聞いてくれ」
「そんな自分の優越感に浸るための同情なんていらない!
 知ってるだろうけど、あたしはあんたに抱かれることすらままならない女よ……
 こんな利用価値のない奴、とっとと捨てちゃえば良………んっ………」
俺はリナの唇を、自分のそれで塞いだ。
聞きたくなかった……リナの、悲痛な叫びを……
「………んうっ………っは……」
口を放してやると、酸素を求めるリナの口。
「………っこ……これも、ボランティアの一環なわけ……?」
「違う。
 リナを愛してるからしたんだ。ボランティアでも、同情でもない。愛情だ」
「……っ……」
「……なぁ、リナ。
 確かに、俺の告白はめちゃくちゃ早かったと思う。自分でも、あの時あんなことするなんて今でも驚いてる…
 だけど、俺は本当にリナが好きで、愛してるんだ。
 リナが死んだら俺も死ぬってのも、ウソじゃない……本心だ。
 リナが死んだ後の俺は、きっと生きてても何も楽しく感じられないだろうし、美容師としてやっていく自信もなくなる。
 だから……もしお前さんが死んだら……
 俺にお前さんを、追いかけさせてもらえないか?」
「……!」
リナの目が、驚愕に見開かれた。
俺は自然に、穏やかな笑みを浮かべている。
――リナの瞳が、再び涙で潤んだ。
「………なさ…ぃ………
 …………ごめ……さっ…………ごめんなさいぃっ……」
涙を流して謝ってくるリナ。
なんで謝る?
お前は、心の中の不安を俺にさらけ出してくれただけなのに。
「………リナ………」
俺はそっと、リナの涙を拭い、そして……再び、抱き締めた。


―――おおぉぉぉー! ぱちぱちぱちぱち…


周囲のギャラリーも、俺達を祝福してくれている。
ありがとう。ありがとう……
……………って、ぎゃらりー?
気付いたとき。
病院の庭には、俺達を囲むようにして黒山の人だかりが出来ていた。
「なっ……ななな、なんでこんなっ……」
リナも気付いたらしい、俺の腕の中で動揺している。
「――病院の庭であんな盛大に痴話喧嘩すれば、ギャラリーが集まるのは当然でしょう」
そこに、凛とした声が響いた。
「姉ちゃん!」
リナは叫ぶと共に、俺を思いっきり突き飛ばした。
……いくら恥ずかしいからって、突き飛ばすなよ……
「その様子だと、痴話喧嘩は丸く収まったみたいね。
 まったく、病院であんな大声出して……注目されても、文句は言えないわね」
「ちゅ……ちゅーもくって、どこらへんから……?」
恐る恐る聞くリナ。.
ルナ義姉さんは、にっこりと微笑むと、
「最初から最後まで、全部。
 熱烈キスvも見せてもらったわよ♪」
ぼしゅっ!!
……リナの顔が、音を立てて噴火した。
そして。
「……がぁぁ〜〜〜うぅぅ〜〜〜りぃぃ〜〜〜」
「なんでそこで俺に怒りの矛先をっ!?」
「とーぜんでしょーがっ!あんたからしてきたんだからねっ!!
 ……もしあたしが、魔法使えたら……ガウリイ、空に吹っ飛ばしてるんだからっ!!」
………魔法が使えるリナ、って……最強じゃないか……?
……科学の時代で良かった……
「あ!今、あたしが魔法使えなくて良かった、とか思ったでしょっ!!」
「えっ!?いやそんなことは……あるかもしれん」
「正直に言うなぁぁぁぁぁぁっ!!」
どわはははっ!
俺達の漫才のような会話に、ウケまくる周囲のギャラリー。
なんか向こうの方で、看護婦さんが怖い顔をしているが……ま、まぁ気にしないことにしよう。
とにかく。
リナはこの騒動で、俺に満面の笑顔を見せてくれたのだった。






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