Beautiful Life
― 2 ―


作:ユキさん



「ガウリイ!」
1週間後。
なぜか店長の言いつけで、俺はリナと遊園地に来ることになってしまった。
………まぁ、こんなのもいーかもしれんが……店ほっぽっていーのだろうか……?
店長、売り上げのこととかあまり考えてない人だしな……
「♪」
リナはなんだか楽しそうだ。やっぱり女ってのは、こーゆー所で遊ぶのが好きなのか…?
「が〜うりっ!早く行こ?」
リナに呼ばれ、俺は我に返った。
「あ、あぁ。行くか」
「うん♪」
「どれに乗る?」
結構大きい遊園地だから、乗り物はたくさんある。
1日じゃ回りきれない、って噂もあるぐらいだし…
「うーんとね。観覧車」
「……観覧車?」
ふつーそれって、ラストに乗るもんじゃねーのか?
「うん。
 ジェットコースターとか、乗れないでしょ?あたし」
…………あ……!
「……すまん」
「謝んないでよ。そーゆーの、苦手なの。
 それにあたし、もともと絶叫系嫌いだし……
 それよりとっとと、観覧車行きましょ!あそこ、長蛇の列でも有名なんだから!!」
「な、何っ!?」
この真夏日に並ぶなんて、冗談じゃない!!
「よっしゃリナ!押すぞ!!」
「おっけぇ!!」



――車椅子使用者用のゴンドラが別にあったため、走ろうと走るまいと全然並ぶ心配はなかった。



「………頼むから、事前に確認しておいてくれよ……」
「あは…ごめぇん」
息を切らしながら言う俺に、リナはぺろりと舌を出した。
…ったく、怒るに怒れねーじゃねぇか……
こーゆー仕草を見せられると、なんだか怒る気が失せてしまうのだ。
……なんだろーな、これ?
「ま、まぁとにかく、景色見よ?きれーだよっ」
「……まぁ、確かに……」
どっかの誰かの言葉じゃないが、まさに『絶景かな』と言うべき景色だった。
太陽の光が湖に反射して、それがさらに町並に反射して……
いつも夜に乗っていたから、夜景しか見たことがなかった。
……リナに感謝、かな?
「ありがとな」
「…へ?何が??」
「いや、別にぃ」
「……なんかすっごい気になるんだけど」
「気にするなって」
「なにー!?そーいわれるとよけー気になるっ!!」
スネたような表情。さっきは困ったり喜んだりしてたのに。
ころころと変わる表情――目が、離せない。
「……ガウリイ?」
訝しげなリナの声。
―――俺達の乗っているゴンドラが、頂点に達して―――



ふ、と。


リナの瞳が、間近で見開かれた。






――そしてそのまま、俺は平手打ちをくらったのだった…(涙)






「最っっっ低!!」
降りた直後のリナの第1声がそれだった。
まぁ、無理もないことなのだろうが……
「……すまん」
「だからそーゆーの苦手だって言ったでしょ!?
 なんでよ……なんであんなことしたのよ!!」
あんなこと、って……
「キスのことか?」
言うなり――
ぼしゅっ!!
「あああああんたっ!!そーゆーことを、天下の往来で言うんじゃないわよっ!!」
リナの顔が、音を立てて爆発した。
さっきまでも真っ赤だったが……さらに赤くなっている。
「……だっ、だから…な、なんで……その……き、キスしてきたのっ……!?」
『キス』のところだけ小声で言うリナ。
「なんで……って……
 ……………………………………………よくわからん」
「なんじゃそりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」
いや、突っ込まれてもなぁ……
わからんもんはわからんじゃないか。
「別に、『その場の勢い』とか『なんとなく』とかじゃなくって……よくわからんけど……
 ……したかったからした?かな」
「ボケくらげぇぇぇぇぇぇぇぇ!!『したかったからした』で済むかっっ!!!
 どうしてくれんのよ、あたしのっ……ふ、ファーストキスっ……!!」
……………………………はぃ?
「…ふぁーすときす……
 ファーストキスぅっ!?」
「だからそーゆーことを大声で言うんじゃないわよっ!!」
「だって、リナ20歳だろ!?
 それでファーストキスって……!?」
いくらなんでも、今時珍しいぞこんな温室育ちっ!
「……悪かった。そうとは知らなかったもんだから」
俺は再度謝った。
「だから、そーゆーの苦手って…言ってるでしょっ……
 …………したかったからした、って……そんな不純な動機で、初めてのキス奪われた方はたまったもんじゃないわよっ」
「……すまない。
 だけど、多分…それだけじゃないと…思う」
「は!?」
…………つまりその、なんてゆーか……
「つまり……『したい』ってのは、やっぱ好きな女に対して思うことだろ?」
「そりゃそうだけ………ど………」
どうやら意味を理解したらしい。リナの顔が、再び赤く染まってゆく。
俺は言葉を続けた。
「だからきっと、俺はリナが好きなんだと思う………いや。
 言う。俺は、リナが好きだ」
言うなり、再びリナの顔が爆発した。
「えっ……いやえとあのその…う〜〜〜…いや、あの……」
しどろもどろになりながら、わたわたとうろたえまくる。そして。
「どっ………どーしてそんないきなりンなことゆーのよっ!!」
照れ隠しなのか、なんなのか――リナはそんなことを言い出した。
「常識で言って、順序が滅茶苦茶じゃないのよ!!
 なに!?なんでいきなりキスしてきたとか思ったら言い訳してきて挙句の果てには告白なわけ!?」
さっき言った言葉も忘れ、大声で叫ぶ。
「いや、その……
急ぎすぎた、ってゆーか……すまん、自分1人で突っ走っちまったみたいだ」
「………だ、だからって……」
「リナ」
こんなことを言える立場では、ない。
でも――聞きたい。
「リナ、答えてくれないか?
 ―――リナは俺のこと…好きか……?」
リナは俯いた。
表情は読めないが、きっと悩んでいるのだろう。
当たり前だ。出会ってから、まだ2週間も経っていないのだから…。
誰だって、迷うに決まっている。
「――――ダメなの……」
長い沈黙の果てに、リナが呟いた。
――やっぱり、ダメか――そう思った。が、しかし。
「あたし、ガウリイのこと……好きだよ……
 ………でも、ダメなの………」
「……何が、ダメなんだ?」
俺の事を、『好き』だと。
彼女は確かに言ってくれた。
なら――何がダメなんだ…?
限りない優しさを含めて、俺はそう問いかけた。
「………………あたし、病気なの」
ぽそり、とリナが呟いた。
病気……?
そのまま、か細い声で言葉を紡ぐ。
「どれくらい重いのか、どんな症状なのか……まだよくわかってないけど……病気なの。
 ………今度の……来週の検査で『悪性』って出たら……あたしは、永くない」
「……本当なのか?」
こくり、とリナは頷いた。
「………そっか……
 それで?」
「………………へっ?」
俺の言葉に、なぜかリナは呆けた声を出した。
「そ、それでって……?」
「え?いや、だからお前さん、病気が重かったら永くないんだろ?それはよくわかった。
 だから、それで?どうしてダメなのか、ってゆー大事な部分がまだ説明されてないじゃないか」
俺は丁寧に説明した。
「だ。だって……あたし、病気持ちだし……それにあたし、車椅子なんだよ!?」
「だからそれも知ってる。それが?」
言うとなぜか、リナはきょとんとした顔をして――
「………ぷっ」
笑い出した。
車椅子の上で、お腹を抱えて笑うリナ。
「???なんだよ、なんで笑うんだ??」
「…………あははっ……やっぱり、あんたって珍しいっ……
 ……きゃっはっはっはっは……」
「?」
「………そっか。そうだよね……」
ようやく笑い終えると、どこかすっきりしたような表情でリナは言った。
「……病気でも車椅子でも、関係ないよね……うん」
リナは、まっすぐに俺を見つめると、
「あたしも……ガウリイ、好きだよ」
そう、言った―――



「ガウリイ」
――きた――
俺は覚悟を決めた。
「…はい」
「ちょっといらっしゃい」
営業中の店の中。
俺は客をカットしたばかりだと言うのに、呼び出しをくらった。
だが、これは断りきれない。なぜなら――
「お前が店長に呼び出されるなんて、珍しいな。ガウリイ」
言ってきたのは、ゼルだった。
「何かやったのか?」
「ああ、ちょっとな」
適当に言葉を濁し、店長の待ち構えるスタッフルームへと入る。
「――私が何を言いたいのかは、わかるわね?」
厳しい光をたたえた瞳をこちらに向けて、リナの姉であるルナ店長は言い放った。
「………リナ…さん、とのことですね……」
それを受けとめながら、俺は言った。すると。
「あら、何の事?それ」
ひょうひょうと、店長は言った。
「……へっ……?」
「私が言おうとしていたのは、あなたが前々から言っていた給金についてのことよ。
 やっぱり給料アップは無理そう、って。
 ……そういえば、リナ、あなたと遊園地に行ってから様子が変なのよ。妙に嬉しげなの。
 何があったのか、って聞いても、照れるだけで教えてくれないし……
 ひょっとしてあなた、リナと何かあったのかしら?」
いけしゃあしゃあと、そう言ってくる。
…………は、ハメられた……
「で?何があったのかしら、ガウリイ?
 まさかうちの可愛い妹に、手を出したなんてことないわよね?」
……バレてる……絶対バレてる………
ここで下手な受け答えをしようもんなら、五体満足では帰れなくなる。
「……………はい」
俺は今までになかったくらい頭をフル回転させて、答えた。
「会って2週間もしないうちに、都合が良いとは思いますが……
 観覧車で……キス、しました。
 それで……降りたあと、俺の気持ちを伝えて……リナさんも、俺を好きだって言ってくれて……
 ……ムシの良い話だし、なし崩しって言われればそれまでですけど……
 その……俺達は、愛し合って…ます」
……………多分。
なんてこと言ったら殴られるに決まってるので、最後の『多分』は心の中で呟くに留めた。
すると店長は、ふぅ、とため息をつくと、
「――リナは見ての通り、障害を持ってるわ。
 そして……あの子は、病気も持ってる。悪性と決まれば、永くはないわ」
「……リナから、聞きました。病気のことは」
「じゃあ、なんであの子と一緒にいるのかしら?」
「…え?」
「どうして、あの子と一緒にいるの?
 障害の事も、病気の事も知ってる。それを覚悟でいるの?」
リナと同じ事を言う。……どういう事なんだ?
「あの、よくわかりませんけど…
 俺は、リナと一緒にいたいからいるんです。障害だとか、病気だとか……関係ないんですけど……
 俺は、リナと一生一緒にいたいって思ってます」
「………これからの一生を左右されるのよ?
 障害者と一生を共にするってことが、どれほど辛いのか、あなたわかってないでしょう!?」
「……確かに、わかってません。
 ドラマとかでよく見るような、あんな都合の良い展開にはならない、と思ってる…それぐらいです。
 でも――
 俺は、リナが好きですから。どんなに辛い思いをするとしても、リナと離れるのよりはマシだと思います」
「………たかだか1週間ちょいで、よくぞここまで恋愛バカになれたものね……
 ある意味、尊敬するわ」
どう見てもバカにされているのだが、ここは一応愛想笑いを浮かべておく。
「……あ、ありがとうございます……」
「―――ところで。
 もう1度聞くわよ。
 あの子と、生半可な気持ちでつきあえると思ったら大間違い。
 面倒くさくなったらポイ捨てすればいい、なんてことも思わないことね。そんあんことしたら、私が許さない。
 あの子に対するボランティア精神もNO。そんな同情心でつきあってれば、いずれはあの子にバレるもの。
 ――それらを踏まえて――
 本当に、リナと一生を共にしたいの?」
「はい」
きっぱりと、俺は言った。
「……結婚するつもりは?」
「リナも望んでくれるなら」
「自分の都合が通る生活じゃなくなるわよ。
 すべてをリナ中心としなければならなくなる」
「それはたぶん、俺にとって最高の生活です」
「子供も作れないわよ」
「リナがいれば、それで良いです」
「……リナを、本当に愛してる?」
「愛してます」
はふ、と。
店長は再びため息をついた。
しかしそれは、さっきのような困ったため息ではなく――
「――私の負けね。
 いいわ。リナが貴方を選んだのなら、もともと私に反対する権利はなかったんだし。
 ……リナを頼んだわよ」
「…はい」
胸の奥が、少し熱くなるのを感じた。




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