Beautiful Life
― 1 ―


作:ユキさん



俺が彼女と出会ったのは、思いがけない邂逅で。


俺が彼女と出会ったのは、まさに運命づけられていて―――












「……ここがその図書館か?」
俺はヘルメットを取りながら、目の前にそびえたつ白い建物に目をやった。
ぼさぼさになった髪の毛を手ぐしで梳かしながら、昨日のゼルの言葉を思い返す。
――ルークがついに、女に惚れたらしい――
はっきり言って、無茶苦茶信じ難いセリフだった。
だって…なぁ?あのルークが、だぞ?
1人の女に固執するなんてこと……いつものルークを見る限りじゃ、有り得そうにない話だ。
……まぁ、人のこと言えんけど……俺……
しかしその情報は、まぎれもない真実のようだ。
いつものルークならほとんど仕事を適当にやっているのに、昨日は人が変わったように真面目だった。
どうやら、その女になんか言われたらしいが……何者なんだ?その女……
まぁともかく、一体どこから仕入れてきたのか、ゼルの情報によると、ルークの惚れた女とやらはこの図書館で司書をやっているらしい。
そこで俺は、休暇を利用して野次馬しに来たのだが……
……しっかし……こんなくたびれた図書館の司書なんて、どこがいいんだぁ?
よっぽどの美人とか?
それだったら、まぁわかる気もするが……
あのルークに髪の色を変えさせるぐらいだ、よっぽどの女と見た。
……言っとくが、別に手ぇ出すつもりはないぞ。ルークがベタ惚れの女なんかに手を出そうもんなら、俺の命が危うい。
………って俺……誰に説明してんだ……?
バイクに寄りかかるような体制で座り、図書館を何気なく眺めながらそんなことを考えていると――


パーッ!パパーッ!!


「ちょっとぉ〜!!何度言ったらわかるのよ、どいてってば!!」


クラクションに負けないくらい元気な声が聞こえた。
な…なんだぁ?
そちらの方を振り向けば、ワインレッドの車。
運転席側の窓から、女の運転手が顔を出してこちらに向かって叫び――
………ってオイ……あれは……
俺は運転席側に歩み寄ると、運転手に向かって言った。
「おい……いくらなんでも、まだ運転していい年齢(トシ)じゃないだろ?中学生は」
ぴしぃっ!!
その瞬間。
何かがキレたような音がしたが……なんだ?
目の前の女子中生はなぜか震えてるし……
「………あ…あんたっ……」
地を這うような声。な、なんだっ?
「あんた…………
 ……あたしはもうハタチよっ!!」
「えぇぇぇぇぇぇえええぇぇぇぇぇえぇぇえ!?」
俺は絶叫した。
は……ハタチっ!?ウソだろ……!?
「……そんなあからさまに驚かれると、かえって清々しいわね……
 とにかく。わかったらそこ、どけてよ」
「え?そこって……」
「そこのバイクよ。ど・け・て」
……なんでどかす必要があるんだ?
断っておくが、確かに俺がバイクを停めた位置は彼女が降車する側だ。
だけど、彼女が思いっきり寄せて停めでもしない限り、そこには充分なスペースがある。人1人くらい、簡単に降りられるはずだが……?
「何してんのよ、さっさと……
 ってああっ!やっば〜、早くしないとミリーナに怒られる…!
 ちょっと!さっさとどけなさいってば!!」
彼女の気迫に押され、俺はバイクをどけにかかった。
……よし。ここならどう考えても、邪魔にゃならんだろ。
「さんきゅっ♪」
満足そうな顔で車を操り、彼女は車を停めた。
やることもなかったので、俺は何気なく彼女を見つめ――
「…………え?」
そして、驚愕した。
彼女が運転席に座ったまま、後部座席から取り出した物――それは…折りたたまれた車椅子、だったから。
彼女はそれを器用に組み立てると、「よいしょ」と運転席から車椅子に移動する。
なんとなく目をそらしにくくてそのまま凝視していると、彼女とマトモに目が合い――
「気にしないで。ちょっと足が不自由なだけだから」
いとも軽く、彼女は言ってのけた。
……それ、ちょっとってゆーかかなりのおーごとじゃあ……?
「……あ。そうそう……
 さっきから言おうと思ってたんだけど、あんたもひょっとしてミリーナ狙い?」
「へ?」
ミリーナ?
……ひょっとして……
「ミリーナって、ここの図書館で司書やってる…?」
「そうよ。それくらい知ってるでしょ?」
……とすると、それがルークの惚れた女?
目の前の彼女の言動からすると、彼女も司書っぽいが……どう考えても、ルークの趣味じゃないしな。
「………ひょっとして、ミリーナ目当てじゃないの?
 じゃあなんで……まさか、ただ純粋に本借りに来たとか?それはそれで怖いわねぇ……」
いや……もしそのミリーナってのがルークの本命なら、彼女目当てで来たことには間違いないんだが……まぁ、いいか。
「……俺はこれでも美容師でな。
 そういう関係の本を借りに来たんだ」
「美容師?」
きょとんと目を丸くする彼女。
直後、呆れたような表情になると、
「……あんたねぇ……美容師なら、もーちょっと髪の毛ちゃんとしなさいよ。
 そんな伸ばしっぱなしにしてないでさ」
「…これか?」
俺は自分の髪を1房つまんだ。
確かに俺の髪は、そこらをゆく女よりも長いが……別に良いじゃないか。お客さんに、『そこがあなたの魅力よね♪』ってよく言われるし。
「まぁ、別にかんけーないけどねぇ……
 本借りに来たんでしょ?なら、無下に扱うわけにはいかないわね。
 バイクどかしてくれた恩もあるし……
 あたしはリナ。リナ=インバースよ。
 この図書館で、司書をやってるの」
リナ…インバース?
どっかで聞いたような気がするが……まぁいいか。
「俺は、ガウリイ=ガブリエフ。さっきも言ったが、美容師だ。
 ……それより……良いのか、時間?」
――はっ!!
俺の言葉に、彼女――リナの表情が変わった。
「うきゃぁぁぁぁっ!!やばい完全に遅刻ぅぅぅっ!!!
 ……ちょっとあんたっ!!ぼーっとしてないで、さっさと押すっ!!」
「へっ?」
「はーやーくーっ!!」
「はっ、はいぃっ!!」
俺はまたもリナの気迫に負けて、車椅子を押しながら走り始めるのだった。
……こんな所で何やってんだ?俺……



「8分53秒の遅刻です、リナさん」
「あ、あはははははは……」
なんだかクールな女の言葉に、リナは乾いた笑いを返した。
「まぁ、今日は平日ですから、あまり人もいませんでしたけど……
 ところで、そちらは?」
「ガウリイよ。ここの本借りに来たんだって」
「知り合いなんですか?」
「ぜーんぜん。バイクどかしてくれただけよ。
 ガウリイ、こっちミリーナ」
これが、件の『ミリーナ』か……ルークの奴、ハイレベルなのに惚れたなー……
俺は軽く頭を下げた。
「じゃあガウリイ、てきとーに借りて帰ってねー」
そう言って、リナは仕事へと入っていった。
さて……
俺は本を物色し始める。
何か、カットの参考になる本でもねーかなぁ……?
「うーん……」
なんか……無さそうだな……
って、よく考えたら俺、本借りに来たんじゃないような……(汗)
一応、ここに来た目的は達成したんだよな。
………ま、いーか。なんか借りてこ。
「あ、ガウリイ。
 ちょーどいいや、ちょっといい?」
と、突然呼ばれた。
「リナ?なんだ?」
「あれとってくれる?とどかなくて……」
『あれ』とは、本棚の一番上に積まれている本の束だった。
「いいぜ。
 よっ……と」
無駄に高い俺の身長が、こんな所で役に立つとはな。
「ありがとっ♪
 便利ね、あんたって」
……それは褒め言葉なのか……?
まぁ、悪い気はせんが……
「そーだ。
 美容関係の本探してるんでしょ?
 うちの姉ちゃん、そーゆーとこに勤めてるんだ。
 何冊か家にあるんだけど……読む?」
「え?」
うーん……今の俺のカットは受け良いし、別に読まなくてもいいのだが……
…………まぁ、読んでおいて損はないよな。
「そうだな。じゃあ、今度読ませてくれ」
「うん♪
 いつでも暇な時に、ここへ来てよ。本、持ってきとくから」
暇な時……ねぇ……
……あったっけ、ンな時間(汗)
まぁ、いざとなったらなんか言い訳すりゃいいか…
「……あんたみたいな奴、けっこー珍しいわよねぇ……」
突然、リナが呟いた。
「へっ?」
リナは本棚を整理しながら、
「たいていの奴ってね、あたしの事興味本位で騒ぎ立てたりするのよ。特に、男はね。
 高校生のとき、卑猥な野次とかよく飛ばされたし……
 だから、あんたみたいな…無関心なタイプの奴?が珍しいのよ。言い方悪いけどさ」
「そーゆーもんか?」
「そーゆーもん。
 よくドラマで、あんたみたいな主人公がいてさ。それ見るたんびに、あたし、『こんな奴、実際にいるわけないでしょ』って思ってたんだけど…いたのね」
こんなこと言われたのは初めてだから、なんだかガラにもなく照れてしまう。
「あ、あとねー。
 ついでだから、あっちの本棚のも取って♪」
「……なんで俺が……?」
「だから、ついで。
 ほーれ、押せ押せ〜っ♪」
「……はいはい」
俺は苦笑しながらも、なんか妙に穏やかな気持ちでいたのだった。





そして。


リナの言う『美容関係のとこに勤めているうちのねーちゃん』が、うちの美容院の店長と同一人物であると発覚したのは、その3日後だった……




貰いモノは嬉し!へ戻る